結婚準備
次の日になり、お昼前に子爵家から迎えの馬車がやってきた。
緊張してガチガチになっている両親と一緒に子爵家に向かう。
久しぶりの田舎の風景もゆっくり眺めて懐かしさに浸る余裕もない。
そう、私もかなり緊張している。
お屋敷に着くと執事さんと一緒にクロード様が出迎えてくれ、領主様のところに案内された。
ガロワ侯爵様のところから代理人の方が来られていて話はその方と領主様とクロード様でどんどん進んでいく。
父さんと母さんは首振り人形状態で始終“お任せいたします。”と繰り返していた。
私だって貴族同士のことはよく分からない。
貴族の結婚は親が決める事が多いし、親同士の兼ね合いもあるから基本こういうものなんだと思う。
クロード様はきちんと私との事を考えていてくれて、既に国王様、サザーランド伯爵様に根回し済みで転移の魔方陣が完成したらその御披露目パーティーで私たちの結婚式も行うらしい。
御披露目はいつになるかわからないので、冬がる前に身内だけで小さな結婚式をことになった。
王都だと私たちが目撃されるかわからないからサザーランド伯爵領で行うことになっているらしい。
話し合いが終わるとそのまま昼食に招待される。父さんは私が上級学校に通っていた頃や魔術師団に入った頃、婚約が決まった頃など既に何度か領主様とお話をされたことがあったらしい。
父さんはまだ慣れないようだけど、領主様は気さくに話しかけてくださっていた。
私にも「前からずっと話をしたいと思っていたんだよ。」
と笑顔で話しかけてくれる。
「最初にシェリル嬢にあった時はまだほんの子供だったし、君が上級学校に上がるまでは君の名前も学校の成績が優秀だということぐらいしか耳にする機会がなかった。
シェリル嬢が王都に行った年ぐらいだったかな?ブライトン商会が有名になって我が領に来る商人が増えたんだ。
その前までは商人は豆や小麦の買い付けに来るか王都から商品を売りにくるかのどちらかだったが、商人の買い付け品目に聞きなれない商品が増えた。以前は小麦で納められていた税も少しずつ貨幣で支払われる事が増え気がつけば皆が冬を越せるようになっていた。
ブライトン殿に聞けばシェリル嬢が農家に冬の手仕事として始めたものが手が足りなくなり領内に拡がったそうじゃないか。
領内から出ていく若者が減って教会に預けられる孤児も減った。
君の祖父のブライトン殿も父君のローデル殿も自分達だけが利益を得るようなこともせず、今も領に尽くしてくれている。ブライトン商会の皆にはずっと感謝を伝えたかった…ありがとう。」
お祖父ちゃんも連れてきてあげれば良かったかな?
緊張で固まっていた身体がほぐれていく。私の故郷だし領主様にはずっと良くしていただいていたから、ご恩には報いたいといつも思っていたけど、自分が評価されるより実家が評価されるほうがずっと嬉しく感じてしまう。
全然実感の無かった結婚が、こうしてガロワ子爵家に受け入れられていると感じて現実なんだと実感する。
恥ずかしくなって思わずクロード様を見てしまい…目があった私は赤くなってしばらく顔をあげることが出来なかった。
食事の後は、ドレスの採寸やデザインの相談が待っていた。
ドレスの採寸は食事の前が良かったよ…。
だけど白い高級な布をいくつも身体に当てられるとまた結婚式を意識してしまって嬉しいやら恥ずかしいやら…顔がにやけてしまうのを我慢するのが大変だった。
『記憶』でもウエディングドレスは純白で憧れたものだったから幸せすぎて夢なら醒めなければ良いのにと思う。
そう、夢のような幸せはきっと夢だったんだろう。
今の私はまだ夢の中にいたのだった。