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商人な魔術師  作者: 柚×花
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閑話 昔話

遺跡から戻り、忙しくもやりがいを感じる毎日が戻ってきた。

クロード様は魔方陣の研究に集中していて、私は新しく始めた事業やジャファルと町の視察や意見交換が多い。私たちが会う時間は少なくなってきてほとんど夕食の時間に話をする程度だ。


それを寂しいと思ってはいけない。

現状を見かねて事業を始めたり、意見を言い出したのは私なんだから。

手伝ってもらっているのだから頑張らないといけないよね。


忙しそうに働くジルを見ながら、私は昔を思い出していた。


…………


私の実家はブライトン商店と言って小さな調味料と食料品のお店だ。店主はお祖父様。家族はお祖父様と父さんと母さんと二つ年下の弟。父さんは主に仕入れのためにあちこち出掛けていることが多かった。


私は祖父の薦めで5歳から領主様が開いてくださっている学校に通っていた。普通は7歳~10歳くらいになって通い始めるのだけど、シェリルは頭が良いし礼儀も知っているので早ければ早いほど良いと祖父が入学手続きをしてくれたのだ。


学校といっても日本の小学校みたいなものではなく、領主様の館の隣にある小さな教会の建物の一室で、文字と簡単な計算を教わるところである。それぞれの進度に合わせて教わり、基本的な事が出来るようになれば卒業である。


入学の年齢も決まっていないし、仕事の少ない冬の間だけ通う子もいる。大きな子もいるが、雰囲気は小学生低学年の個別指導塾のような感じのようだ。


そこでいい成績を出せれば、役人になれたり、領主様のお屋敷で働けたりするので、出世したい子や、子沢山で子供の仕事がない家の子や、少し裕福な家の子が通って来ている。


もちろん、読み書き計算が必須の商人の子は言うまでもない。



3歳の頃から、暗号のような文字を書き、不思議な数字を使って計算が出来た私は、文字も数字も祖父に教わったのでどちらもだいたい出きるとは思うけど、父さんは私が早く卒業して、領主様の目に留まって、王都にある上級学校への推薦状を出してくれる事を期待して居たようだ。当時はそんなにうまく行くわけないと思っていたけど、世の中意外とうまく行くように出来ているらしい。


当時の私は祖父を尊敬していたし(今でもお爺ちゃんは大好きだ)上級学校に入学できれば魔法科もあり、魔法素質がなくとも上級学校を卒業できれば王都の役人も夢ではない。

少なくても小さな商店の店主よりいい生活が出きる。

その小さな商店ももっと大きなつてが出きるんだぞ。と、そんなことを言う祖父の夢を叶えてあげたかった。


私が通っていた学校の先生は校長先生は神父様で白っぽい長めの神官服を着ていて、それなりにお年を召していらっしゃる方だった。頭と長いお髭が真っ白の優しそうな小柄なおじいさんである。


逆にカリソン先生は質は良さそうだがラフなズボンとシャツにベストといった普通の格好だったが、30歳くらいのがっしりとした(教師というよりは兵士といった方が納得できるような、大柄でいかにも戦えそうな雰囲気の)先生だった。

他にもシスターや領主様のところのお手伝いさんが子供たちのお世話に交代でやってきてくれて勉強だけでなく礼儀作法も最低限は教えてくれた。


私は、既に読み書き計算礼儀作法がほとんどできていたため、学校にきても自習をする事が多かった。本を読んだり、字の練習をしたり。先生やシスターの人数が多いときには王都や他の領がどんなところか話を聞いたり、簡単な魔術を教わったりすることもあった。


同年代(みんな2~4歳ほど年上だが)の友達と仲良くなって一緒に勉強したり、教えたり、町の事を教えて貰ったり、一緒に遊んだり…学校は楽しかった。



ジルと仲良くなったのは、学校に入学してしわりとすぐの事だった。ジルは一番年上で面倒見のいいお兄さんだ。シェリルも初日にやんちゃな男の子に引っ張り回されそうになったところを助けてもらった。


学校に通い始めて数日。する事が無くなってきて他の子の勉強を見るようになった頃。ジルとよく目が合うようになった。気になって時々ジルの方を見ると目が合ってそして気まずそうに目をそらす。


どうしたんだろうと思っていたら、帰り際、躊躇いがちに声をかけてきた。


「シェリル、俺、役人になりたくて勉強してるんだけどさ、一人じゃうまくできなくて…俺に勉強の仕方教えてくれないかな…。」



ジルは少しの間、沈黙して小さな声で


「だいぶ年下のシェリルにこんなこと頼むの、シェリルが困るんだろうなってわかってるんだけど、他に頭のいいやつ知らなくて。ごめん。シェリルが教えてくれても解らないなら、それはオレが単に役人になれるほど頭が良くなかっただけだから。」


ジルは12歳、15歳で成人だから2年後の試験までにどれだけ解らないことが残っているのだろう。


こんなに年下に頼むなんてこの時のジルは本当に必死だったと思う。


ジルはいつもいいお兄さんで、みんなにも私にも優しい。そういう人は報われた方がいいと思った。手伝えることはできるだけやってあげようと思った。


きっとジルは役人になった後、私やみんなが困ってたら助けてくれると思ったから。


結果ジルは役人にはならなかったけどうちの商会で商人として働いて、いつも私を助けてくれているのだけど。人生予定が変わることもよくあることだ。


…………


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