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4.恋色なき園で 11


 翡翠(ひすい)宮は、外観だけではなく室内までも豪奢な作りだ。珠蘭(しゅらん)は客人のように迎え入れられ、(ハク)花妃(ファフェイ)の部屋に通された。


 (つくえ)には湯気が立ち上る花茶が置いてある。珠蘭の分もあるのだろうが、他の宮で飲食することに抵抗があった。ましてや珠蘭が持ってきた届物を踏み潰すような宮だ、毒が入っていたら敵わない。

 警戒心を持ちながらも対面する伯花妃に意識を向ける。仮面はつけたままだが、肌の白さやすらりと尖った顎がわかる。彼女が首を動かすたび、艶々とした黒髪やそれに挿した歩揺が音を立てる。座る姿は、後宮内序列一位を思わせる品位を放っていた。


「おぬしの噂は聞いていた。瑪瑙宮に面白い宮女がいると聞いてな。珊瑚宮女の件で疑われるのは好ましくない。我に聞きたいことがあれば言うがよい、手伝ってやろう」


 珠蘭は礼を述べ、それから顔をあげた。


「では、翡翠宮の(かんざし)を見せていただけますか?」

「翡翠で作られた簪だろう? 花妃の代替わりを祝って作られるものだ――待っていろ、いま見せてやる」


 伯花妃はそう言って立ち上がる。厨子の戸を開き、中から翡翠の簪を持ってきた。


「くれてやることはできぬが、存分に見るがいい」

「ありがとうございます。見せてもらえれば、それで充分です」


 足の先は当然のごとく折れていない。太い簪は文様が彫られ、波濤の間に夾竹桃(きょうちくとう)

 珠蘭はその文様をじいと眺めていたが、その後、ゆるゆると息を吐いた。


(……そうか。犯人が、わかったかもしれない)


 伯花妃が取り出した翡翠簪に、夾竹桃の花は《《四輪》》。それがこの事件の散らばった点を結びつけるものだった。


「不思議な顔をしているな。わかったのか?」


 向かいで珠蘭の様子を観察していた伯花妃が聞いた。珠蘭は顔をあげ、しっかりと頷く。


「はい。この事件が、おそらく解けたと思います」

「ほう、それは面白い」

「あとは珊瑚宮で(リョ)花妃(ファフェイ)の協力を得るだけですね」


 珠蘭の反応がお気に召したらしく、伯花妃は楽しそうに手を叩いている。


「あの首だけの事件だろう? 瑪瑙宮はとんだ犬を飼ったものだ。なんて面白い。お前、この事件を解き明かす時は我も呼んでくれるな?」

「……ご希望であれば」

「くくく。呂花妃にここまで疑われているのだ、潔白を示す場に我がいなくてどうする」


 伯花妃は終始楽しそうにしていた。瑪瑙宮での仮面盗難未遂についても聞きたいと長居を進めてきたが、珠蘭は断った。




(急ぎ、珊瑚宮に向かわないと。あれを確かめなければならない)


 伯花妃の部屋を出て、廊下を進む。


 このときの珠蘭は珊瑚宮に向かうことばかり考えていた。足音が、珠蘭を追いかけてきているなど気づいていなかったのだ。


 そうして廊下の角を曲がった時である。

 がつん、と頭に何かが落ちた。その痛みと衝撃にぐらりと膝が揺れる。


(なにこれ……力が抜ける……)


 体が崩れて落ちていく。歩いていたはずが、視界には床がある。体が動かない。

 誰かが珠蘭の肩に触れた。ぱらぱらと粉が降り注いでくる。


「あなた、殺しにきたんでしょう?」


 その者は確かに呟いた。返そうにも唇が重たく、喉は張り付いてしまったように動かない。声をあげるなどできなかった。


 ぱらぱらと、粉が降る。その出所を確かめようとし――ぷつりと意識が落ちた。

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