寄港地 その5
まだまだ終わりそうもない。
いっそ、シリーズ化するか?(もうなってるという話も(汗))
船は、数日後、寄港する。
「おや?この日数だと、もしや……」
例によって、寄港地も国名も知らされなかったが、こりゃ間違いない。
寄港したのは、エセックス州のキングスポート。
ただし、こんな巨大な観光船が停泊できるほどの規模がある港町じゃないので、沖合に停泊し、希望者はボートで街へ下りることになる。
やっぱり、ターゲットも下船するようで。
こいつの行きたいところは、だいたい分かる。
インスマウスか、あるいはミスカトニック大学だろう。
俺は、インスマウスは避けて、ミスカトニック大学へ。
「オー!久しぶりだね、ヤス・サイジョー。優秀な神話研究者だった君が研究室から抜けてから、どうもイマイチ、研究にも身が入らなくてね。久々に、古巣の研究室へ来るなんて、どんな要件だ?」
こいつは?
少し、昔を思い出す……
あ、思い出した。
「久しぶりだな、ジョン。未だに研究者やってるとは思わなかった。教授くらいになったのか?」
こいつの名は、ジョン・カーター(あの、一部で有名なジョン・カーター氏から数えて4代目だそうだ)
大叔父であるジョン・カーターの意思をついで、邪神研究に身を捧げたらしいが、学生時代には考えられん変節だ。
「教授は無理さ。今のところ、助教くらいで落ち着いてるよ。まあ、この頃は、例のタコイカ神も大きな侵略計画はしてないようだし、世間は落ち着いているようだから。こっちも、ゆっくりと研究に励めるってことさ」
「そのことで、話を聞きに来た。今現在の、最新研究を知りたいんだが、誰かその辺りに詳しい教授か助教授クラスを知らないか?」
「おお、ついに君も真面目に研究者の道を目指す気になってくれたのかい?!実践研究分野でのオーソリティだった君が戻ってきてくれるなら大歓迎だぜ!現地調査にも頼もしいしな」
こいつ、何か勘違いしてやがるな。
「いや、大学へは仕事の関係で来た。俺は日本の、いわゆる民間調査官のような仕事をしていてだな。その関係で、少し、こっちに関係する調査もあるんだよ」
「残念だよ、非常に残念だ。君のような実践研究者は非常に少なくてね。たまにいたりするんだが、そういう奴は、知りすぎて発狂していくか、それとも、邪神たちにやられるか、闇の世界に心変わりしていったりするんだ」
おぅ、あいも変わらず、この大学は悍ましい研究ばっかりやってるのか。
俺は、ジョンから紹介された某助教授(名前は出さないでくれと念をおされる。どこから邪神たちにバレるか分からないからだそうだ)に、最新研究成果の話を聞く。
興味深いものがあったが、大半は昔、俺が現地調査で集めてきた拓本や古書、ネイティブアメリカンの部族長や古老から聞いて丹念にファイルした分厚い報告書からの成果のようだ。
「あ、そうだ。最新も最新、先月に報告書から研究レポートができたばかりのものもあるよ。君なら専門分野だろ?読んでみて、感想をくれないか?」
と渡された研究レポートが一冊。
最新の成果ということで、俺も集中して、英語で書かれたレポートを読む。
ちなみに、俺はネイティブのように喋れないだけで、レポートのような専門用語は普通に読めるし、理解もできる。
まあ、その専門用語は一般人には理解不能な用語ばかりなんだが。
数十枚のレポートだったが、注釈やら関連引きやら様々な紆余曲折で、読み終えるのに一時間以上かかってしまった。
「こいつは凄い!アザトートの関連事項が、えらいことになってるな。こいつを書いたやつは大丈夫か?普通なら、これを書く前に狂ってるくらいのレベルにあるレポートだ」
そうだろうそうだろう、と助教授は納得の顔で、
「そこまで深く読める君も凄いな。この僕でも、表面をなぞるくらいの読み込みしかできないんだ。君くらいに読み込むと正気を失う奴ばかりでねぇ……研究者が、困ったものだよ」
まあ俺と同じレベルで読み込めるようなやつなら、それはそれで大学の闇の研究機関から引き抜きがあるだろうがね。
という俺の思いは口に出せなかった。
こういった闇の研究機関は国家機密の塊のようなもの。
その闇に国家が関わっていたとしてもおかしくない。
「ありがとう、このレポートが一番助かった。助言を一言いいかな?これは教授以上の地位にある人物に預けたほうが良いと思う。君の命だけじゃなく一族郎党全てが闇の勢力に狙われる原因にもなりかねない」
助教授の顔色が、さっと青ざめるのを見ながら俺は部屋を出た。
普通なら、ここで国家の諜報機関がコンタクトを取りに来たりするんだが、俺に限っては、そんなことはない。
なぜなら俺がフリーであることが一番、人類にとり有益となることが、大統領以下、情報局も国家保安局も周知されているからだ。
最新レポートで気になる事があったので俺はその足でインスマウスに向かう。
嫌な予感がする……
この予感だけは必ず当たる(当たってほしくない事ばかり当たるのは勘弁して欲しい)
情報を聞くなら街の土産物屋。
俺は、その辺りの土産物屋に入り、インスマウスのお土産グッズを買い漁る。
大量に買ったので店番の女性も仏頂面から笑顔になり、こっちの聞きたいことに答えてくれる(大量のチップという鼻薬も効いたかな?)
「あいやぁ、旦那さん。こーんただ田舎町、何の興味があるのかと思えば例の魔女事件のことかいね。この頃は大きな事件はないみたいだけんどよ、あっちでもこっちでも、きな臭い噂はあるんだわ、これが」
「ふんふん、それで?俺、この近くに昔、住んでたんだ。懐かしくてね、今回の観光旅行で来るのを楽しみにしてたんだ」
「あぁれぇ、おめさん、この近くに住んでたって?頑固な地元漁師や昔の地方領主が落ちぶれた一家やら、あんまり良い噂は聞かねーけんど、根は良い奴らばっかしなんだって!」
「でな、お嬢さん。この頃、ちーとばかし良くない話があるらしいんだが……根本は例の暗礁かい?」
ヒソヒソ話に移行して店番女にチップを大量に渡すと、ようやく口を開く。
どうやら魚人たちの大規模な集まりが例の地獄暗礁とも呼ばれる地点の近くで開かれているらしい。
深夜のことだから、あまり噂以上にはなってないようだが、これが地上への侵攻を企てているのだとすると放っても置けない。
俺は、所長から伝手を使って連邦軍に話を付けてもらうように頼み込む。
俺が表立って動くと、どうしても奴らにバレてしまうからだ。
数日後、例の岩礁に立入禁止の区画設定が。
海軍の演習が行われるのだと周辺住民には知らせているが、目的は別。
ちなみに、奴らに俺の所在がバレたようで停まってたホテルに夜襲をかけられた。
まあ、魚人に近い奴らばっかりだったので、こちらも手加減無しで応じる。
夜明け近くには手足をへし折られた魚人や、そのなり損ない、変化途中の人間らしい奴らまで五体満足な生き物はホテル周辺では俺のみとなった。
命掛けの勝負が終わったあと、中央情報局のエージェントとやらが寄ってきて、後のことはまかせろと。
俺は、ここまでと思い、船に戻る。
数日後、ターゲットが戻ってきて観光船が抜錨し、航行状態になると……
ズドーン!
ドズーン!
魚雷の猛攻撃らしい音が遠くから、いくつもいくつも聞こえる。
このところ海軍装備を思い切り使う事態がなかったようで、ここぞとばかり海軍も本気の演習(という、海底への総攻撃)をやっているようだ。
船は順調に航行していく。