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可哀想なお嬢様-メイドside-

 最近雇われたばかりの若いメイド、リーナは一人分の食事をワゴンに乗せながら小さくため息をついた。

 貴族と平民は生活が全く違うとは聞いていたけど、これも普通なの?私の家はいつも家族一緒に食事をとっているのに、まだ小さいお嬢様は一人ぼっちで食事しなきゃいけないなんて。

 ベルの部屋へ食事を運んでいると、向かいから二人のメイドが楽しそうにおしゃべりしながら歩いてきた。その片方の顔を見て、リーナは思わず声を掛ける。

「あの、ザビエラさん。メイド長からお嬢様の側にいるようにと指示を受けたはずでは?お嬢様はまだお戻りになっていませんが」

 するとザビエラは一瞬顔を歪めて取り繕ったような笑顔で言う。

「たった今戻ったのよ。それを伝えに行く途中だったの。何?あなた私がサボっていたとでも言うの?」

 腕を組んでつかつかと詰め寄ってくる様子に萎縮して、リーナは慌てて頭を下げた。

「いえ、すみません。私の早とちりでした」

 ザビエラともう一人のメイドのサボりぐせは新人のリーナの耳にも入るほど使用人仲間のうちで有名だが、はっきり注意ができないのは彼女たちが貴族だということが関係していた。爵位は低いが、それでも貴族は貴族。変に関わって目をつけられたくはないのだ。

「で、では失礼します」

 去ろうとするとちらりとワゴンを見たザビエラが、待ちなさいと呼び止める。

「えっと、何か?」

 縮こまっているリーナを面白そうに見て尋ねる。

「それ、お嬢様の所へ持っていくの?」

「はい、そうですが」

「あまり関わらない方がいいわよ。あなたは平民だから知らないだろうけど、うちのお嬢様は呪われているんだから。だから公爵様も奥様も必要以上に関わろうとしないの」

「はい?それはどういう......」

 戸惑うリーナをよそに二人は顔を見合わせてクスクス笑っている。

「お嬢様のあの見た目よ。銀髪に、青と琥珀色のオッドアイ。誰かと同じだと思わない?」

 一体何が言いたいのだろう。


「すみませんが、お嬢様が待っていらっしゃるのでお話はまたの機会に」

 再度頭を下げてワゴンを押そうとしたリーナの肩を、もう一人が掴み強引に止めた。どうしても話を聞かせたいらしい。

「察しが悪いわねぇ。平民だからかしら。大罪人グレイスと同じなのよ!絵本で読んだことくらいあるでしょ」

「いえ無いです……」

 これだから貧乏人はと嘲笑われる。事実ではあるが、目の前で笑われて気分が悪い。無意識に口調をとがらせて言い返す。

「同じ色の人なんて世の中にたくさんいると思うのですが」

「あんな珍しい容姿そうそういるもんですか。それに、グレイスが公爵様の兄だっていうのは貴族なら誰だって知っているわ。公爵様もまさか自分にも奥様にも似ないなんて思わなかったでしょうねぇ」

「だから呪いだと?」

「本気で信じているわけじゃないけどね。でもまるで生まれ変わったみたいじゃない?気味が悪いわよ」

 そんなくだらないことで幼い子供を貶めたのか。

 リーナは唖然とし、怒りを覚えた。

「あの!お嬢様のことをそんな風に言うのはやめてください!」

 失礼します!と返答を待たずにリーナは立ち去った。



 あっけにとられてリーナを見送った二人は、彼女の姿が見えなくなると我に返り、不満をまくし立てた。

「何よあの子!平民のくせに調子に乗ってるんじゃないの!?」

「一度立場というものを分からせてやりましょうよ!」

「誰の立場ですか?」

突然聞こえた声にぎょっとして振り向くと、表情のないローザが立っていた。

「メ、メイド長!?」

「どうしてここに」

慌てる二人に冷ややかな視線を向け、感情のこもらない声で告げた。

「あなた方には今日限りで仕事を辞めてもらいます。今すぐ荷物をまとめなさい」

「は!?」

「な、何を言うんです。そんな勝手が許されるわけないでしょう!私は貴族ですよ!あんたを辞めさせるように公爵様に言うこともできるんですから!」

驚きのあまりザビエラは口調が崩れているが、ローザは指摘せずに淡々と返す。

「お父上に泣きつくつもりですか?無意味ですよ。あなた方が雇われたのは、お父上が公爵様に頼み込んだからです。あなた方に箔をつけてなるべく裕福な商家へ嫁がせようと思ったのでしょう。私も厳しく指導する必要はないと仰せつかっておりました。しかしあまりに目に余る。努力のかけらも見当たらない。全く成長しない」

 一歩一歩近づくローザ。ザビエラは気圧されて思わず後ろに下がる。もう一人は先ほどから後ろで震えていた。

「これ以上無能を放置するわけにはいきません。大人しく帰りなさい」

 ぎりぎりと歯を噛み、ローザを睨みつけたザビエラは何を思ったか片手を振り上げた。

「この!」

 ローザは表情ひとつ変えずにその腕を掴み、拳を腹に打ち込む。

「ごっふ!」

 腹を抑えてうずくまるザビエラ。それを虫でも見るかのような目で一瞥して彼女の襟首を掴むと、すっかり怯えきっているもう一人の方を向いた。

「荷物は後で送ります。今すぐ出て行きなさい。後日処遇を知らせます」

 彼女は泣きながらガクガク首を振るのだった。


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