女子寮の怪談
ラナは私も詳しくは知らないのですけれど、と話し始めた。
「昔、寮生だった平民の女子生徒があそこで首を吊ったそうですわ。理由は、いじめを苦にしてだとか恋人にふられたからだとか、色々です。その辺りは重要ではないのでしょう。そして亡くなった後、庭に夜ごと青白い光が現れるようになったという話ですわ。だからあの庭は荒れ放題なんですの」
「さっき幽霊が出たって言ってましたけど、実際に見た人がいるんですか」
「ええ。同じ寮の2年の先輩方が3日前の晩に見たと」
そんな最近になって急に現れるなんて、気まぐれな幽霊だな。
ラナは苦笑して言う。
「もしかしたら私を怖がらせようと嘘をついただけかもしれませんけれど」
「その先輩たちに話を聞くことはできますか?」
尋ねると、戸惑った様子を見せたが頷いた。
「可能ですが、何故?」
「証明ができないにしても、原因に見当がつけばフェリシアさんの不安が減らせるんじゃないかと思って。あと、単純に興味がわきました」
そう言うと、ラナは思わずといった様子で口を開いたが、結局言いかけた言葉を飲み込んで微笑んだ。
「分かりました。先輩方に話しておきます。今日の放課後でよろしいですか?」
「はい。お願いします」
「こちらです」
ラナの案内で、ベルは再び女子寮を訪れた。庭から見えた壁は蔦に覆われていたが、表側は取り払われており、庭と違い手入れされていることが分かる。
「この建物、結構古そうですけど、いつからあるんでしょう?」
「数十年ほど前に建て替えられてから、外観はそのままだと聞いてますわ。ですが中は定期的に改装されていますから、綺麗に整えられているんですの」
玄関に入ると、確かに新しく清潔感があった。寮というと壁が所々剥がれていたり天井の隅にクモの巣がかかっているようなものだと思っていたため、イメージの差が大きい。
ラナの後ろについて階段を上る。
「先輩方はタイニーさんのお部屋に集まっていらっしゃいます」
言いながら、27と書かれた扉の前で止まった。コンコンとノックし声をかける。
「ラドミレです。ベルさんを連れて参りました。いらっしゃいますか」
どうぞ〜とゆるい声が返ってきた。
「失礼します」
ベルも続けて、失礼しますと中に入る。まず最初に聞こえたのは、楽しげな笑い声だった。
「ふふっそうなの?あの子なかなかやるわね」
「私も素敵な男性を捕まえたいわ」
丸テーブルを囲んで、三人の女子生徒が話している。うち一人が扉の方を向いて軽く会釈した。
「お待ちしておりました。どうぞお座りになってください」
残り二人も話を止めてベル達に視線を向ける。
「どうぞ。上級生相手だからって遠慮しなくていいのよ」
「パウンドケーキはお好き?お茶でも飲みながらお話ししましょう」
意外にもフレンドリーな態度である。失礼しますと断って席に着くと、気楽にしていいのよと言われる。驚いていると、はいどうぞと別の人がパウンドケーキの乗った皿を目の前に置き、もう一人はティーポットとカップを取って紅茶を注ぐ。
ベルは様子を伺いながら尋ねる。
「あの、皆さんは貴族......ですよね?」
三人は気分を害した様子もなく頷いた。
「貴族と言っても位が低いから、ほとんど平民と変わんないんだけどね」
「そうそう。プライドだなんだと一々気にするだけ無駄ですわ」
「お茶どうぞ。不快に感じられましたか?」
「いえ、むしろ親しみやすいです」
いい意味で貴族らしくない人達だ。
「話の前に自己紹介をさせてもらうわ。そうした方が都合がいいでしょ」
「そうですね。お願いいたします」
フェリシアがそう言うと、じゃあ私からね、とロングヘアの先輩はフォークを置いた。
「カトレア=タイニーよ。好きな男性のタイプは財力のある人!」
正直な人だな。では次は私が、とウェーブのかかったロングヘアの人が手を挙げる。
「リリア=アートですわ。美形な方が好みです」
最後のボブの人は、少し照れた様子で言う。
「ルナ=コロニーです。ええと、誠実な方が......好きです」
タイニーは、赤くなっている彼女ににやにやしながら言う。
「んー?誰か想う人でもいるのかしら〜?」
「ちっ違うから!そんなんじゃないもん!」
そっぽを向くが、今度はアートが退路を塞ぐように覗き込んで尋ねる。
「隠さなくてもいいのよ。絶対言わないから教えて」
「ひえぇ」
こんな光景どこかで見たような......あ、女子高生の昼休みだ。
どこの世界でも恋バナは同じような感じなんだなぁと思っていると、ラナがこほんと咳払いをして三人に声をかけた。
「そろそろ、お話を始めてもよろしいですか?」
「あぁ、そうだったわね。忘れてたわ」
三人は姿勢を正した。二人は残念そうだが、コロニーは追及が終わってほっとしているようだ。
「では......三日前、先輩方が見たという幽霊のことを教えていただけますか」
「良いわよ。言っておくけど、本当にあったことだから」
タイニーは不敵に笑い、テーブルに両肘を立てて手を組み合わせた。