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分かりづらいデレ

 さて、クリアな頭ではないが、できる限りでやってみよう。

 魔法の最も重要なことはイメージだと言っていた、ラナの言葉を思い出す。本来、ポンズは瓶のふたなどを開ける魔法だ。その効果を広く捉えてみればいいのではないか。


 ベルはこの空間が、横倒しになった瓶の中だとイメージした。扉はふただ。

 細く息を吐き、周りのことを意識から追い出してイメージに集中する。その集中が限界まで高まったとき、口を開いた。


『ポンズ』

 とんっと両手で突き飛ばすように、軽く扉を叩いた。


 一瞬の静けさの後、凄まじい音を立てて扉が吹っ飛ぶ。


「あれ、こんなつもりじゃなかったんだけど......」

 もっとスマートな感じで開くと思ったのだが、結果だけ見るとただの力技だった。しかし脱出できたのだから良しと納得して、振り返ると殿下は唖然として固まっていた。


「殿下?これで出られますよ」

 声を掛けるとはっとして、ごまかすように化け物か貴様はと吐き捨てた。

 冗談抜きでそういうこと言われると傷つくな。

 ショックを感じていると、殿下はさっさと地下室を出て行く。


「あ、待ってくださいよ」

 ベルもその後ろに続いて出る。ひしゃげたドアが階段のほとんどを占領しており、細い隙間を体を横にしながら上がる。すると前を行っていた殿下が、片手で元ドアを押して隙間を広げてくれた。階段をのぼりきったベルは礼を言う。

「よっと。ありがとうございます」


 すると殿下はふいと顔をそむけたが、小さな声で言った。

「......フルール、よくやった」

 ベルは思わず吹き出した。

「それ、感謝ですか?ひねくれてますね~」

「黙れ」


 どたどたと足音が聞こえ、乱暴に資料室のドアが開けられる。何事かと視線を向けると、それはチーノだった。

「何があった!?」

 彼の後ろには、フォルスとその友達がいる。ベル達に気づくと目を見開いて、次に安心した様子で息を吐いた。


「いやあ良かった!二人の行方が知れないと聞いて探していたんだが、ここにいたか。しかし大きな音が聞こえたんだが、何の音なんだ?」

 チーノに尋ねられ、ベルたちは無言で地下室の方を見る。

「ん?向こうに何が......アアー!!なんだこれは!?」

「うわすっご。これって暴風姫が?」


 チーノは頭を抱え、フォルスの友達はキラキラした目でベルを見る。

 ああ、変な噂がまた増えてしまいそうだ。ベルは目を逸らしながら説明する。

「誰かの不注意で閉じ込められてしまって......魔法でこじ開けました」


「やっぱりかぁ!いったいどんな魔法を使ったんですか?風の力で押し出すとか?」

 興味津々といった様子で質問してくる友達を、フォルスが小突いた。

「痛っ!何すんだよ――」

「止めろ。お前の好奇心を優先するな」

 頭を押さえて抗議しようとしたが、フォルスの顔を見てすぐに小さくなってしまった。

「すみません......」


 少し哀れだが、勢いに押されて困っていたのでありがたい。

「報告しないといけないから、詳しい話を聞かせてほしいんだけど――」

「明日にしてください、先生。ベルの顔色が悪い。こんな状態で話なんて聞けませんよ」

「しかしなぁ。すぐにでも閉じ込めた犯人を特定しないとまずいだろう」


 わざとでないとはいえ、何らかの責任を問わなければならないとチーノは肩を落とした。すると殿下が特徴を言う。

「耳の遠い老人だ。教師の中で該当する者はいないのか」

 チーノは少し考えて、ぽんと手を打つ。

「そういや、高齢で退職の決まった人がいたなぁ。本人に確認してみるか」


 詳細は明日呼び出しをして聞くと伝えて、チーノは鉄くずと化した扉を片付けるため、人を呼びに行った。

「にしても、お二人とも無事で良かったですよ~。殿下が女性に手を上げるはずがないと信じてましたけど、フルール嬢相手だとすぐにかっとなりますし」

 心配の方向性がおかしい気がするのだが。ベルと殿下は"混ぜるな危険"扱いなのだろうか。

「リノ。貴様......」

 そこで初めて、ベルは彼の名前を知った。殿下に睨みつけられて、分かりやすくしまったという顔をしたが予想した罵声は飛んで来なかった。ひと睨みされただけで終わったことに困惑し、リノは恐る恐る尋ねる。

「あのー、怒んないんですか?どこか調子が悪いんですか?」


「よせばいいのに......」

雉も鳴かずば撃たれまい。

「そういう奴なんだ」

思わず呟くと、フォルスも呆れたように言う。


少しの沈黙の後、殿下は腕を組んで口を開いた。

「馬鹿の相手をして疲れた。流石に二人も相手していられん。......他の奴らはどうした」

リノはその質問に困惑しつつも答える。

「え?ああ、二人なら偶然会いました。こき使われて疲れたから帰るって。そのときに殿下とフルール嬢も雑用を任されたって聞きました」

「ほう?フルールが行方知れずだと知らなかったのか」

殿下は愉快そうに笑う。リノはその笑顔に何か感じ取ったのか、若干怯えながら言う。

「いえ、知ってました。そのときフォルスと一緒で。説明して一緒に探してくれないか頼んだんですけど、断られちゃって」

「何故?」

答えることを渋ったが、殿下が目を細めるとあっさり白状した。

「え、いやその......暴風姫に関わるのはごめんだし、また殿下のやらかしたことに巻き込まれるのも嫌だから、って」

「そうかそうか。嫌なことを無理強いするのは酷だな」


何故だろう。言葉に含みを感じる。怒っているように見えないのが逆に怖い。ベルは本音が気になって尋ねる。

「あの、二人をどうするつもりですか?」

「なに、本人の意思を尊重してやろうと思っただけだ」

そう言ってにやりと笑った。



翌日、案の定というかベルは登校できなかった。父の指示でストップがかけられたからだ。結局2日は登校できなかったが、倒れたことを話していればもっと延びていただろう。


後日フォルスに聞いた話によると、殿下の側にいた二人は疎遠になってリノだけが残ったようだ。彼によると面倒くささは変わらないようだが、何故かこの頃の不機嫌さは無くなったらしい。



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