寄港地 その3
やっぱり終わらなかった・・・
どうするんだよ、題名!(笑)
また、船は航海を続ける。
今度は長い航海だな、もう10日以上も寄港してない。
他のツアー参加者も、退屈なんだろう、各々がデッキに上がってきて、ちょっとした軽食やら、カクテルやらを楽しむグループもいれば、あっちじゃ広いデッキに区画されてテニスやバスケットのコートもあるので、軽いスポーツに勤しむ人たちもいる。
俺?
俺は、そんなヤワなトレーニングじゃ物足りないので、フィットネスルームで高負荷トレーニングをやってる。
「ふん、ふん、ふん!」
重量挙げをやって、重りは片側150kgほど。
つまりは重りだけで左右合わせて300kg。
これに、重りを接続する棒の重さが30kgあり、総合計で330kg。
俺のベンチプレスを、じっとり見つめる男女の視線が痛かったね。
今は軽く、ランニングマシンで走ってる。
負荷は、世界記録のマラソンランナークラスに設定。
42kmちょいを2時間切るくらいに設定しての運動。
走るところを熱い視線で見られても嫌なんで、集中のためにイヤホンで音楽を聞く。
あまりに速いテンポじゃダメだが、遅すぎるのもダメ。
こういう時に丁度良いテンポの曲リストを編成したいとネットワークのロボットアドバイザに言うと、簡単に2時間位の曲リストを作ってくれた。
AIってのは、こういうふうに使えば、人間にもAIにも負担がかからなくて良いと思うんだがなぁ……
便利だからとAIになんでもやらせるのも問題だし、日本以外の「何でもかんでも人を使え!得体の知れない機械やモノに助けられたくない!」って姿勢も問題かと思うんだが。
曲のリストが素晴らしすぎたのか、妙に入れ込みすぎてしまい、
「エクセレント!」
というゴール場面が見えている。
おいおい、これ、一応は某オリンピックのマラソンコースと優勝タイムを入れてるはずだろ?
それで、素人に負けるなんてのは、どうしたもんかねぇ……
俺の優勝タイム?
聞かないほうが良いと思う。
公式の某オリンピックより15分以上も速かったとは言っておこう……
ああ、いい汗かいた。
ということで、俺は今、サウナ風呂に。
都会のサウナと違い、変な盛り上げ方をする専門家などいないので、静かに、ポタポタ滴り落ちる自分の汗を感じながら、絞っていく。
その後の水風呂の気持ちよさ!
整うなどと変なマニアではないが、汗で自分の中から悪い成分が出ていったようだ。
「オー!ミスター・サイボーグマン!」
などと、俺のフィットネス風景を見てた奴らもいるようで、変なあだ名をつけられた。
言っておくが、俺は身体の中に機械や電子部品など入れてない。
法律ギリギリの事をやる奴は、例えばペースメーカーの電気ショックを違法プログラムで組み直し、体力の底上げに使うような奴もいたりする。
そんな奴の身体は、どこにも異常はない。
ただ、痩せてる奴が瞬間的に怪力を発生するように医療機器を改造しているわけ。
そんなもの、瞬間的に怪力が出せても、その後、筋肉断裂とか酷い目に合うのが目に見えてるのに、懲りない奴らは、どこにでもいるんだよなぁ。
ひと汗かいて、疲れを抜いた俺は、この船のライブラリィ・ルームへ向かう。
今までの体験と、起きた出来事の考察を報告書にしたいんで、参考文献とかがあるなら見たいからだ。
さすがだね、巨大観光船で世界一周を企画するだけある。
ライブラリィ・ルームとかドアには書いてあったが、そんなもんじゃない。
堂々たる図書館だ、これ。
司書や図書管理長までいる大都市クラスとは行かないまでも中小の都市クラスに負けない図書館が、船の中にあった。
人員削減のためか、書籍が中心ではなく、データサーバが図書館の中心にデンと鎮座ましましてた。
少しは書籍もあり、データではあるが最新版の新聞まで読めるときてるんで、こりゃ便利。
俺は、この一ヶ月弱の経験と事態の考察を交えた報告書を、手早く仕上げる。
データだけで、原稿用紙で言うと100枚弱。
一応、写真データも添付しておいたので、小難しい論文みたいなってるようなことはないだろう。
翌日、午前中に所長より連絡が入る。
「斎場、ずいぶんと、きな臭い雰囲気になってるようだな。あまりに危険な場合、任務放棄しても良いぞ。命あっての物種だからな。今回のターゲットは、ずいぶんと、あっちの世界に足を突っ込んでるようなんで、十分に気をつけろ。俺に見えたのは、とりあえずはお前が得体の知れぬモノを叩きのめしてるシーンだけなんだが」
所長に、そこまで鮮明なシーンを見せるとは、今回の案件は、それこそ命がけってところまで行きそうだ。
「所長、そこまで油断はしてませんよ。老画家に貰った護符の絵もありますし、とりあえずは、このままターゲットに着いていきます」
お前以外じゃ、人狼事件も対応できなかっただろうしなぁ……
などと所長のため息で、連絡は切れた。
さて、世界一周の航海中、次の港が楽しみ……
でもあり、怪しくもある。
一抹の不安と、そして新しい神話や伝説との出会いを期待している俺がいた。