嘘
ラナは目を伏せ、静かに言う。
「昼休みに寝不足の理由を尋ねられたとき、実は嘘をついたのです。本当は幽霊など怖くありませんでした。とっさに頭に浮かんだことを言っただけですわ。それなのに、フルールさんが私の為に動いてくださることが申し訳なくて......」
良かれと思って調べたが、逆にストレスになっていたのか。
「すみません。私、いらない気をまわしてしまいました」
するとラナは恐縮したように首を振って否定した。
「いいえ!そんなことはありませんわ!私がつまらない意地で嘘をついたのがいけないのです」
「......聞いてもいいですか?本当の理由」
恐る恐る尋ねると、ラナは申し訳なさそうに微笑んだ。
「ええ。つまらない理由なのですけれど......長期休暇が、つらくて」
「長期休暇、ですか?」
予想外の答えに、ベルは聞き間違いかと思って聞き返した。
「はい。もうすぐ長期休暇に入ると思うと、憂鬱で仕方がないのですわ」
普通逆では?楽しみで仕方がなくて眠れないというなら分かるが......。
「お休みですよ?好きなことをして過ごせるのに、嫌なんですか?」
「嫌ですわ」
きっぱりと言い切った。
もしかして......授業を受けられないのが嫌なのだろうか。勉強に集中するために寮に住んでいると言っていたし。しかしそれで寝不足になるほど悩むかというと微妙だ。
ベルの予想は、小さな声で付け足された言葉によって否定された。
「長期休暇になると、家に帰らなければならないでしょう?私は、家には戻りたくないのです」
「ええと、もしかして、寮に住んでいるのも同じ理由ですか?」
「......ええ。寮を選んだのは勉強のこともありますが、その理由の方が大きかったですわ。......私、嘘ばかりついていますわね」
ラナは唇を噛み、うつむいた。
「ラナさん......」
なんとか励まそうとした時、前方から聞き慣れた声が聞こえた。
「ベル。用事は済んだのか?」
チーノに頼まれた雑用が片付いて、ベルを迎えに来る途中だったようだ。
「フォルス君。済んだと言えば済んだんだけど......」
本来の目的は果たせていないというか。
曖昧な返事を聞いて、フォルスは怪訝そうな顔をした。
「何かあったのか?俺に手伝えることがあれば――」
「大丈夫ですわ」
言葉を遮ったラナは、笑顔で繰り返した。
「大丈夫です。フルールさんのおかげで解決しましたので」
有無を言わせずに、ありがとうございましたとお礼を言って頭を下げる。
「では、私はここで失礼いたします。御機嫌よう」
感情を覆い隠すように、完璧な微笑みを浮かべて一礼し、寮に戻って行った。
フォルスは小さくなったラナの背とベルを交互に見て、小さくため息をつく。
「彼女、かなり無理をしているな。明らかに嘘だと分かる」
「ねえ、フォルス君。人の家の問題に、どこまで踏み込んでいいんだろう?」
フォルスは腕組みをして、少し考えて言う。
「必要以上に踏み込まないのが正解だと思う。首を突っ込んだところで何もできないし、当人も醜聞となることを避けたいはずだ......けどまあ、放っておけないんだろ?」
頷いたベルに笑って言う。
「友人として相談に乗るくらいはいいと思うぞ。結局のところ、どうするか決めるのは本人だしな。一緒に悩む奴がいるだけでも気が楽になるだろ」
「フォルス君......普段ドライだけど割と優しいよね」
「やかましい。帰るぞ」
ベルはさっさと歩きだしたフォルスを小走りで追いかけた。