閑話 昔話2
「ジル~、これもお願いね~。」
私は薫製にしたソーセージを吊るしたものをジルに渡す。
私は6歳になり、ジルも13歳になった。
農家のジルは学校に行くくらいなら家の仕事を手伝えと言うタイプの親のもと、小さい頃から下の子の面倒を見て畑仕事の手伝いをしていたと言う。まわりの子が学校に通うのを羨ましく見ていた。
少し大きくなって近所の年上のお兄さんが、将来役人になりたい、役人になったらいい生活が出きるようになるんだぜ。と言うのを聞いてジルは自分の世界がすごく狭いことを知ったと言う。ジルには新しい世界だった。
ジルの家の畑はそんなに広くないし、兄弟はたくさん。このままみんなが大きくなっても畑を継げるのは一人か二人。文字が読めなかったり計算が出来ないと大人になって買い物でも困るんだ。
そんな事は今まで知らなかった。でも、知ってしまったら自分が家族が兄弟たちが困らないように…自分が学校に行って出きるようになりたい。出来たら自分も役人になりたい。
そう思ってジルは、家族を説得して畑が忙しくない時期や雨で仕事にならない日に学校に通うようになったらしい。
近所のお兄さんは2年前に試験に受かって領主様のお屋敷で働いている。ジルは学校に通い出してから兵士になることも考えたそうだが「オレ、力はあっても喧嘩とか向いてないんだよ。」と言って照れていた。その時はジルが年上なのに可愛くて笑ってしまった。
私がジルに勉強を教え出して、ジルは学校の帰りに家まで送ってくれるようになり、そのついでに力仕事を手伝ってくれるようになり、我が家に馴染んでいった。ジルはいつの間にか役人ではなく商人になりたいと、父さんに見習いとして雇って欲しいと交渉していた。
この商売が軌道に乗れば人手は足りなかったし、ジルがうちで働いてくれるのはちょうど良かった。
「ホントお嬢さんは人使いが荒いですねぇ。」
ジルも本当はそんな事半分くらいしか思ってないはずなのに、溜め息をつきながら私から受け取ったソーセージを倉庫の軒下に吊るしていく。
「畑仕事よりはずいぶんマシでしよう?」
と私が言えば、「畑仕事はどっちにしても帰ったらしなきゃいけないんですよ。これは日当も出ないからタダ働きじゃないですか。せめて駄賃くらいは出してくれてもいいのに。」とちょとすねたような返事が返ってきた。
だけど私も負けてない。
「ジル、残念ですね。これはタダ働きじゃありません。私はジルに役人になれるだけの家庭教師をしてあげたのです。これは正当な報酬です。それにジルの家の分のお土産もちゃんと残してありますよ。」
ジルの家は家族が多いから保存するまもなく、すぐになくなってしまうだろうけど。
「春になればジルも立派なうちの一員です。ジルはお給料が貰えて、畑仕事をしなくっても食べていけるようになります。私にはまだまだアイディアがたくさんあるので、商売はどんどん大きくなりますよ。忙しい分生活に困ることは無くなります。ジルはいい雇い主に拾われましたね。」うふふっといつも通り笑顔で返す。
ジルは時々思い出したように「良い雇い主に拾われました。」と冗談ぽく言うけれど、ジルがうちにきてくれてたから、私の突拍子もないアイディアに付き合ってくれたから私はやりたいことをやってこれたんだと思う。
いつも背中を押してくれたのはジルだった。
…………
「ジルいつもありがとう」
忙しそうにしている後ろ姿にそっと声をかけた。