寄港地 その2
かはははは(苦笑)
中 まで書きましたが、まだまだ続きそう・・・
これを長編にはしたくない!
という作者の叫び(汗)
船は、出港から一週間後、別の国の港へと。
ここでも、一週間の停泊期間。
いや、おかしくねぇか?
俺は、所長と連絡をとる。
「一週間の航海で、港へ一週間の停泊って、おかしくありません?」
俺の主張に、
「ああ、普通ならありえんが、その船は世界一周ツアーだ。ツアーの募集要項にも書いてあるぞ「不定期に寄港し、長期の停泊もあります。最低でも半年は航海しますので、それなりの準備と休暇期間はご用意下さい。ちなみに、お食事や宿泊については、船内では基本的に料金は要りません。下船した場合は、その限りではありませんが」とな」
そんなもんなんだろうか?
いや、違うだろ。
「所長、通常の世界一周ツアーなら、詳細なツアー行程が書かれてるはずですよね。俺の貰ったパンフレットには、ざっくりした行程しか書かれてないんですけど?」
「大丈夫。それが公式のパンフだから。サプライズ満載で、行程や期間なんてものは裏切るって定評のツアーらしい」
おいおい。
「そんなもの、人気が出るんですか?いやまあ、結構な人数が乗ってるんですが」
「うん、暇を持て余した金持ちに人気らしい。君には、ちょいと異次元の世界かもな」
俺は、それ以上は何も言わず電話を切る。
無茶苦茶な行程が人気だって?
おっと。
ターゲットから目を離してたら、どうも、今回も下船するようで。
俺も、あわてて下船手続きを行う。
それにしても、寄港する国の名前くらい教えてくれても良さそうなもんだ。
俺は、港近くのタクシー乗り場で、集まってる運転手らに情報を聞く。
少し、運転手連中に話を聞いたが……
驚くことに、ここはシベリア。
おいおい、東南アジアからシベリアかよ。
サプライズ航海にも、ほどがある。
それも、ここは大きいが寂れた港で、こんな巨大観光船が来るような港じゃないって、運転手連中は言ってた。
少しタクシー乗り場で待っていると、案の定、ターゲットがタクシー乗り場へ向かってくる。
食事をしてきたらしい。
俺は船から真っ直ぐにタクシー乗り場へ来たんで腹が減ってるが、それでもターゲットを見失うよりマシだ。
季節的に港が凍る時期じゃないので、ツアー行程に組み込まれたらしい。
ターゲットが乗り込んだんで、俺も次のタクシーへ。
「前の車を追ってくれ。直後はマズいんで、適当に離れて追跡してくれないか」
スパシーバ!
などと運転手(どうも、何かのTV番組か映画のシーンだと思ったらしい)が異様に張り切ってくれたため、追跡は楽だった。
ターゲットの車が停まったため、俺も降りる。
タクシー料金に、たっぷりと上乗せしといたんで、上機嫌で運転手は帰っていった。
ここは、盛り場か?
レンガ造りの古そうな建物が並ぶ通りを、ターゲットはスタスタと歩いていく。
例によって、追跡も何も警戒する様子はなし。
一般人だと、こんなんかね。
まあ、日本人はセキュリティ意識が低いと言われてるからな、これが普通か。
メインストリートを100mあまり進むと、ターゲットは裏道へ入る。
俺も続いて裏道へ。
そこも100mほど進んで、とある看板を掲げてる店へ入るターゲット。
この店、ロシア語が読めない俺でも分かる絵が、店名に続けて書かれてる。
魔女の絵。
ここは、得体の知れぬアイテムや、魔術儀式に使う用具などを扱う店か。
はぁ、やっぱ、シベリアもロシアの一部なんだよなぁ。
ラスプーチンなどと言う得体の知れぬ邪教僧を国家の重鎮とした過去を保つ国家。
主義や政治体制が帝国主義、共産主義、社会主義、経済で自由主義(政治体制は共産主義)などなど、百年以内にコロコロ変わるような、いい加減な国家だけど。
その根本は、神秘主義を根幹とする魔術や、得体の知れぬ「神」を信奉する土着民の集団に過ぎないということか。
さて、ターゲットが入店して、しばらく経つ。
俺も入るとするか。
ぎぃ。
そんな音を立てながら、分厚い扉が開く。
「あら、珍しいわね、今日は東洋人のお客が二人も次々と。どうぞ、見ていって。珍しいものが色々と並べてあるわよ。どれもこれも一点もので、替えは無いわ」
店主らしい女の声が。
万能翻訳機が、今回ばかりは頼もしい。
英語くらいは何とか分かるが、ロシア語など分かるか。
「それじゃ、ちょいと見せて貰う。あ、俺の前に入った初老の男性は?」
「店の商品じゃなくて、オーナーに用があるってことなんで、奥へ。あんたもオーナーに?」
「いや、俺は単に好奇心から、この店に来た。魔術や魔女に興味があってね」
「それなら、良いものを見せようか。ウインドーに並ぶ商品じゃないんで少々お高いけど、面白いものであるのは保証するわよ」
そこまで言われると、俺も興味が。
奥の倉庫から出してくれたのは……
「何だこれ?化石?それにしては小さいし、虫や爬虫類とかのサイズじゃないよね?」
「私も何だか知らないわ。値段は***ルーブル。化石としても、その年代のものだとするなら安いと思うわよ」
確かに、古生代以前、下手すると先カンブリア紀にまで遡れるかも知れない石。
惜しむらくは、中に何が入っているのか分からないこと。
「学者さんが興味持って買っていったりするんだけど、何故か、この店に戻ってくるのよ、この石」
何度か売れてるらしい。
「割ろうとしたり、切ろうとすると、とんでもない悪夢を見るらしいのよね。それで皆、怖くなって店に持ってくるの」
「中に何が入ってるのか、レントゲンとかで確認したことない?」
俺が聞くと、
「オーナーの希望でね。商品は、なるべく元の状態を保ったまま、売り買いすることってのが鉄則なの。実は私も興味はあるんだけど、悍ましいほどの悪夢を見るなんて嫌だもの」
そうなのか。
「オーナーは、今じゃ珍しい、正統派の魔女でね。昔のように魔法で空飛んだりはできないけど、オーナーの作る精力剤は逸品よ。もう、媚薬のレベルに達してるんじゃないかと思うほどなの……ねぇ?あんたも、どこかの酒場で、この店の精力剤の噂、聞きつけてきたんじゃないの?」
「いやいや、俺は、そっちの方は淡白でね。だいたい、この国に限らず、男だけが満足して果てれば、それでおしまいというのは間違ってるな。男も女も、双方が満足しなきゃダメだろ」
「あれ、良いこと言うじゃないの。あんた、ガタイがしっかりしてるから船員かと思ったけど違うようね。どう?この後、もう少したら店閉めるんで、近くの店でウォッカでも飲まない?」
気に入られたらしい。
「じゃあ、お近づきの記念に、こいつをもらおう。カードは?あ、現金のみね。ほいじゃ、ココへ置くよ」
「毎度、ありがとうございます。もう少し経ったら、お店閉めるんで、それまで商品見てく?」
「ああ、そうさせてもらう。気に入った商品があれば良いがな」
包装紙に包むかと思ったが、裸で石を渡してくる。
ん?
受け取った時、何か違和感を感じた。
この石、この世のものではない雰囲気を感じる。
「気をつけてね。身につけてる時間が長いと、強烈じゃないけど悪夢を見るらしいの」
さもあらん、この感覚は俺の独壇場ではない。
人間なら誰でも持っている第六感というやつ。
鈍い鋭いの違いはあれど、この世ならざるものの気配は普通の人間なら確実に分かる。
ただし、分かったからと言って、どうすれば良いかは、それを知ってる人間だけが処理できるものだからだ。
「この石、俺が持ってたほうが良さそうだな。俺なら、何か起きた時に対処できる気がする」
「あら、あんたも、その業界の人だったの?腕っぷしが良さそうだったんで、てっきり、そっち系かと思ってたわ」
それから、店の商品をしばらく見ながら、閉店時間までお茶を濁す。
女店員は、時間になると奥の事務所へ入っていき、
「時間だから閉店するわ。外で待ってて頂戴な」
ということで俺は外で待つ。
しばらくすると、
「お待たせ。行きつけの店があるの、そこ行きましょ」
女に引っ張られ、俺は飲み屋へと向かう。
店に入ると、
「また来たわよー。今日は彼氏と一緒。とりあえず、ウォッカをジョッキで!」
おいおい、最初から飛ばすねぇ。
俺も、飲めないほうじゃないので、ジョッキを付き合う。
「んぐんぐ……こいつが良いのよ!これに付き合えない外国人はダメよねぇ、全く。エールやワインなんて、ありゃ水じゃないの。やっぱし、北の国にはウォッカだわ」
世の中には、とんでもない酒豪がいたもんだ。
俺も付き合えるくらいは飲めるが……
飲みすぎると、その後がツライ(宿酔だよ、ちなみに)
「ところで、あんな店やってると、恐ろしいこと、悍ましいことが起きたりしない?」
カマ掛けてみる。
「そうなのよぉ!この前もさぁ、奥のオーナー部屋で、真っ昼間に変なうめき声が聞こえてきたりするのよぉ。今日は、何も起きなかったけど。あたし、もう、あの店、辞めようかなぁ……」
「そうなの?じゃぁ、せっかく掴んだ魔女見習いも辞めるの?」
「あ、やっぱり分かっちゃう?あははは、そうなの、まだ見習いだけど、あたし、魔女。オーナーに弟子入りしたんだけど、まだまだ憶えることが多くてさぁ……」
「仕事そのものは面白いんだろ?じゃあ、辞めないほうが良いと思うぞ」
「そうなのよねぇ、魔法薬の製造も面白いのよ、これが。やりがいあるのよ……だけど、異常な事が起きるのが怖いのよ。この前、オーナーの指示で夜遅くまで店番やってたんだけど、その時のお客ってのがさぁ……顔が魚と人間の半々みたいなの。ぶつぶつと何か呟いてるんだけど、オーナー以外に言葉が分かる人がいなくてね。あんたの使ってる翻訳機、凄いわねぇ。あたしに売ってくれない?あ、試作品?じゃあ、ダメよね。あー、お隣の国なのに、そっちは私達が夢に見るような、悪夢じゃないわよ、そんなガジェット持ってるんだもの。まさに「日、出ル国」よね。あたしも、あんたの国に生まれたかったわぁ……」
しみじみと呟きながら、女は潰れた。
飲み代は、そこまで高くなかったので、俺が支払う。
「ツケがあるんですけど。お客さん、知り合いなら払ってもらえませんか?」
そこまで深い知り合いじゃないが……
金額が分かり、そこまで高い金額じゃなかったため、ツケも支払ってやる。
ウォッカって安いんだな。
「まあ、簡単に燃えるほど強い酒ですからね。エールやワインのように量は飲めませんよ」
そりゃそうだな。
その夜は、女に指示されたアパートへ送っていき、そのまま俺はホテルをとる(酔いつぶれた女を相手にするほど飢えちゃいない)
次の日、店に行くと、
「ありがと、ツケまで払ってくれたそうで感謝するわ。アパートまで送ってくれて、そのまま帰るなんて礼儀正しい男は初めてよ。惚れちゃいそう……」
面映い気持ちで、
「いや、当然。酔いつぶれた女を抱く趣味はない」
と返す。
ハートマークが飛び出そうな視線を向けられたが、あえて無視する。
「店番は、そのまま続けて置いて構わないが、ちょっと話を聞かせてくれないか。昨晩聞いた、オーナーの部屋から聞こえた怪音に興味がある」
店員は少し憮然となったが、
「まあ、あんな醜態見せたら百年の恋も冷めるか。いいわ、こんな珍品だらけの店、殆ど客も来ないんで、時間つぶしに相手したげる」
ということで、店の一角にある商談スペースで、インスタントだが紅茶を淹れつつ、俺達は話し始める。
「あれは何だったのかしらね、オーナーに聞いても何も話したがらないし。だけど、まだ耳に残ってるわ、あの声、というか音と言うか。少なくとも、人間に出せるような声量や声帯ではないわ。私、これでも医大を出てるのよ。人間の臓器や視聴感覚で出せる音じゃないわ」
「ほぅ……それじゃ、医大生だった過去を保つ女性に聞きたい。一体、どんな生き物だったら出せる声(?)だと思う?」
「そうね……少なくとも、野生の狼と、昔は巨大だったと言われてる現生人類の前に地球にいたギガントピテクスって巨人、それが組み合わさって巨人の肺活量で狼の遠吠えを実現したら、あんな声になるかもよ。まあ、言ってみれば化け物、こっちの言い伝えにある、巨大人狼ってとこかしら」
ほう、巨大な人狼ね。
「つかぬことを聞くが、この辺りで昔、人狼に襲われて亡くなるような怪奇な連続殺人事件があったって話を、何かで読んだ気がするんだが?」
「ああ、それね。今から百年以上も前の話。この国が帝政ロシアって呼ばれてた頃の話よ。この街じゃないけど、付近の村が、村人全員、巨大な狼に噛み殺された連続殺人事件が発生したわ。ロシア警察の中央情報局が徹底的に捜査して、それでも未解決だったの。噂じゃ、その村を領土としてた伯爵様の一家が、呪いで人狼と化して、夜な夜な村人を殺してたという……」
「未解決?それじゃ、その連続殺人事件は、終わってないのか?」
「いいえ、連続殺人そのものは終わったわ。捜査途中で、伯爵様の一家が何者かに惨殺されるって、これも未解決の事件があったんだけど、それから、その村の周辺に噛み殺された死体があることは無くなったのよ。その村自体は村人が全滅で、廃棄されたらしいわ」
「ああ、だから、噂になったってことか」
「そう、そういうこと。あの人狼事件が、百年以上経って、またシベリアで起きるとは思えないんだけど……あんたも気をつけてね。ちょうど、今日は満月よ。人狼の呪いが最大になるって日」
さて……
「今日も、仕事が終わったらアパートまで送ってくよ。今日は潰れるなよ」
「分かってるわよ。あー、ツケで無い酒は久しぶり!飲むわよー!」
あっさり前言撤回した彼女。
昨晩と同じアパートへ送り届け、俺は夜の街へ。
尾けてきてるな、案の定。
まあ、俺一人なら、どんな状況でもなんとかなる。
「おい、東洋人の兄ちゃん。面白いもん持ってるな。そいつと財布の全財産で、生かして帰してやる」
おいおい、期待してたほうじゃなくて……
「強盗は予想外だったな。バカなことやってないで、早く家に帰りな。もうすぐ、あんたの予想外の事態が起きる」
「何ぃ!この銀色に光る長ナイフが見えないか?!こいつで、お前の」
言いたかった事を最後まで言えなかったのは悔しかろうな、強盗さん。
起こった事態に対応できないのか、身体は立ってるが、首は足元に落ちてる。
「これだから、早く帰れと言ったのに。んで?人狼君、連続殺人を、また始めようと?」
答えを期待しての問いではなかったが、返事が来た。
「お、ま、え、こ、ろ、せ、と、メ、イ、レ、イ、う、け、た。ま、ん、げ、つ、の、オ、レ、だ、れ、に、も、こ、ろ、せ、な、い」
「そうね、銀の弾丸でもなきゃ無理だろうね。ところで、あんたに命令したって、誰かな?どうせ死んじゃうんだ、教えてくれても良いんじゃないの?」
乱杭歯の間から空気が抜けて、シュウシュウ言いながらも、
「そ、れ。ひ、み、つ、け、い、さ、つ。お、れ、に、メ、イ、レ、イ、で、き、る、の、ひ、と、り、だ、け」
そうか、ほとんど何も知らされていない末端の暗殺要員か。
それじゃあ、行ってみようかねぇ!
「銀の弾丸以外に、人狼にも苦手があるの知ってる?」
「ふ、ふ、ふ。ま、ん、げ、つ、の、オ、レ、こ、ろ、せ、な、い!」
飛びかかってきた。
人間の跳躍力じゃないが、人狼になると理性も教育も飛んでしまうようで。
体力頼みの単調な攻撃となる。
それが弱いかっつーと、そうじゃない。
狼の攻撃と同じで一発でも当たれば俺の首など一瞬にして胴体から吹き飛ぶ。
「これがね、コツがあってね。攻撃が単調なら、大きな2本足狼程度の攻撃なら、躱しようがあるんだ」
まさに薄皮1枚で、俺は奴の攻撃を躱し続ける。
しかし、そうそう何時間も躱し続けられるもんじゃない。
相手の体力は、まさに化け物。
対する俺の体力……
まあ、常人よりはよほど強いが、条件の整わない現在では、奴の3割にも満たない。
「ってぇことでね!こっちにも切り札が、あるんだ!」
俺は、あの魔女の店で買った石をポケットから取り出し、奴の目に叩きつける!
長細い形状だったので、もろに目潰し!
「ギャァァァ!」
ヒビでも入ってたのか、俺が刺した石が真っ二つに割れる。
そこには……
「ああ、ああ、小人の神……」
神と呼ぶのが適当かどうか?
それは、小さく、人間のような形をして、形容しがたい形をしていた。
化石に覆われていた(形状し難い化石?と思われる)中に入っていた、ソレは……
「神というより、悪魔だよな、あれ」
人間より前に存在していた、サイズは小さいが、悪魔のような生命体。
その顔は、なんともいい難い表情をしている。
ニヒリストのような、それとも、怒りをこらえているのか、それとも……
見ていると、化石はシュウシュウと音を発しながら溶けていく。
人狼は、見る間に人の姿に戻っていく。
全てが終わるまでに数分、かかった。
結局、化石は名残もないくらいに溶けてしまい、人狼は片目の潰れた人間の死体に。
俺は警察を呼び、事情を聞かれたが、真実を話しても信じてもらえなかった。
強盗の死体も近くにあったため、警察は犯罪者どうしの殺し合いと結論づけたようだ。
俺が船に戻ったのは、結局、出港の一日前。
もう少し警察に勾留されていれば乗れなかった。
まあ、ターゲットも、俺のすぐ後に乗ってきたんで、彼にも何かアクシデントがあったんだろう。
船は寂れた港を出て、また航海に。