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寄港地 その7(1)

まだまだ続きますが、ここで切ります。


今日も船は大洋の中を進む。

次は何処が目的の港なのか、もう俺にも分からない。

この前に停泊したのが南米だったが、そこから一週間以上、寄港してない。

ちょいと気になるのは数日前まで異様に暑かったのが今では涼しいを通り越して肌寒いくらいだということだ。


この船、世界一周という前提で就航しているようなんだが何処へいくのかは全くの謎。

最終目的地は最初に出港した日本の港なんだろうが、そこまでの航路が全く示されないという、ミステリーツアーもここに極まれりという、とんでもないもの。

これで参加費用が***万(日本円)だと言うから世の中には暇な奴らが多いもんだと俺は心底、実感している。


お、船員たちが乗客に対して何かを配り始めた……

何だ?

救命胴衣のようにも見えるが、それだけではなさそうだ。

俺のところへも一着分、持ってきたので受け取る。


「これは?救命胴衣と……冬用のコート?」


疑問が湧いたので聞いてみる。

数日前まで気温40度にも達する暑さだったのにな。


「はい、次の寄港地には、こちらが欠かせませんので。ちなみに次の寄港地は一ヶ月ほどの滞在になりますので。船に残られるもよし、こちらが手配しましたホテルに滞在されるもよし、ご自由にお過ごしください」


何か嫌な予感がしたのは俺の本能か?

まあ、命の危険は低そうなので、とりあえず俺はホテルで過ごしたいと申し出る。

港への到着時に変更も可能らしいが寒い中、わざわざ狭い船室に閉じこもる趣味もないんで。


その数日後から天候が急変。

波が荒くなってきたのと涼しすぎるくらいの風が吹き付けるようになってきた。

船が巨大なので、そうそう揺れが大きくなることもないのが救いだが、これ以上、天候が荒れると……


それから数日後、俺の心配が現実に変わる。

涼しいを通り越して寒い、いや、冷たい真冬の風が吹き付けてくるようになり海も相当に荒れてきた。

一部の船旅に慣れていない乗客たちは船酔いに苦しんでいる。


もう数日経つと乗客の半数以上が船室から出られないくらいの波が立つようになり、船上デッキへ出ることはお控えくださいと放送が流れる。

バカでかい船の最上部にある船上デッキにまで波が来るようになって波にさらわれる危険があるからなんだそうだ。

ちなみに船内通路も波の衝撃で普通に歩けないような瞬間もあったりする。


俺?

俺には、このくらいは屁でもない。

このくらいの揺れで歩けなくなるような鍛え方、修羅場はくぐってない。

ちなみに今の状況で毎食、船内のレストランへ足を運ぶのは俺くらいのもんだろう。

船員やレストラン関係者には感謝されるが普通は歩けませんよと感心される。

まあ食欲も落ちなかったのは言うまでもない(この揺れで、よくもまぁそれだけ入りますねとレストランのコック長が言ってきた。鍛え方が違うんでねと俺が言うと、そうでしょうなぁと言ってた)


大荒れの海域を通過すると途端に波が静かになり、代わりに冷たいどころじゃない寒風、いや、細かい氷を含んだような風が吹き付けてきた。

もう気温は零下を遥か下回っているだろう。

俺も他の乗客も配られた冬用装備に着替えていた。


これで俺にも次の寄港地が何処か推測できる。

こりゃ、地の果て……

地磁気利用のコンパスが役に立たなくなる地点を目指していると見て間違いないだろう。

まあ、さすがに大陸の縁に客船を停泊させて、そこで降りる客や船内に留まる客の対処をするんだろうが。

寄港期間が一ヶ月というのも最低期間ということだろう。

季節や気候によっては氷に閉ざされてしまい二ヶ月以上、港から出られなくなることも普通にあるそうなんで。


「お客様にお知らせします。明日、本船は次の寄港地に到着します。下船予定の方には本格的な越冬装備もお渡ししますので、下船予定の方は、その都度、お申し出ください」


越冬と来たか。

こりゃ間違いない。

次の寄港地は南極大陸だ。

さて南極大陸とは言うものの、デカイからなぁ……

何処の港へ停泊するのか。

下手すりゃ、それこそ春になって氷が溶けるまで港に閉じ込められることにもなりかねん。


何処に着くんだろうかと思ってたら、


「乗客の皆様、あと一時間で目的の港へ到着いたします。下船される場合は、くれぐれもお足元に気をつけてください。ステップが凍っている場合もありますので行動は慎重にお願いします」


ふーむ……

何処の国にも知られていない秘密の不凍港でもあるんだろうか。

あるいは邪神のうち、いずれか神の加護でも得ているのだろうか……

あり得るとすれば邪神の加護なんだろうが、こんな絶大な力が動いてしまえばミスカトニック大学の裏の情報部が掴んでないはずが……

もしかして、その情報を掴んでいながら悪意のない邪神だからということで対処してない可能性もあるな。


それから二時間後、俺は船を降りていた。

予想通り、ターゲットの爺さんも下船している。

予想と違ったのは、ターゲットが他の乗船客と組んで、何処かへ行く別のオプションツアーへ行こうとしていること。


船員に聞いてみたが、あのオプショナルツアーは、ちょっと特別なものなんだと。

追加料金がバカに高い、南極大陸の奥深く進むツアーなんだそうだ。


「え?今でも相当な寒さなのに、更に奥地へ行くって?それ、かなり危険なんじゃないか?」


という俺の質問に、言いにくそうな小声ではあるが、


「雪上車と、特別な航空機を用意するけど、それでも凍死の危険なしとは言えないんだよなぁ……こればっかしはモノ好きとしか言えないんだよ、俺達も」


と、俺にだけという事で教えてくれた(俺は他のツアー客のように、船員や従業員をバカにしないからな。まあしかし、それもこれも、この世界一周ツアーの料金のバカ高さが原因だぞ。こんなものポンと支払えるのは、よほど金銭的に余裕の有るやつだけだ……俺は例外だが)


ま、とりあえず、俺はオプショナルツアーのパンフレットだけ貰って下船する(代金を払うのは可能だが……何かとてつもない嫌な予感がして、参加はしないでおく)

ツアー会社が確保してるという、ありえない状況下での高級ホテル(南極にホテルなんて聞いたことがないし、例の南極条約で一般人の宿泊できるようなホテルなんて建てられないはずなんだが?)


俺は、ホテルの一室を確保すると、とりあえず食事を終えて、シャワーしかなかったが熱い湯を浴びて久々の揺れないベッドでの睡眠を味わうのだった。


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