※見ているもの
シェリルとジャファルの会話を聞いていて思う。
シェリルが見ているものは僕たちとは全く違うのではないかと。
前から彼女は平民の生活を良くしようとしていた。貴族を相手にすれば自身の名声も利益も大きいのに。
何故なんだろうと不思議に思っていた。
僕たちが見ているものは『今』だ。
いま、僕たちが知っていること、持っているもので生活していくために一番の理想を求めようとしている。
だけど…たぶんシェリルは違う。
彼女が見ているものは『未来』だ。
この先もっと理想的な世界になるように今出来ることを始めようとしている。
僕には彼女の見ている『未来』は見えない。
だけど…その景色を見たいと思ってしまう。
未知の魔方陣と同じくらいに結果が分からない。
だからこそ、その『未来』を見たいと思うのだろうか?
それとも、シェリルが見ている景色だから?
そうかも知れない。彼女は慈愛の塊だから。
きっと平和で暖かい世界なのだろう。
困っている人や苦しんでいる人を見ると必ず手を差し伸べる。
そこからお金を巻き上げようなどと絶対に考えない。
無償で愛を振り撒くのだ。
そしてこう言う。「困っている人を助けるのは人として当然の事ですよ。」と。
彼女は自分の考えは特別ではないという。他の人より助ける手段を多く持っているだけで他の人も同じようにするだろうと。だから、その知識も手段も惜しみ無く人に教え広めようとする。
見ず知らずの人を自分が苦労してまで助けようとするなんて、シェリルくらいだと思う。あんなに危険な目にもあったのに、またこうして他国の見知らぬ人のために何かしようと考えている。
自分の領民以外の事なんて気にしたこともなかった。いや、自分の領地の民でさえ大きな問題にならなければ貧しい者がいても仕方無い事だと思っていた。
問題にならないように教会にお金を出していればそれで良いと思っていた。
だけど、シェリルが言うには貧しい人が増えると争いが増えるらしい。
国ごとに貧富の差が大きくなると戦争の原因になるのだそうだ。
貧しい人がいなくなるようにするのが富める者の務めなのだと。
彼女の見る『未来』はどんなに素晴らしいだろう。
僕はその未来を彼女と見るために緩衝材の役割を果たそう。
「国のシステムをいきなり変えるのは反感が大きいですが、平民を雇って仕事をさせる中で少しずつ魔術を使わせるようにすれば軋みは少ないと思いますよ。」
彼女はまた新しい知識で何かを始めるらしい。
昔、彼女の実家で変わった保存食を作っていたときのように生き生きとしている。
彼女のとなりでその未来を見ることは叶うのだろうか。