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寄港地 その7(2)

久々の、このオムニバス連作の続きです。

こういうの書けるのも大長編スペオペが終わったからだよねー(笑)


俺が南極大陸に宿泊するようになって、これで1週間。

この建物自体、グレー領域に建てたのかも知れないと思うと、泊まってて大丈夫か?とか思ってしまうが、どうせここを利用するのは世界でも一部の「大金持ちで特殊な趣味・嗜好の持ち主」ばかりなので、きっと裏金で世界の情報機関や政府を黙らせているのだろう。


俺自身、このツアーには似合わん異物だと思うが、それにしても行き先そのものがミステリーな世界一周ツアーなど人気になって定期就航されてるらしい……

世も末だと本気で思う。

白夜の世界で日が沈まない早朝、俺の泊まってる部屋のドアが激しくノックされる。


「お客様!ご相談があります!起きてください、お客様!」


名前を呼ばないのは、せめてものツアー会社の良心だろうか?

こんな黒に近いグレーなツアーでツアー担当から名前を呼んでしまえば後からどんな不幸が襲い来るかわかったものじゃない。

俺は、うつらうつらしてた頭をシャッキリさせると、おもむろに部屋のドアを開ける。


「ああ、いらっしゃいましたか。すいません、お客様に是非とも、お願いがあってまいりました!」


この一言を聞いた俺に、ある疑念が湧き上がる。

俺に直接、頼んでくるということは……


「とりあえず、部屋へどうぞ。詳しいことをお聞きしたいので」


ということでツアー担当を招き入れ、何が起きて、俺に何を頼みたいのか詳細を話してくれというと、


「……ということで毎日の定時連絡が来なくなり探検ツアー隊のGPS信号すら見失って数日経ちます。通常のツアーでしたら誓約書を書いてもらっているのでツアー会社からの救援隊や捜索隊は危険すぎて出さないのですが、このツアーだけは別なんです!頼みます!捜索隊にご参加をいただけませんでしょうか?!これ以降のツアー料金はお返ししますし、場合によっては追加報酬も出します!」


俺の疑念を口に出す。


「破格の申し出だと思いますが、そこまで金と人員・時間をかけることですか?無謀で無茶なのは、出発前から分かってたんでしょ?」


ツアー担当は渋い顔になる。


「本当なら誓約書を盾に会社も捜索隊を出さないはずなんですが……このツアー客だけは別なんですよ……ここだけの話、オプショナルツアーの参加者の一人だけでも死亡が確認されてしまうと全世界レベルの金融界で衝撃どころの話じゃなくなるような方々ばかりなんです」


ああ、そういうことかと俺も納得。

くしゃみしたら小国の年間予算くらい吹っ飛びそうな爺さんや婆さん(とは限らんと思うが)ばかりなんだろうな。

誓約書があろうがなかろうが、少なくとも生死だけは確認しておかないと、ってなことだろう。


「……分かりました、捜索隊に参加しましょう。人命もかかっていることですし」


ツアー担当は安堵と感謝で本当に泣いてた。

本社からの指示は絶対なんだろう、これほどとなると。


数時間後、雪上車を数台連ねた捜索・救助隊がホテル前に設置された指揮所から動き出す。

とりあえずは最後に確認されたポイントを目指すという。


「雪上車では最後に確認されたポイントまで300Km少々ですね。今は冬ではないのでブリザードとかは無いのですが、氷が割れたクレバスには十分な注意をして走ります。一応、ミリ波レーダーとGPSで周囲を確認しながら、できるだけ早く現場へ到着する予定です」


ツアー担当が説明してくれる。

もちろん担当も俺も使ってるのは英語。

幸い俺は日本語と英語はネイティブレベルで使えるので他の言語に対応する時以外、首にかけてるガジェットは不要。


「そうかい。じゃ、俺は一休みさせてもらう。野営するとか一時休止時は起こしてくれ。現地で何が起きるか分からんので体力を温存する」


そう言って俺は喧しい音を立てる大きなディーゼルエンジンを動かす雪上車の狭い車内にもかまわず、短時間睡眠に入る。

担当は呆れ返っていたが、それでも、いざとなったらと考えたのだろう、文句は言われなかった。


3時間ほど経っただろうか。

俺は担当に揺り動かされて目を覚ます。

担当言うには、ここでビバークするとのこと。

まあ、外で過ごせるような地域ではない(零下35℃の外気温)ので、当然に車内で過ごすのだが。

あと半日ほど走れば最終確認できた地点へ到着できるとのこと。

温かいコーヒーを飲みながら俺達は情報を共有する。

それによるとターゲットの老教授含めた南極山脈観光ツアーの一行は南極でも一番標高が高いという山へ向かったと。

その途中、定期連絡も途切れ、GPS位置発信機まで壊れたのか信号をロストしたとのこと。


「とりあえず、何が起きたのか現場を見なければ何もできないので、位置発信機の信号が消えた地点まで行くんです。まずは、それからですね」


担当が、そう教えてくれる。

まずは、このまま雪上車で走るだけか。

その夜は保存食とコーヒーで腹を満たし、俺達は朝まで眠ることにする。

夜半すぎ、風の音か、それとも何かの生物の雄叫びなのか分からない音が数10分ほど続いたが、それだけで後は時折り吹く冷風の音だけで何もなかった。

次の日、ようやく昼すぎに最終確認地点へと到着した俺達。


「……こりゃ、何か物凄い力で引き裂かれたとしか思えないんだが?」


現地の惨状を見た俺の感想だ。

担当も他のメンバーもうんうんと頷く。

雪上車なので、もともと頑丈なボディに大型トラック並のディーゼルエンジンを積んだ、いわば鉄の塊。

少々の衝撃や衝突くらいでは凹みも出来ないくらい頑丈な車なんで、こんな紙のような引き裂かれ方をするなんて考えられない。


「えーっと……我々には何も思いつかないんだが……君には何か思うところがあるような?」


捜査隊のリーダーらしき人物が俺の方を向いて、そう聞いてくる。

そう、俺には心当たりがある。


「そう、だね。思い当たるのはミ・ゴか。力が強いので、こうやって雪上車を破壊するのも可能でしょうな。でも、ミ・ゴが人類を直接殺したとか攫ったとかいう話は聞いた事がないので、ツアー参加者たちを連れ去ったのは……南極なのでショゴスが関わっているかも知れない……まあ、南極というと真っ先に思い浮かぶのは「古のもの、旧支配者」ですか……彼らなら、ツアー参加者の脳内データを欲しがっても理解できるが……」


「ほう、様々な外法の知識をお持ちのようで。君が、このツアーに参加しなかった理由は?」


リーダーが聞いてくるのもわかる。

俺が裏で糸を引いているのかと思ったんだろう。


「かなり危険と言われたのと、金額だね。このオプショナルツーは高すぎた」


「その言葉で君がツアーの常連参加者ではないと分かるね。ただし、裏で動くタイプじゃないのも確かなようだ。まあ裏の顔を持ってる人ばっかしいる、このツアーなので君みたいな参加者も毎回少しはいたりするんだが」


そういうことか。

俺は、こんな変なミステリーツアーが毎回行われる理由について納得がいった。

行くところも、何ヶ月かかるかすら事前にわからないミステリーツアー(かなりな高額)に参加したいと言うやつが常連以外にも口コミで増えてるんだろう。

もしかして日本や欧米、その他の国の情報部や一部機関(軍・闇関係)からの参加もあるかも。

まあ、そんなレベル高いエージェント様たちが俺なんて興信所まがいの探偵事務所の、それも探偵助手に接触してくるはずもない。

俺達は、そのまま惨劇現場を一日中歩き回り、失踪したツアー参加者たちの行方を示すものはないかと探し回った。

結果……


「少し遠くから見て分かったことなんだが、巨大な足跡が、この辺りにある。足跡は向こうを向いてた」


リーダーが指差すのは南極最高峰と言われる山の方向。

あと、巨大な力で引き裂かれた雪上車の残骸から何かの皮膚のようなものが見つかる。

ペンギンや白熊のような生物とは思えない、テラテラした輝きを持つ未知の生物のもの。


明日は朝から、あそこの麓目指して進むようだ。


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