予定が決まりました
翌日、登校するといつもと同じ時間だがまだ数人しか来ていなかった。長期休みを前にして皆気が緩んでいるのかもしれない。先に来ていたグロリアに挨拶すると、算盤をはじく手を止めて顔を上げた。
「おはよう!ベルさん!」
勢い良く立ち上がって身を乗り出した彼女に、驚いて一歩下がる。
「あっごめんなさい。つい」
はっとしたグロリアは、恥ずかしそうに頬を染めて椅子に座り直した。
「どうしたの?今日は来るのも早いし」
鞄を机の横にかけ、席に着いて尋ねるとグロリアは身体ごと横を向いて言う。
「確か、長期休暇の予定がまだ決まっていないって言っていたわよね?それで提案なのだけれど......い、一緒に温泉に行かない!?」
「え?お湯が湧く、あの温泉?」
「そう!私の家では毎年夏に、温泉地のホテルに行くのが恒例なの。父にベルさんのことを話したら、お誘いしたらどうかって。とても素敵なところよ。ぜひ来てほしいわ」
ベルは少し考えて頷いた。
「行ってみたいな。両親に聞いてみないと、はっきりと返事はできないけど」
「許可がもらえるといいわね!」
花が咲くような笑顔で言ったグロリアに、提案なんだけどとベルは言う。
「ラナさんも誘ってみたら?」
「もちろんよ。声はかけてみるつもりだったの。でも平民と一緒に休暇なんて、あの子は嫌なんじゃないかしら」
グロリアは断ると思っているようだった。
「大丈夫だよ。今更そんなこと気にしないって」
ちょうど登校してきたラナに手招きすると、彼女は不思議そうな表情でこちらに来た。
「何かしら?」
その顔を見て、グロリアが耳打ちする。
「ちょっと!なんだか分からないけれど怒ってないかしら!?」
「そんなことないよ」
多分眠くて睨んでいるように見えるだけだ。
「突然ですけど、一緒に温泉に行きませんか?」
「はい?」
訝しげな顔で首をかしげる。唐突すぎるわよ、とグロリアが呆れた様子で経緯を説明した。
「どうですか?三人ならきっと倍楽しいですよ」
話を聞いて、ラナは驚いた様子で口に手を当てる。そして申し訳なさそうに尋ねた。
「......ご一緒しても、本当によろしいんですの?」
ベルは頷き、グロリアももちろんよ、と頷く。ラナははにかんで、深々と頭を下げた。
「ご配慮、感謝いたします」
「ちょっ!?かしこまることなんてないわよ!」
「そうですそうです!顔を上げてください!」
グロリアと一緒に慌てながらも、ラナの顔色が少し良くなったように見えて、ベルは一安心した。