プロローグ~ルテニアへのお誘い
前作“ナースな魔術師”の続編になります。
前作をお読みになってからお楽しみください。
更新は不定期です。最初の方は前作から切り離したものを再度投稿しています。
「ジャファル!」
わかれた王城前の広場でジャファルの姿を見つけて声をかけた。
「良かったな。誤解は解けたみたいじゃないか。」
「うん。ありがとう。」
ジャファルが笑ってくれたので、私も笑顔で返す。
「久しぶりだな、クロード。」
「お久しぶりです。その…シェリルを連れてきてくれてありがとうございました。」
クロード様は、少し言いにくそうにお礼を言った。
「そんな顔をするな。」
ジャファルは軽く笑った。
「まぁ、私が邪魔をしてしまったのは事実だ。シェリルを泣かせたままにするわけにもいくまい。
うまく行かなければ今度こそ連れていくつもりだったしな。
今はシェリルが笑ってる。それでいいじゃないか。」
ところで、とジャファルが続けた。
「クロード、お前にも話がある。ゆっくり話したいのだが、明日、場所と時間を貸してくれないか?」
「いいですよ?場所はわかりますか?」
「わからんが、馬車でも拾っていくよ。」
「宿はどこです?迎えをやります。昼食を用意しておきますね。」
……………
私はシェリル。ラミュール王国の魔術師団に所属している。
私には前世の記憶が少し残っていて、そのお陰でいろいろあって聖女と呼ばれたり、トラブルに巻き込まれたりしたけれど、そのお陰もあって以前から憧れていた魔術師団の副団長のクロード様と婚約することが出来た。
ただの商人の娘が上級学校に通うことが出来たり、魔術師団に入ったり、侯爵家の後ろ楯を得てクロード様と婚約することが出来たのは本当に奇跡だと思う。
物語ならここで「めでたし、めでたし。」で終わりそうなんだけど、現実はそうは行かないらしい。
トラブルが完全に解決していない今、地盤を固めて安全を確保する必要があるらしい。
…………
「単刀直入に言おう。お前たちルテニアに魔方陣の研究に来ないか?」
「何の魔方陣ですか?」
クロード様が食いついた。
いやいやクロード様、簡単に釣られ過ぎじゃないですか?
「私たち国に所属してますから、勝手に国外には出れませんよ?」
二人を止めないと勝手に決まってしまいそうだ。
「もちろんラミュールの王には話を通す。この国では小さすぎてシェリルを護れまい?誘拐まではされずとも、大国に圧力を掛けられれば治療に赴かなければならなくなる。ほとぼりが覚めるまで、ルテニアで転移の魔方陣の研究はどうだ?昔使われていた扉が残っているんだ。シェリルも新しい治癒魔術を研究したり拡げたりすればいい。
うちは魔術の国の遺跡に近い。遺跡を見に来るだけでも良いのではないか?お前たちなら面白いものを見つけることが出きるかもしれんぞ?」
あぁ。ダメだ…。クロード様の目がキラキラしてるよ。
団長でもきっともう止められないね。
仕方ないなぁ。
もう昼食どころではなかった。
しっかりと昼食は食べたけど、クロード様は王様から許可が出れば必ず行くと返事をしてしまうし、ジャファルは確実に王の許可を取るだろう。
私は、せっかく帰ってきたのにまた旅が始まるんだな。と平穏な日常が遠ざかったことを残念に思った。
………
サルジャーノに旅だったのは春になったばかりの寒さも残る時期だったのに、もうじっとしていても汗ばむくらいの暑さになっている。
そろそろ私も17歳になるんだな。とあっという間だった一年を思った。
久しぶりに出勤した私たちだったが魔法師団のみんなにお土産を渡して団長とレックスにルテニアに行くかもしれないと昨日の話をしていると、新人の政務官が私たちを呼びに来た。
あぁ。やっぱりね。なんか呼び出されるのに慣れてきている自分がいる…。ちょっと悲しくなった。
団長とクロード様と私は王宮の客室に案内された。
あまりにも豪華な客室でソファーに座るように言われても足が付かなくてバランスが取れない。
ジャファルは豪華な服を着ていて(いつのまに用意していたのだろう?)どこかの王子様みたいに見えた。
話の内容は予想通りで、ルテニアが研究の為の滞在を受け入れてくれるので行くかどうかの確認だった。
クロード様とは昨日のうちに話し合ったので、私たちの中では行くことに決まっていた。
団長はクロード様が居なくなることに少し怒っていたし、ものすごく自分も行きたいとアピールしていたが、許可が出るはずもなく…今回もあっさり長期旅行が決定したのである。