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寄港地 その6

まだ続くんだな、コレが(笑)


巨大な観光船は、今日も海の上。

俺も暇を持て余す。


とは言え、報告書は書かねばならないし、それを仕上げたら送信しなきゃいけない。

幸運だったのは、この船には強力な通信装置が備え付けられているらしく、普通に船内でのネット接続には支障は感じられない。

下船したら別なんで、けっこう使い勝手は悪いんだが、まあ仕方がない。


「明日、寄港します。下船したい方は、お申し付けください」


いつもの通り、寄港地の事は何も言わない。

サプライズも、ここに極まれりということかも知れないが、この頃は慣れてきた。

とは言うものの、この船は航路も一定ではなさそうで、あっちこっちとフラフラしている様子。

まるで……


「まるで、邪神に関する遺跡や痕跡、関係者など揃ってる地域を巡る世界一周ツアーの様相を呈してきたぞ、これは」


俺は、独り言のように呟く。

今まで寄港したポイントは、必ず邪神や、それに関係する神話や古くからの言い伝えなどが残されていて、邪神の関係者もいた。

あっちこっちで、そのポイントは潰したり、後でその筋に報告してもらうように所長に伝えておいたんで、その活動は潰えたり小さくなっているはずだ。


まあ、それにしても、これは本当に世界一周ツアーかね?

あまりに邪神や「古きもの」に関する国や地点が多すぎるんだが。

ま、それを言うなら我が日本など古き神々の伝承が掃いて捨てるほどあるからな。

一神教の新しき神に比べて明らかに強い力を持つ神々の痕跡など、日本のあちらにもこちらにも、はっきり残っている。

信じるか信じないか、それだけのこと。

明らかな証拠を突き付けられようとも信じないやつは信じない。

それこそ邪神本体が出現して、頭からバリボリと食われる寸前まで、そいつの頭の中に邪神などというものが存在することはないだろう。

人間ってのは、そんな生き物だ。


日本人が例外に近い生き物なんだろうなとは、実際に、そんな案件を数多く担当させられた俺の実感。

とかく、日本人というものは「私は、神は信じない」などと言いながらも、初詣に行って神様に柏手を打って礼拝するし、ご先祖には手を合わせて、墓や仏壇に対して拝む。

それこそ、大自然そのものに対しても威厳や崇拝の対象とするし、それこそ八百万の神という言葉もあるのが日本。

西洋の神様も、いつの間にか多神教の一つとして自然に受け入れてしまう、そんな宗教的な奥深さがある民族など、他には見たことがない(まあ、昔にはキリシタン弾圧とかやって、隠れキリシタンを大量に生み出したりしたんだが)


「後、数時間で次の寄港地に到着いたします。次の寄港地では、どなた様もご自由に下船して、出港までホテル等で過ごせるようになりましたことを、お知らせします」


お?

珍しいな。

えーっと……

この前が合衆国の、例の悪魔の岩礁付近だったんだから……

航海時間からすると、次の寄港地は、南アメリカ大陸かな?

南米なら、学生時代のフィールドワークで、あっちこっち歩き回った。

まあ、実際には軍の払い下げジープで走り回ったんだが。

あの頃は良かったなぁ……

ガソリン価格が、1ガロンで2ドル切ってたんで、日本で言うリッター50円切るくらいか。

あれで俺は思ったね。

アメリカで、ガソリン垂れ流しに近いアメ車たちが、あれだけ自由に走り回れるのは、これだけの物資に恵まれてるからなんだと。

あの感覚は、アメリカで実際に暮らしたことがないと分からないだろう。


で、あんな金満国家に比べたら、日本など貧乏の極みだというのも、あながち間違っちゃいない(精神性では、どっちかな?と思うが)

南米国家群は、北米に比べると貧しいが、それでも日本よりマシ。

すぐ近くに、金に溢れてる貿易相手があるんだから、そんな貧しいわけがない。


まあ、それも、全てまとめての話であり、そりゃ貧富の差はデカイものがあり、大邸宅しかない街があると思えば、数百軒が路地すら無い空間に詰め込まれて人間がひしめき合ってるスラム街なんてのも、実際に暮らしてたことがある俺には肌で貧富の差が分かってる。

隣に寝てた奴が、朝起きたら、扉開けたすぐ近くで死体になってたという話が実際にある国が多いのが南米だ。


おっと!

独り言言ってたら、どうやら港についてたらしい。

投錨作業中なので、後一時間も経たずに下船許可が出るとのこと。

いつものことなんだが、この港の名や、国名は教えてもらえなかった。


ターゲットも下船するようで、俺は少し遅れて下船する。

まあ、ターゲットの行きそうなところは察しがついているので、あえて尾行はせず、今回は俺のほうの要件をやっつけよう。


港の近くにあるタクシー乗り場へ行くと、もう大半の乗客は出ていった後。

稼ぎに出遅れたようなドライバーが、袖を引いてくる。


「お客さん、あの船の乗船客だろ?たまにこっちの女を抱いてみないか?」


おいおい、いくら見かけが東洋人だからってなぁ……


「すまんね、肉欲の方は間に合ってるんだ。それより、古い伝説や神話、昔からの言い伝えやらを知ってる人たちに会うには、何処へ行けば良いかな?」


そう答えると、相手は驚いたように、


「オー!あんた、古代宗教や文明の研究者だったか!そりゃ失礼した。そんな要件だったら……ヘイ、マルコ!あんたにピッタリのお客さんだぜ!」


マルコという運転手を紹介され、俺は紹介者へチップを支払う(少し多めにしたら、大喜びしてた)


「マルコさん?俺は古代の言い伝えや神話、古代文明などを調べている研究者なんだが。そういう話が聞ける人に会いたいんだが、知ってるかね?」


もう、ダイレクトに聞く。

この時間に、来るか来ないか分からないような奇特な趣味を持つ客を待つようなタクシーなんて、その筋の客を待ってるようなもんだろうから。


「へい、旦那。昔、巫女をやってたババアを知ってます。この国の、古い古い言い伝えや、今では廃墟になってしまった街の言い伝えなんかも知ってるとのことで」


当たりだな。


「じゃあ、その家?へ行ってくれ。チップははずむぞ。多分、俺の探してるのは、その婆さんだ」


ニヤリと笑った俺の口には、なんとも言い難い皮肉や笑いがこびりついていた。



「さて、と。日本の土産が気に入ってくれたようで、一安心。俺が聞きたいのは、この町や国に伝わる伝説や言い伝え、神話だ。それらについて知ってることを教えて欲しい。特に、ここへんだと、ギルマンとか、生ける死者のゾンビとかだね」


日本のアニメキャラクターを圧縮したような、SDボディとかチルドレンズボディとか言う珍妙な小型人形やらソフビ人形やらを持って来たら、なぜかムッツリ婆さんのツボにハマったようで、何でも聞いてくれと喜び勇んで話してくれようになった。


「ああ、良いよ。じゃあ、儂の知ってる神話から話して聞かせようかね……それは、遥か雄大なアマゾン川から来たと言われとる……」


タクシー案内所で、ここは南米だと言われて、カマかけたら大当たりだった。

学生の頃なら、思わずヨダレが出そうな神話や言い伝え、口伝の山だった。

特に、ギルマン(半魚人)のことや、ゾンビの神話についても話してくれたのは嬉しい誤算(宗教的な話に密接するんで、こういう秘儀に近いことは、地元の者以外には話してくれないのだ)だった。


あまりに多くの情報が得られたため、俺は昔、巫女をやってたという婆さんの家の近くに宿を取り、多くの情報を聞いてメモや録音ファイルにしていく。


数日後、そろそろ船に戻らねばならないので、婆さんの家を辞することとなる。


「ジャポネスよ、そなたは儂の一番弟子に近い存在となった。秘儀の事を、こんなに他人に話したことはない。アマゾンの神々の守護がありますように……」


そう告げると、婆さんは俺の額に右手を当て、何かの呪文らしきものを唱える。

俺の額が一瞬、熱くなり、そして熱さは消え失せる。


「ありがとう、お婆さん、いや、師匠か。貴重な話を、ありがとう」


「いやいや、一番弟子なら当たり前じゃ。忠告しておくぞ、弟子よ。そなたが、この家を出ると、善なる神々に歯向かう者たちが邪魔しに現れるじゃろう。しかし、恐れることはない。そなたには神々の祝福と守護がある。蹴散らして行くのじゃ」


俺は、婆さんに多額の礼金と、最大の礼をもって、家を辞する。


俺をここに連れてきてくれたタクシーには、予約として今日、迎えに来てくれと言ってあるので、待機所で待っていてくれた……

ただし、他にもいた。

こっちは、婆さんの言った「善神に歯向かう者たち」だろうな。


「お待たせ。船に……向かってもらう前に、邪魔者を片付けるか」


運転手に興味はないとばかりに、俺だけを目指して襲いかかってくる暴漢達。

その目には、正気の光はない。

操られているのか、それともゾンビ化されたのか。

俺には判断がつかないが、それでも殺しにかかってくる奴らに対して無抵抗はあり得ない。


「そりゃ!」


正拳突きにムエタイキック、飛び蹴りに……

いつの間にか、俺の手には細長い武器が。

ああ、これは無意識に奪いとった暴漢達の武器か。

木の棒みたいなものだったが、妙に固くて、その割に柔軟な、棒術で使うような長棒。


「こりゃ、有り難いね。こういうのは大得意なんだよ、な!」


当たるを幸い、暴漢たちをなぎ倒す。

暴漢たちは10名ほどいたが、ものの数分で地面に倒れ伏す。

骨も折れてるだろうが、ナイフやマチューテ(斧)持ってる時点で正当防衛だ。

不思議なマジックを見たような運転手を促して、俺は船に戻る。


次の日、船は出港。

俺は、報告書を書き上げて、所長へ送る。


「ちょっと危なかったが、お前なら大丈夫だと信じてたよ。ちなみに、報告書にあった神話や言い伝え、口伝の最新情報は、ミスカトニック大学の方へも流しておく。こいつは共有情報レベルのものだからな」


所長からの、ちょっと誇らしげな電話を貰い、俺は恐縮する。


船は、徐々にスピードを上げつつ、南アメリカ大陸を下っていく……

次は、何処の港へ行くのだろうか……


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