メイド長は怖いです-リーナside-
リーナはローザの後ろについて歩きながら尋ねる。
「あのー?何のお仕事ですか」
「黙って来なさい」
「はいっ」
怖い。メイド長すごく怖い。もしかしてお嬢様の前だから仕事って言ったけど本当はお説教!?うぅ、お昼ご飯みんなより多くおかわりしたことかな。それともこの前、うっかりメイド長をお母さんって呼んじゃったこと?思い当たる事が多すぎるよ。
びくびくしながらついて行った先は、物置だった.
「さて、なぜ呼ばれたか分かりますか?」
あ、これ絶対お説教だ。
「も、申し訳ありません!メイド長だって20代ですもんね、お母さんって呼ばれるのは腹が立ちましたよね。反省してます!」
勢いよく頭を下げたが、頭上から聞こえてきたのは困惑したような声だった。
「何を言っているのですか」
「へ?」
顔を上げると、ローザは冷たい表情は変わらないが、眉を少し寄せていた。些細な変化だが珍しい。
「私はあなたのお嬢様に対する態度のことで呼んだのですよ」
「態度、ですか?」
リーナはぽかんとした顔のまま尋ねる。
「ええ。あなたはメイドらしからぬ態度が目立ちます。まだ働き始めたばかりですから、これから学べばいいとしても、先程のようなことは見過ごせません」
言われて行動を思い返す。感情に任せて失礼なことをしてしまったかもしれない。
「お嬢様を平民の少女と同じように思っていませんか?」
「そうかもしれませんけど......でも何とかしてあげるべきじゃないですか。貴族といっても子供なんですよ」
「使用人に何ができると言うんです?」
一瞬にして空気が張り詰めたものに変わった。
「ふ、不満を吐き出す相手くらいにはなれます。それに、小さな子相手に冷たくするなんて私には無理です!」
ローザの目が細められた。そのままリーナを見極めるかのようにじっと見つめる。
ひえええ......絶対怒ってるよ!
リーナは目をそらすことすらできずに固まる。そうするうちにふっと緊張がゆるみ、張り詰めた空気が元に戻った。
「冷たくしろとは言っていません。分をわきまえ、一線を越えるなと言っているのです。......あなたの善性は美点です。フルール家ではなく、お嬢様個人にお仕えするつもりでこれからも励みなさい」
「ひゃい......」
ローザが去るとリーナは体の力が抜けて座り込んでしまった。
「こ、怖かった」
一瞬だが殺気に近いものを感じた。リーナは以前魔物と遭遇した経験がある。その時に感じた感覚と似ていた気がするのだ。
「メイド長っていったい何者なんだろう」