寄港地 その7(3)
続きです。
あー、南極から出るのは、いつのことやら……
翌朝、俺達は雪上車を連ねて山へ向かうルートを取る。
引き裂かれたグループの雪上車に残っている食料や装備品が無いか探したが、全く何も残っていなかった。
恐らくだが、雪上車が襲われた時、荷物から何から、使えそうなものは全て奪っていったのだろう。
「お客様、これからの計画ですが、何かアドバイスをいただけると……」
そう、ツアー担当から言われて、俺はいくつか提案する。
「ミ・ゴに襲われたら、抵抗も無駄だと思う。ショゴス、あるいは古のもの・旧支配者たちなら、ある程度の交渉は可能だろうが。ただし、交渉と言っても、それは金の交渉ではない。古のもの・旧支配者たちならなおさらだ。ショゴスや古のもの・旧支配者は、知識や情報を欲している。対価となりうる情報・知識があるのなら、彼らも捕虜を返してくれるかも知れない……まあ、知識や情報と言っても、この世のありきたりの情報や知識ではない。ただし……」
ここまで言うと、他の皆もうすうす気づいただろう……
彼らが欲する情報や知識というのは、この世界のものじゃない。
人間が本来、知るべきじゃない世界の知識や情報だ。
「そ、そんなもの、私らが知るはずのない情報・知識ですよ。この場にいる人で、そんなものを知ってる可能性があるとするなら……お客様くらいのものでは?あるいは、攫われた方々という可能性もありますが」
そう、そんな邪神に関する知識など、人間の魂すら真っ黒に汚しかねないもの。
ネクロノミコンと言われる狂えるアラブ人が書いた闇の解説書など、読むことは古代アラブ語に精通した者なら可能、しかし全て読むと正気をなくすと言われてるが、アメリカのミスカトニック大学にある禁書図書館に行けば、原書ではなくとも、一部の果てしない深遠な知識だけ抜き出して編集した抄本なら、禁書図書館内でのみ閲覧可能(何処まで読めるか?は個人により差があるため、完全な自己責任で読もこととなるが)
「そうだ……人間の知って良い情報や知識ではない……完全理解したら、発狂するか自殺するしかないというものだ……」
俺が、そう呟くと、皆、黙ってしまう。
とは言え、捜索は続けねばならない。
俺達は、二日後には南極最高峰といわれる山の裾野へ来ていた。
「お客様、ここからは、いよいよ邪神たちのテリトリーということですね?」
ツアー担当が青い顔をして聞いてくる。
俺はコクリと頷く。
「巡回番という立場のミ・ゴが襲ったのが、オプショナルツアーの面々だったようですね。で、ここからは拠点にいるショゴスや古えのもの・旧支配者が出てきてもおかしくない」
俺が言うと、担当は更に顔色を青くする。
「それでは……警備を厳重にして、警戒を最高度にするということですね。分かりました」
俺は、言わねばならないことを口にする。
「予想はしているかも知れないが、奴らに通常兵器は効かないと思っておたほうが良い。ミ・ゴやショゴスまでなら劣化ウラン弾が有用かも知れないが、古のもの・旧支配者クラスが出てくると無理だと思ってくれ」
何で劣化ウラン弾が有効かって?
最強にして万物の根源、闇の結界に閉じ込められているというアザトースが原因だ。
万物の根源ということは、つまりはアザトースとはエネルギーの塊。
アインシュタインのエネルギーと物質の相互法則(エナジー イコール エムシースクエァって公式だ)により、万物はエネルギーに集約される。
でもって、物質の中でエネルギーを放出してるものってのは……つまりは、そういうこと、放射性物質だわな。
特にウラン系統など、強い放射線を撒き散らしながらも物質として確たる存在のものは、アザトースの力を強く受け継ぐと言われてる(こいつは、通常の科学実験とかじゃない方法、邪神眷属に生体実験やって確認されてる……おぞましいとは俺も思うが)
アザトースの眷属などあり得ないので、ウランや放射性元素を他の邪神の眷属(さすがに邪神そのものには効かないのは確認済)に作用させると、クトゥルー系統でもハスター系統でも、クトゥグア系統でも眷属なら有効。
クトゥグア系統は、有効だが他の邪神眷属より耐久力があるってことくらいか。
って、これは俺がミスカトニック大学の大学院生だった頃に立ち会った、禁忌と呼ばれる部類の実験により確認された事実だ。
放射性元素ってのは、そこまで放射能が強くなくても有効なのは確認されているので、俺は劣化ウラン弾が頼りになると言っている。
俺自身はどうするか?
まあ、劣化ウラン弾よりも効く呪文も知っているし、同様のアイテムを持ち歩いているので俺に銃は不要だったりする。
邪神世界の生物に対しては、基本的に精神生命体である部分が多いため、物理より呪文やアイテムが効くのが当たり前の常識なのだから。
一応、ミ・ゴに対しては古きもの・旧支配者の印を刻んだ護符(小さくとも効果は抜群)があれば大丈夫なので、俺が捜索隊にいる限りはミ・ゴが襲ってくることはないと思われる。
俺を含む捜索隊は、べースキャンプを設置し(予備の護符アイテムをキャンプに設置していくのは忘れない)、その後、山へ行くグループと、ベースキャンプを守りホテルとの定時連絡等を密にする留守番グループとに別れて行動する。
俺達、捜索グループは山へ行くため、雪上車で引いてきたスノーモビル数台に二人づつ別れて搭乗。
ここからはスピードが要求されるので、これで山を登れるだけ登る予定。
さすがに最高峰だけあり、晴れている今の状況でも山頂が見えない……
嫌な予感に襲われながら、俺達は体力に物を言わせて、一気に山腹を駆け上がっていく……