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メンチきられました

 重ね重ね失礼を致しましたと謝られ、いえいえと互いに頭を下げ合ってお兄さんと別れた。

 結局セスティはおらず、体育の時間にまた探してみようと思いながら廊下を歩いていると、前方から三人の女子がやってきた。目が合うとはっとした顔をして、顔を見合わせてクスクス笑う。

 私に用があるのだろうか。しかし全く知らない人だ。通り過ぎようとすると、案の定声をかけられた。

「ちょっと、ベルさん」

「はい、何か用ですか?」

「ええ、お話ししたいことがありますの。来ていただける?」

 真ん中の女子が代表して話すようで、両脇の人達はにこにこしたまま黙っている。

「良いですけど、場所変えないと話せないんですか?」

「ええ、長くなるかもしれませんから」

 別に自分は長時間立ち話でも構わないが、この人たちがそれを気にするなら従っておこう。


「こちらですわ」

 てっきり座って話せる場所かと思ったが、連れてこられたのは人気のない薄暗い場所だった。辺りを見ると花壇が目に入ったが、花は植えられておらず、石の敷き詰められた小道の脇には雑草が伸びている。

「あのー、こんなところで何の話があるんですか?」

 赤い髪の人がにやりと笑って言う。

「あらぁ?心当たりがあるんじゃないの?」

 あ、脇の人も喋るんだ。真ん中の人の後ろに控えてるから、ずっと黙ってるのかと思った。

「いえ、全然ないです」

 初対面だし。真ん中の人が袖口から扇子を取り出し、ばっと開いて口元を隠す。

「とぼけても無駄ですわ。あなたが殿下を怒らせたことは誰もが知っていますわよ」

そのことか。

「確かに怒ってましたけど、それとここに連れてこられたことは関係があるんですか?」

 尋ねると右端にいた緑の髪の人が苛立った声をあげた。

「しらばっくれるのもいい加減にしなさいよ。公爵家だからっていつまでも大きい顔をしてられると思ったら大間違いなのよ!」

 詰め寄ってこようとした彼女を真ん中の人が止める。

「まあまあ、彼女は状況を理解していないのですわ。私たちで教えて差し上げようではありませんか」

 きちんと教えてくれるというのであればありがたい。

「手短にお願いします」

 すると何故か真ん中の人が口の端をひきつらせ、緑の髪の人は唇をかんだ。赤い髪の人は楽しそうに笑って言う。

「威勢がいいわねぇ~」


 真ん中の人は私に近づくと、閉じた扇子を鼻先に突き付けて言う。

「あなたは身の程をわきまえずに殿下に無礼なことをしたわ。それを謝罪することもなくのうのうと過ごしているのはどういうわけかしら?」

「殿下が失礼な態度だったので、提案を断っただけですよ。謝ることなんてしてません」

 真ん中の人が言葉に詰まると、緑の髪の人がすかさず言葉を飛ばす。

「呆れた言い分ね。その驕った態度が気に食わないのよ!」

 ベルはその言葉で、連れてこられた訳をなんとなくであるが理解した。つまりこれは、ヤンキーに体育館裏に呼び出されるようなアレではないか?おめえ最近調子乗ってんな、みたいな。

「あなたたちは私に何をさせたいんですか?殿下に謝りますよって言ったらお話は終わります?」

「口が減らないわね......!この魔女が!」

 さっきまでの微笑みは嘘だったのか、真ん中の人はベルを睨みつけた。

「魔女ってあなたも魔法使うじゃないですか。自分に返ってくる悪口は意味がないですよ」

「うるさいわね!」

 すると赤い髪の人が声をあげて笑って言う。

「同じ魔女でも、モネが言ってるのは悪い魔女のことよ~」

「悪い魔女?」

「そう。正確には悪い魔法使いだけど――」

 ゆったりとした言葉を遮って、真ん中の人が叫んだ。

「そんなことはいいですわ!彼女は反省するつもりがないようだから、直接体に分からせてあげますわ」

 振り上げられた扇子を見てとっさに手で頭をかばう。

「痛っ!」

 ぱしっと手の甲に当たった。血は出ていないと思うがひりひりする。

 彼女は鼻で笑い、再度扇子を振り上げる。しかしさすがに二度もくらう気はない。振り上げた手を掴んで叫ぶ。

「誰かー!助けてくださーい!不良に襲われてますー!」

「なっ放しなさい!!」

腕を振り回して空いた手でベルを引き剥がそうとするが、若干こちらの力の方が上回っている。これなら押さえこめるかと思った時、強い力で突き飛ばされてベルは尻もちをついた。


突き飛ばしたのは緑の髪の人のようだ。真ん中の人は腕をさすりながら勝ち誇った顔でベルを見下ろす。

「叫んだって誰も来ないわよ。ここは幽霊が出るって言われてるんだから」

何だそれ。

「そんなの誰が信じるんですか。通りかかる人が気づいてくれるはずですよ」

「それがそうでもないのよねぇ。この全然手入れされてない庭が証拠よ。怖がって誰もここに寄り付かないの」

いやいや、魔物がいる世界で幽霊が怖いって何なんだ。しかしもしそれが本当だとすると、ちょっとまずいかもしれない。

 なにせここは建物にコの字に挟まれた奥まった所のため、多分私達の姿は見えないのだ。遠くから見て気づいてもらえる可能性はない。残る希望は建物内の人に気づいてもらうことだが、人がいなければおしまいだ。そもそもこの建物は何なのか?蔦が絡まっている色褪せた壁は結構古く見えるのだが。使われてない倉庫とかだったらどうしよう。


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