竜
時々準備に帰りながら転移の魔方陣の研究を進めていたある日、ジャファルの仕事が落ち着いたので遺跡の見学に行くことになった。
今回は身軽にジャファルとカシムと私とクロード様の4人旅だ。本当はレックスも連れていってあげたいんだけど竜には3人乗りは出来ないし、もう一人竜騎士を連れていくとレックスの事を説明しなくてはならない。
転移の魔方陣がどこでも使えるようになるまではレックスはお留守番ということになったのだ。
お城の訓練広場にはジャファルとカシムとドラゴンが二匹待っていた。
「ジャファルお待たせ!」
私のテンションは急上昇だ。
クロード様も落ち着いているように見せてきっと頭は遺跡の事で一杯なんだろう。
ルテニアに来た時と同じようにジャファルと私、カシムとクロード様が相乗りで出発する。
空からの景色は何度見ても感動ものだ。
「うわぁ!この子最高に格好いいねー!!」
ドラゴンが飛び立ち街がどんどん小さくなる。助走もなく上空に舞い上がるドラゴンからの景色は言葉に出来ない。
「ジャファル、そういえばこの子の名前何て言うの?前に聞きそびれてたんだよね。」
「名前か?ラウルだ。」
「ラウル、今日もこの間も乗せてくれてありがとね。」
下ろしてもらったら、もう一度ちゃんとお礼を言おうと思う。
「竜に礼を言うなんてシェリルは変わっているな。」
ジャファルが笑いながらそんなことを言う。
「そう?ラミュールでは家畜や愛馬にも話しかけたりお礼を言ったりするけど?馬車を牽いてもらったり、乗せてもらったり、お乳を分けてもらったりしているでしょう?ルテニアは違うの?」
「どうだろうな?王族は人にも頭を下げてはいかんと教わってきたからな。俺がおかしいのかもしれん。と言っても俺は王族では無いがな。そう言えば、竜騎士にも自分の竜に話しかけるやつも居るし、御者をするものには馬に話しかけるやつも居た。」
「確かに。ラミュールでも田舎の人はみんな話しかけてたけど王都では話しかけてる人は少なかったかな。」
移動中にジャファルから竜騎士の話を聞く。
竜騎士はもともと熱帯近くで竜と暮らす集落があり、その村の人たちが竜をつれて王宮に騎士として志願してきたのが始まりだったという。
戦争の影響でその村とも行き来がなくなり、現在の竜騎士は熱帯で竜の卵や子供を捕獲して飼い慣らしているとの事。
野生の竜は竜騎士が乗るものよりずっと大きくなるらしい。
慣れた竜同士でつがいになったりしないのかと疑問に思って聞いてみたが大人になるまで生きられないのかそういうことは今までに無かったらしい。
家畜なんてそういうものだとわかっては居るけど…。
「なんだか竜が可哀想。」
ジャファルに言うと不思議そうな顔をする。
「だってせっかくご主人様に尽くしても大人にすらなれないんだよ。短命なのはご飯が足りてないのかな?棲みかが狭いからかな?飼い殺しなんて可哀想だよ…。」
「大きくなりすぎて困るんだったら、ある程度になったら野生に返してあげる事は出来ないの?」
こんなに懐いて言うことを聞いてくれるんだから、野生の竜くらい大きくなってもちゃんと仲良くしてくれるんじゃないだろうか?
私は思い付くままに話をする。
ご飯を増やしてあげて大きくなって困るようなら自然に返してあげれば良い。
餌代に困るなら訓練がてらに熱帯に行って一緒に狩りもすれば良いんじゃない?それなら自然に返しても生きていけるよ?
飼育場所に困る?
騎士が通勤できる距離なら別にお城の近くじゃなくても良いんじゃない?兵士と一緒でお城に詰める竜は数匹いれば問題ないんじゃない?
実際に出来るかどうかはやってみないとわからない。
不都合も反対もあるだろう。
でもアイディアを出すだけならタダだ。
ジャファルは今までの考えを批判するような私の話を否定することなく聞いてくれた。
いつかジャファルがこの環境を変えてくれるような気がした。そしてこの子達が少しでも元気で長生きしてくれれば良いなと思った。