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密室に二人

「落ち着きました?」

 体力が尽きたらしい殿下は、ようやく話をする姿勢になってくれた。


「......何故そう能天気でいられるんだ。状況が分かっていないのか?馬鹿なのか?」

「誰が――」

 誰が馬鹿ですか、と言いかけた言葉を飲み込む。ここで無駄に言い争いをする意味はない。


「私はフォルス君と待ち合わせしているので、来なければ変に思って探してくれるはずです。殿下も先生に付いて行った二人が探してくれるでしょう?」

 だから騒がず待てばいいと説明すると、殿下はぼそりと呟いた。

「奴らは探さない」

「はい?友達なんですよね?」

「違う」

 そんなはっきり言う?

「奴らは親に言われて俺に取り入ろうとしているだけだ。まったく馬鹿にしている。おだてれば簡単に気を許すと思っているんだ」

「そんな人達には見えませんでしたけど」

「はっ!能天気な貴様には分からんさ」

 また言ったな?私のどこが能天気なんだ。

「お友達の1人が、殿下の代わりに謝りに来てくれましたよ。美味しいお菓子もいただきました。馬鹿にしているんだったら、そんなことしません」


殿下は意外そうに片眉を上げた。

「誰だそいつは?」

「えーとフォルス君の友達の......名前を聞いてませんでした」

「何故聞かない」

「す、すみません」

呆れと苛立ちが混ざったような口調で言われて、思わず謝ってしまう。

いやいや、何で私が殿下に謝ってるの。

気を取り直して今度はベルから尋ねる。


「名前を知ってどうするつもりです?その人を怒鳴るんですか?自分の意に沿わないことをしたから」

「そんな事はしない。第一、詫びを入れたのはまあ......助かった。何だその顔は?」

「いえ、てっきり余計なことしやがるぜ、とか思っているのかと」

「公爵家だぞ?放置すれば後々面倒なことになる。そして何だその口調は。馬鹿か」


あれ?この人自分の行動が何を起こすか、きちんと分かっているんだ。しかしそこまで分かっていてどうしてあんなに短慮な行動を取るのやら。


「しかしそうか......顔色を伺うばかりの奴しかいないと思ったが、使える奴もいるのか」

「使えるって......。はあ、そういう所ですよ、問題なのは。友達に迷惑をかけないよう、自分の行動を省みようとは思わないんですか?」

「......知った事か。分かった上で取り入ろうとしているのだから、せいぜい駆けずり回ればいい」


ベルは再びため息をついた。何てことを言うんだこの人は。案外優しいところもあると思ったが、勘違いだったのか?


「どうしてそう捻くれた考え方なんですか。相手に下心があろうがなかろうが、自分の為に動いてくれたっていうことをもっと重く受け止めるべきですよ。とっさに差し伸べた手が振り払われたら、ガッカリしますし悲しいじゃないですか」

「......」

「まあ、嫌ってる私の話なんて聞かないとは思いますけど」


「お前は」

「はい?」

「お前は、腹が立つことはないのか」

 突然の質問にきょとんとする。しかしそう聞いてくる目が真剣に見えて、姿勢を正した。

「現在進行形で殿下に腹が立ってますけど、そういうことではないですよね」

「ああ。親しげに接してくる裏で、嘲笑し貶める者達に腹が立たないのかと聞いているんだ。その者達がどんなに親切にしようと、俺は笑い返すことなんてできない。たとえ上辺だけでも仲良く(・・・)する方が得と分かっていても」


なんとなく、殿下に感じていた違和感が分かった気がした。この人は自分の気持ちを押し込めて、うまくやり過ごすことができないのか。

「殿下って、生きづらい性格ですよね」

「お前に俺の何が分かる」

思春期か。

ベルは苦笑して言う。

「ちょっとは気持ちが分かりますよ。私も以前似たような知り合いがいましたから」

殿下は興味を示して、目で続きを促した。


「その人は私に対してだけすごく性格が悪くて、他の人の前ではすごく良い人みたいに振る舞うんです。殿下の状況とは逆ですね。勉強も運動もできて、皆彼のことが好きでした。だから困った事に、拒絶すると私の印象が悪くなるんですよ。あんなに優しい人を嫌うなんて変だって」

「だが、上手く離れることができたんだろう?」

「自分の力では無理でした。どんどん逃げ場が無くなって、もう駄目なのかと思ってました。彼と縁を切ることができたのは、本当に運が良かったんでしょうね」


死んで縁が切れたのを幸運と言えるのかは微妙だが。

今どうしているのだろう?あの悪魔的な性格は変わらないのだろうか。しかし、私が死ぬときは流石の彼も焦っていたし、あれをきっかけに少しは人の心を取り戻しているかも――。


......あれ?なんで私が死ぬときの彼の顔なんて知ってるんだ?その場にいたのか?そもそも私の死因は――。


「痛っ!なんで、いっ!?」

「どうした!?」


突然、刺すような頭痛に襲われて立っていられずに座り込んだ。


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