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緑色の時計は時を告げない。  作者: みーなつむたり
4/11

4話


 午後6時25分。


 驚くことに、待ち合わせ時間前に竹本から到着を知らせるLINEが届いた。


「なんだあいつ、早いじゃないか。…雨が降るぞ。」


 メッセージを読んですぐさまスマホを鞄に突っ込んだ。少し慌てて伝票を握って立ち上がる。そしてファミレスの会計を済ませると、僕は竹本のいるコインパーキングを目指して駆け出した。


「はあ、はあ、はあ、」


 息も切れ切れに竹本のいるコインパーキング付近まで来た時、真っ黒の喪服を着た竹本が電子タバコを吹かしながら、自身の黒の軽自動車の傍らに立っているのが見えた。僕は一層加速する。


「はあ、はあ、はあ、…珍しいな竹本、早いじゃないか。」

「はは、流石に通夜に遅刻するわけにはいかねぇだろ。いつもより15分早く家を出たからな。」


 いつもより15分早めに行動してようやく5分前に到着できるあたり、やはり時間の感覚が僕とは違うなと心の中で苦笑する。


「ほら、行くぞ。俺の車でいいだろ?」


 相変わらず有無を言わせない竹本は、僕の返事を待つことなく自身の車に乗り込んだ。僕も急いで助手席のドアを開ける。


 僕が乗り込んでシートベルトをはめていると、竹本が運転席でエンジンをかけながら、


「お前、その格好で通夜に出る気か?」


 前だけ見据えて、少し呆れ気味に言った。


「…一回帰ってたら間に合わなかったんだよ。…斎場で黒の腕章を買うよ。」


 言い訳じみた自覚はある。

 今日はわりと濃いめの紺色のビジネススーツだったため、結果的には大丈夫だっただけにすぎない。


 実は僕は、通夜は喪服で行かねばならないことを単純に失念していた。喪服で式に出ることにも頭が回っていなかったことに、僕は竹本の格好を見るまで気がつかなかったのだ。


「ならお前は明日の告別式には出るんだよな?」


 明日仕事で出られない竹本に付き合って僕は今、無理をして通夜に参加しようとしていると見えるらしい。

 だからこそ、告別式には正式に参加するのだろうと竹本は思ったようだ。


「どうだろう。まだわからない。」


 しかし僕は、助手席側の窓の外、流れる景色を見ながら曖昧に答えるに留めて言葉を濁す。すると竹本は「はあ?」とあざけを交えたような声をあげた。


「今からでも会社に休めるか聞いてみろよ。休めるならお前は出た方がいいぞ。」


 なぜ竹本にそんなことを強要されるのか理解できず、内心ムッとしながらも、僕は「ああ」と再び曖昧に答えた。


 本当は既に会社には身内の不幸があった旨を伝え、有休を貰っていた。


「………」


 それを素直に話せなかった自分の気持ちを、僕は未だにうまく表現できない。




 車は竹本の好きな派手めの曲をBGMに、薄暗くなっていく町を抜けると、一路闇の深い山の上を目指し、くねった山道を登っていく。


 道中、竹本は会社の愚痴や、去年結婚して今年生まれた一人娘の話やらを執拗にしてきたが、僕はなんとなくどの話題も愛想笑いで応じた。


 だが竹本は気にする素振りも見せずに話し続ける。


 それは、僕の気を紛らわそうとする竹本の優しさだと、僕は本当は気がついていた。



 

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