寄港地 その7(5)
南極篇、これで終了。
悲惨なのは一人だけってことになり、作者も安心してます(笑)
とりあえず、結果を書いておこう。
攫われた人たちは一人を除き、五体満足で生きていた。
ターゲットである老教授も発狂という最悪の結果にはなっていなくて俺も一安心。
攫われた人たちの経過を聞いてみると……
どうやら、客の中に一人、どうしても他人の意見を聞き入れない奴がいたのだそうだ。
オプショナルツアーガイドの中には古来の伝説に詳しいものがいたようで、そいつが護符を持っているので麓まではミ・ゴに襲われることは無かったそうなんだが……
その厄介者(こいつが世界でも有数の大金持ちで有名な、ある国の中東の王族のバカ息子だそうで、他の参加者にもガイドや護衛にも、こいつに逆らったり意見する奴がいなかったんだそうで)が、ガイドの護符に目をつけて、
「そんなもん不要だから捨てろ」
と息巻いたんだそうだ。
ガイドは必死で、
「こいつが無いと、醜悪な見たこともない怪物に襲われることとなるんです!」
と捨てることを拒否したようで。
すると、バカ息子はガイドから護符を強引に買取り、その場で焼き捨てたと……
その後の運命は予想通り。
護符が無くなったのを認識したミ・ゴに襲われショゴスの元へ。
ショゴスは護符もないので普通に元主人たちの元へと送ったという話。
さすがに古のもの・旧支配者の姿を見たツアー参加客とガイドは気絶。
発狂しなかったのは、このせいだと思われる。
若さのせいか気絶から真っ先に回復したのは、そのバカ息子。
そいつは、ありえない事態と状況に絶叫して、運の悪いことに古のもの・旧支配者の興味を引いたとのこと。
そいつだけが何処かへ連れ去られ、後は放って置かれて、今の状況。
「連れ去られた奴は、サンプルとして脳を取り出されて永遠に生かされると聞いているので、もう救助は無駄だろうな」
俺は、そう周りに言い聞かせる。
ツアー客も、救助隊も、その話に納得(一瞬でも見てるからなぁ、こいつら)
バカ息子は敢えて救助せずに放っておくこととし、ショゴスと話し合ってた(恐らく念話、テレパシーのようなものだ)古のもの・旧支配者がこちらへやってくると、こちら側の代表者として相手をする。
触手の一本を、こちらへ向けて伸ばしてくるので、こちらも片手を伸ばし……
〈あえて見逃してくださり、誠に感謝です。つきましては、現代の糧食というものを、そちらへ献上したいと思うのですが、いかがでしょうか?〉
俺は、もう片方の手で、ビスケットの袋を一つ取り出して、触手にビスケットを一つ接触させる。
古のもの・旧支配者は、そのビスケットを触手でつまみ、体の中へ(頭上の花のような形の中に口のようなものがあるとは聞いている。身体が大きすぎて、口を確認するのは不可能だが)入れた。
〈ほう……ショゴスも、奇妙で新鮮な感覚だと報告していたが、確かに。これを、あとどのくらいくれるかな?〉
〈とりあえずは、あと袋で10ほどは〉
俺が念話で、そう答えると残念だという感覚が漂ってくる。
〈それでしたら、私の伝手で、ここへ来れる組織に通達してですね。定期的に、ビスケット以外にも様々な糧食を持ってきましょうか?で、そちらに提供してもらうのは、超古代の知識というのは?〉
満足だという感情が来る。
〈では、そのように。後ほど、その組織から連絡します。念話の使える者を寄越すように伝えておきますね〉
更に、満足の感情が。
会話は難しい。
感情を伝え合うだけでも奇跡的なことだ。
何しろ、全く地球人とは違う異星人とのコミュニケーション。
この個体だけ、特別に人間との交渉用として、多少の人間語を学ばせたのだろう。
俺達は、ツアー客の一人を除き、キャンプというか雪上車のあるポイントまで全員を連れ帰った。
そこからは、ギュウギュウ詰め状態でホテルへ急いで帰る。
全員から、えらく感謝されたが、俺は、
「いえいえ、全ての人ではなくて残念だと思います。まあ、発狂してる人や自殺者がいないだけでも奇跡的だと思いますけどね」
と答えて、参加者に、やんわりと自粛を促す。
ホテルの自室へ戻ると、俺は今までの詳細を書いた報告書を所長へ送る。
あとは、ミスカトニック大学の裏組織(邪神と戦ったり、交渉したり、時には低級眷属の捕獲と人体実験まで行う、はっきり言ってヤバイ組織)にメールを送り、テレパスを使者として、古のもの・旧支配者に物々交換(実際には糧食色々と、相手の持つ超古代知識の交換だが)が可能になったと知らせる。
詳細を知らせろと、すぐに返信が来たが、南極大陸に密かに建設された豪華ホテルから南極最高峰へ向かったこと、そこでミ・ゴやショゴス、古のもの・旧支配者に出会って、彼らの興味を引くものを与えて交渉したことを伝える。
これが長期になるのかどうか、それはミスカトニック大学側の判断に委ねることとすると伝えるのも忘れない。
それから一ヶ月ほどは、ホテルにカンヅメになる(吹雪やブリザードの日が続き、ホテルから出られなくなったのだ)
あとは、流氷のせいで、ホテルから出て出航まで、それから半月ほどかかったのもある。
俺達は、三ヶ月近く滞在した南極大陸を離れ、次の港を目指して進んでいく……




