その二十 日記 七月二日
ここ数日とても忙しくて日記をつける余裕がなかったから、今日も数日分まとめて書こう。
文化祭も終わった。すごく大変で、すごく楽しかった。ひと月とちょっと前にはクラブ活動をするなんて想像もしていなかった。まして文化祭に参加する考えなんて欠片もなかった。うん、参加して良かった。
博物クラブにも新入部員が三人も来てくれた。
うんうん、わたしの企画が良かったんだね。あの、ケルトの装飾剣は荷物の山の中で見つけた時はびっくりした、こんなところで見れるなんて思ってもいなかったから。大岩根先生も大概だと思う、あんな貴重なものを無造作に荷物の中にほうってあるんだもん。本来なら博物館にあってもおかしくないものだよ。おかげで、泥棒は来るし、また警察沙汰になるし、で大変だった。でも、展示の目玉になったんだけどね。
泥棒が来たのは学校のサイトに宣伝を乗せたせいだと、堤野さんに突っ込まれた。でも、いいじゃない、おかげで大盛況、結果良ければ全て良しだよね。そんな貴重なものを展示できたのは博物クラブの面目躍如だよね。
とはいえ、泥棒は想定外。しかも以前の博物館展示品盗難事件の犯人だったなんて。今回の事で捕まって、盗品故買ルートとか摘発できそうって刑事さんが内緒で教えてくれた。
それにしても、真仁くんが泥棒に刺されたと思った時は本当に焦ったー。自分が泥棒に追っかけられた時よりも焦った。心臓がバクバクいって、目の前が真っ暗になるってこの事かと思った。真仁くんに必死で縋り付いて(あ、ちょっと恥ずい)介抱したら、全然何ともなくて全身の力が抜けちゃった。
左手のギプスで遮られたおかげで大事にならなかったのは本当に良かった。今思い出してもドキドキする。トマソンでの事故はラッキーだった、のかな。うーん、ラッキーって言っちゃあいけないよね。真仁くんは痛い思いをしたんだから。
偶然に頼るのは良くないって、お母さんにいつも言われていたのに。全てを完璧にコントロールすることはできないけど、想定外のことを想定していなければ何時か取り返しの付かない事故が起きるって。何度も言われていたのに、今回は本当に偶然に助けられた。
わたしが自分の好きな事を興味の向くままやる分には自分だけで済むけど、他人を巻き込むなら責任も負う事になるんだ。いままで友人がいなかったから気がつかなかった。
そうなんだ。あの日、サボって真仁くんを博物館に誘ってからいろんな事が変わり出した気がする。
真仁くんのひと言がなければ、博物クラブを創ろうなんて思いつかなかったし、ましてや文化祭で出し物をするなんてね。
クラブを作らなかったら何をしていただろう。きっとクラスの出し物にはつまらないと言って参加しなかったし、文化祭もずる休みして図書館とかで時間を潰していたような気がする。そうしたら、この充実感もなかったんだ。
上部くんは日ごろはちゃらちゃらしてるけど、決めるところはちゃんと決めてくるから、見直しちゃった。クラスの出しものの準備もしてたはずなのに、博物クラブの展示物準備するの結構手伝ってくれたし、それに、それに、あの泥棒を退治してくれたのは感謝、感謝だよ。あれは本当に助かった。あのままだったらどうなっていたかわからない。
堤野さんはやっぱり苦手だ。でも、クラス委員の上放送部と兼部しているのにできる限り手伝ってくれた。それは純粋に感謝しているんだよ。どう、感謝を伝えればいいだろう。そうだ、今月の下旬に放送部はコンクールに参加するらしいから応援に行こうかな。うん、それがいいよね。コンクールはどこでやるんだろう。
あいつ、わたしをどこかに売るって言ってた。その時には?マークが浮かんで全然現実味がなかったけど、後で落ち着いて考えるとものすごく危なかったんだ。お母さんに聞いてみたら、真っ青になって慌てていた。お母さんがあんなに慌てるのは初めて見たし、衝撃的だった。お母さんいつも余裕たっぷりで、わたしが何をやっても笑ってスルーするのに、あの時だけは本気で心配していた。
あんなお母さんの顔が見られるとは思ってもみなかった。わたしを大事に思ってくれていることが伝わってきて涙が滲んじゃった。
そして、真仁くん。
そんなつもりはないのに彼にはいつも迷惑をかけるなあ。今回も身を呈してわたしを助けてくれた。助けてくれたのこれで3回目だよ。うん、それは感謝している。当然なんて思ってないよ。それを素直に伝えるのは照れ臭いな。
今回は怪我はしなかったけど、危なかった。上部君の助けが無かったら逆上した泥棒に更に刺されたかもしれなかった。本当に良かった。
校長室でも、暴走しそうなわたしを諌めてくれて、おかげで大岩根先生の説得が功を奏した。わたしが暴走していたらどうなったか。校長先生も引っ込みがつかなくなっていた気がする。最悪、博物クラブ解散かあ、危なかった。あの先生は建前と立場にこだわっていたものね。
冷静になれば、判るんだけど。あの場では真仁くんが諌めてくれて助かった。そうだね、真仁くんにはわたしに忠告してって言っておいたの思い出した。といっても、彼は忘れているみたいだけど。
どうもわたし気持ちが暴走しやすいなあ。ああ、前からか……
そう言えばなぜかわたし、真仁くんには甘えちゃうんだよね。好きとかそんな気持ち未満だけど、気になっているのは確か。それにしても、最近は何かにつけ彼のことを考えている。といっても今度どこの博物館に誘おうかとか、映画やコンサートとか、この間見つけたトマソンを教えてあげたら喜ぶかなとか、そんなことばかり。わたし恋してるわけじゃないよね。だって、一緒にいると楽しいけど、彼のことを考えてもドキドキするわけじゃないし……
未来のわたしなら、今のわたしの気持ちは判ってるかな。
彼は変わらず親友として振る舞ってくれている。
そう言えば、校内公開日の前日、泥棒が来る前、ひと通り準備が終わってお茶をした後、わたしが疲れて転た寝しちゃった時、気配を感じて薄目を開けたら真仁くんが間近でわたしの顔を見ていてびっくりしちゃった。本当にすぐ傍で真仁くんはすごく真剣な顔でわたしの顔を覗き込んでいた。
ドキドキのハラハラで、彼はわたしの事好きというのは知っているからどうしたらいいか悩んじゃった。飛び起きて咎めたら気まずいし、薄目で様子を見ていたら、わたしの顔に手を延ばしてきて、えっちな事って訳じゃなさそうだったので、、、ギリギリまで様子を見ていた時に泥棒がきたんだよね。あのままだったらどうなったんだろう。
ちょっとドキドキするなあ。わたしに触れたらどうしていただろう。わたし怒ったかな、眠っている女の子の顔に触れるのはアウトだよね。彼とは喧嘩したくないなあ。
ほんと、あんなことするから、前夜祭のダンスパーティはずっと顔見られなかった。真仁くんと目を合わせると間近で真剣な顔をしている真仁くんを思い出して、いたたまれない気持ちになっちゃうだもん。
ダンスなのに手を握るのが恥ずかしくなっちゃった。せっかく真仁くんが片手でも踊れる振りを工夫してきていたのに、十分楽しめなかったよ。パートナーを変えるのも悪い気がしたし!
そうだ、あれは真仁くんが悪い。あんなことしなければ意識することもなかったのに!




