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好き嫌いは良くない

「私達はご飯じゃないから、野菜で我慢してくれると嬉しいなー。えっと、野菜は健康にいいんだよ?」

「グルァ!」

 説得を試みてみるが、はよ肉寄越せと言わんばかりの唸り声が返って来た。

「えええ......」

 今度は代わってフォルスが言葉を投げかける。

「お前な、食事をとらなければ死ぬんだ。選り好みしている場合じゃないだろ」

「グルルルッ!」

 全く聞く耳を持たない。二人で顔を見合わせて困っていると、バロメッツはずりずりと後ろ足を引きずって此方へ近づいてくる。

「あ!ダメだよ!そんなことしたら怪我が酷くなるよ!?」

「お前は自分が食われることを心配しろ!」


 フォルスに引っ張られながら、バロメッツに何度も止まるように呼びかけるが当然ながら止まってくれない。しだいに足にぐるぐる巻かれた包帯に血が滲んできた。

 そして呻き声をあげ、ぺしゃんと伏した。浅く呼吸しながら震えている。


「え、ちょっ!大丈夫!?」

 慌てて駆け寄るが、唸る元気もない様子だ。

「おいっ!離れろ!」

「でも......」

 魔物に同情なんてするなと腕を掴んだフォルス君、待ったをかけたのは意外な声だった。

「問題ナシ」

ポケットからぴょこっと顔を出したのは、ちびマンドラゴラだった。いや本人は喋れなかったはずだ。となると今話したのはもっちだ。

「生命維持デ、手一杯。攻撃デキナイ」

「は!?」

 面食らっているフォルスをよそに、ぺちぺちと細い蔓でバロメッツを叩く。

「こらっ!瀕死の人になにするの!」

「人ではないだろ......」

 叱りつけると蔓を引っ込めてこちらを向いた。その表情は変わらないが、どことなく不満そうに見える。いったい何が気に入らないのか。


「どうしたら助けられる?」

種族が違くても、同じ魔物なら何か思い当たることがあるかもしれない。

「......魔力ヲ供給スレバ良イ。シカシ推奨ハシナイ。危険」

 体力が回復すると襲ってくると言いたいのだろう。

「魔力って、いつもやってるようにやればいいの?」

「だめだ、止めろ」

「でも......」

 言っているうちにバロメッツの震えが酷くなる。

「っ!急がないと」

 無理に口をこじ開けようとした時、けふっと何か吐き出した。それきり全く動かなくなってしまう。

「え......?」


 体に手を当てて、心臓が動いていないことに気づく。

「死んじゃったの......?」

「気に病まなくていい。元々魔物の飼育は難しいと言われているんだ」

 遅かれ早かれ死んでしまうんだとフォルスは言うが、ベルは突然のことに現実が受け止められない。

「もっと早く気づいてあげられれば......」

 ふと、足先に何かこつんとぶつかった。手に取って見ると、表面がざらついた黒っぽい球体だ。アボカドの種に似ている。

「これ、最後に吐き出したやつかな?」

「そう。......?生体反応、有リ」

「へ?あ、種だから?」

「魔物ノ、生体反応」

 一拍遅れて理解する。このアボカド的なものの中に魔物が入っている?


 フォルスと顔を見合わせる。

「ひとまずそれを置け。刺激を与えるな」

「りょ、了解」

 床の上にそっと置こうとしたとき、脇から伸びた蔓に持っていかれてしまった。

「興味深イ。詳シク調ベタイカラ、持チ帰ッテ」

「は?何をふざけたことを――」

「いやー、二人ともありがとう!今後も都合がつかないときはお願い......アー!!枯れてる!」

 突如として割って入った声にぎょっとして扉の方を見ると、こちらへ歩いてきたチーノはベル達の前に倒れたバロメッツを見るなり頭を抱えて叫んだ。


「いやあのこれは」

 しどろもどろになりながら説明しようとしていると、フォルスが要領よくまとめて状況を伝えた。

「そうかー。3週間はもつと思ったんだがなぁ」

 チーノはバロメッツが長生きしないことを知っていたようだ。ベルはその態度を疑問に思って尋ねる。

「あの、あまりショックを受けていらっしゃらないんですね?」

 短い付き合いとはいえ、飼っていた動物が死んでしまったらかなり落ち込みそうなものだが。

「ん?ああ、もうちょっと太らせたかったなぁ」

「太らせる?」

「ああ。せっかくだから枯れたら試食してみようと思ってたんだよ」

 ししょく?何言ってるんだこの人?

 フォルスは何かを察したのか顔を引きつらせる。

「チーノ先生。まさか、これを食べるつもりですか」

「そうだけど?解体を手伝ってもらわなきゃならないからフォルスは決定として、ベルさんも食べてみるかい?」

「ど」

 ど?とチーノが首をかしげる。

「道徳的に無理ですー!!」

 最低だ最低だ最低だ!信じられないこと言ってるよこの人!


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