炭酸水系王子
いつものようにグロリア、ベル、フォルスの三人で昼食をとっていると、隣いいかしらと遠慮がちに声をかけられた。
「あ、ラナさん。どうぞどうぞ」
彼女は実技試験のときに同じグループになった女子だ。あれから機会があるときには少し話すくらいの仲になっていた。突然どうなさったんですか?と警戒した様子でグロリアが尋ねると、彼女は疲れた様子で答える。
「二階に居づらいんですのよ。フルール嬢に睨まれている私と関わり合いになろうとする人なんていませんわ。クレーン嬢は上手く立ち回っているようですけれど」
おかげで私一人が悪者扱いですわ、と吐き捨てた。
「私睨んでなんていませんよ?」
「皆はそう思ってるってことですわ」
はあ、厄介だな。
「面倒なんですね、貴族って」
「あなたがそれをおっしゃるの?」
呆れた顔をされた。
「ベルが気にしていないとはいえ、嫌味を言った相手にすり寄るなんて図々しいとは思わないのか?」
「だめだよフォルス君、そんな喧嘩腰じゃ仲良くなれないよ」
「仲良くなろうなんて思っていない」
まったくもう、頑固だな。
「私は気にしてませんから、居心地が悪いときはいつでも来てもらっていいですよ」
ラナは感謝いたしますわ、と頭を下げた。
「いやいや、いいですからそんな。頭をあげてください」
「いえ、オービッド様のおっしゃることはもっともですわ。私が貴方を侮っていたのは事実です」
申し訳ありませんでした、と更に深く頭を下げる。
「本当に気にしてませんから!侮ってたとしても表に出ていなければ怒りませんよ。それにちゃんとエアロカッターの出し方教えてもらいましたし、それでチャラです」
はい、この話はこれでおしまいですと手を打ったが、フォルスとグロリアはまだ納得していないようだった。
「自分の立場が悪くなって初めて謝りに来るなんて、虫の良い話だと思います。ああ、平民の戯言なんでお気になさらず」
グロリアは貴族相手なので丁寧な口調だが、明らかに喧嘩を売っている。流石に言い過ぎだと思い、諌めようとした時だ。急に周囲のざわめきが大きくなった。
「ここ良いか?」
尋ねたその人は返事を聞かずに座る。なんだこの人。隣を見るとそこに居たのはとんでもない美少年だった。きらっきらの金髪とスカイブルーの瞳。夏に炭酸水のCMに出ていそうな容姿だ。驚いた様子でフォルス君が言った言葉で、その正体が分かる。
「殿下!なぜここに」
「え?殿下?」
何だっけ、最近名前を聞いたはず。
うーんと思い出そうとするが出てこない。首のところまできているのに。
殿下はじろじろと無遠慮にベルを見て言う。
「なんだ、話に聞くより大人しいじゃないか」
「噂を真に受けないでください。わざわざ彼女を見にいらしたのですか?」
それもあるが、と殿下はフォルスに視線を向ける。
「お前、ここのところ二階に来ないだろ。俺の誘いを断ってなぜ悪名高いフルール嬢と食事をしているのかと思ってな」
そんなに悪い噂が広まっているのかとベルは驚く。
「お断りしたことは、申し訳ないと思っています。ですが彼女は目を離すと何をしでかすか分からないので、優先せざるを得ないのです」
私は子供か?
「フォルス君、グロリアさんがいるからそんなに心配しなくても大丈夫だよ。他の友達も大事にしなきゃ」
気を遣って言ったのだが、フォルスは黙っていろとばかりに睨んだ。殿下は面白そうに言う。
「フルール嬢は公爵家なのだから、二階に行く資格はあるだろ。友人も連れてくればいい。お前に興味がわいた。色々と話を聞きたい」
資格と言ったことに引っかかる。この人は学園のくだらないルールを当然のものと思っているのだろうか。「ありがたいお話ですが、彼女は礼儀がなっていませんので――」
フォルスが断ろうとすると、かまわないと遮る。
「どうだ、フルール嬢」
尋ねる口調ではあるが、その表情は断られるとは微塵も思っていなさそうだ。ベルは殿下に向き直り、口を開いた。
「お断りします」
「は?」
殿下は目をまるくして、次に不快そうに目を細めた。
「貴様、俺が誰だか分かっているのか?父上に言って婚約者候補から外してやってもいいんだぞ」
「ええ、どうぞ。私は王妃になる気はないので」
「は?」
殿下は固まった。唇を震わせ、本気で言っているのかと言う。
「本気です。差し出がましいようですが、そういう何でも思い通りになるのが当たり前という態度は、止めた方がいいですよ。子供っぽいので」
唖然とした様子の殿下を立たせ、フォルスは言う。
「申し上げたでしょう。礼儀がなっていないのです。こういう人間には関わらないのが一番です」
「ありえない、おかしい......」
殿下はフォルスに連れられてしょんぼりした様子で行ってしまった。
冷めてしまったスープに口をつけていると、よかったんですの?とラナが尋ねる。
「お家のことを思えば、気に入らずとも取り入った方が得ですわ」
「そうなんですけどねぇ。つい勢いで言ってしまいました」
「ついって......」
ラナは困惑した様子だ。
「父には悪いと思いますけど、私はこうして仲のいい友達とのんびり過ごすのが好きなんです。殿下は、一緒にいてちょっと疲れそう」
セレスティーナは彼のどこに惚れたのだろう。顔か?置物のようになっていたグロリアがやっと口を開く。
「はあ、ベルさんは変なところで豪胆なんだもの。心臓がもたないわ」
ご面倒おかけします。
攻略対象No.1
カルロス=ロメン
自身に逆らう者には容赦しない、俺様王子。文武両道で恐れる物は無いといった態度だが、実は周囲からの期待を重荷に感じている。
ヒロインの貴族らしからぬ天真爛漫で自由な振る舞いにひかれる。
バトルでは主に剣を使う。攻防ともに欠点の無いバランスタイプ。属性:火。