やらかした
本の説明によると本来ならばマッチくらいのちょっとした光が灯るだけらしい。それが何故こんなことになったのか。該当する箇所がないか目次に戻ってみると、それらしいものが見つかった。魔力暴走について、と言う見出しだ。
『魔法の発動に失敗したとき、多くは魔力が拡散して何も起こりませんが、上級魔法のような複雑な魔法であれば、発動者を巻き込んで術式以上の効果を及ぼす、魔力暴走という状態になる場合があります。中級魔法でも稀に起こるため、くれぐれも自分の力量からかけ離れた魔法を無理に使わないでください。死にますよ』
怖っ。
あれ?つまり自分は初級魔法を使う力量すらないということにならないか。
悲しい。いや待て、諦めるのはまだ早い。現在私は家庭教師に魔法を習っていない。それは私にはまだ早いということでは?ならば伸び代がある!
「後でローザに聞いてみよう」
初級魔法の手引きを棚に戻して他に面白そうな本がないか探してみる。奥の本棚を見ていた時だ。
「なんだアレ」
気づいたのは偶然だ。ベルの身長から、3段目あたりから上は見上げる形になるのだが、本の収められた棚の上側に何かマークが彫ってあるのを見つけた。大人だったら腰くらいの高さだから、床に仰向けに寝そべるような体勢にならないとまず見つけられないだろう。
台を持ってきて近くで見る。いたずらで彫ったにしては細かいマークだ。かといって装飾ではないだろう。普通見えないし。いや、見えないのが逆におしゃれなのか?
「んー。何だろう」
指の腹で線をなぞりながら考えていると、突然腕から指先に掛けて熱が走り抜けたような気がした。
「わっ!?」
驚いてバランスを崩し、台から落ちかける。とっさに棚に爪を立ててしがみついた。危ない危ない。
「なに今の」
腕を確認してみるが、怪我などはしていない。不思議に思いつつ顔を上げて、思わず声を漏らした。
マークが青く光っている。そしてガラララという音がし始める。
何か良くないことをしてしまったような気がして焦る。キャンセルはできないか?誰かに見られたら怒られそうな気がする。もう一回触ったら消えるんじゃないかと予想して、混乱しながらぽんぽん何度かタッチしてみるが消えない。音も止まらない。
「ローザに怒られるー!」
彼女が怒るとものすごく怖い。何とか元に戻して知らないふりをしたいが、ダメだどうにもならない。
「あ、長押し?長押しすれば消える?」
機械のスイッチではないのだからそんなことをしても無意味だが、焦りまくって色々な押し方を試し始めた時だ。突然音が止まった。
「成功?」
ひとまず音が止まったことに安堵して冷や汗を拭う。すると視界の隅に妙なものが見えた気がして横を向いた。
「......イリュージョン?」
ベルのすぐ横にあったはずの壁は消え、大人二人くらいが入れそうな四角い空間ができていた。
「物置?でも何も無いしなぁ」
恐る恐る足を踏み入れて壁をノックしたりしてみる。見た感じ年季の入った木でできているようだ。何も起きないことに安堵して、どうやって壁を元の状態に戻そうか、と考えた時だ。ガチャン!と音を立てて目の前の壁が閉まった。真っ暗になったのは一瞬で、四方の壁に奇妙な光る模様が浮かび上がる。
「え、ちょ、え?」
壁の隙間に指をかけて開けようと試みるがビクともしない。
「閉じ込められた......?」
呆然と呟いて間も無く、箱が急下降を始めた。
「ひいいいいぁああああ!!!」
内臓が浮きあがり、吐き気がこみあげて来る。絶叫し続けること数十秒。箱はがくんと雑に止まった。
「助かった......?」
恐々と顔を上げる。すると唐突に壁が開いた。ガタガタ震えながら這い出る。そして辺りを見回して、ぽかんとした。
そこは、小さなドーム状の書庫だった。古めかしい本が詰め込まれた棚が立ち並び、壁一面も棚になっていてやはりぎっしり本が入っている。どのような仕組みなのか、天井からは降り注ぐ光は太陽光に似ている。
「隠し書庫ってこと?てことは......」
ベルは振り返って今しがた必死に這い出てきた箱を見る。
「あれエレベーター!?」