書庫での発見
扉の上部に付けられたガラス部分から、本がぎっしりと収められた部屋の中が見える。扉を開くとキイ、と音がした。
もっと埃っぽいかと思ったけど、掃除されているしそうでもないみたい。
ここには記憶が戻る前にときどき来ていたが、思い出してからは初めて来た。記憶と違う部分が一つある。入ってすぐのところに、児童書が並んだ本棚が追加されたことだ。台に登らなくても取れるように、本棚の背が低くなっている。
「えーと、ミーシャの冒険、小石を追いかけて、四角い顔の冒険者......え!冒険者っているの?」
ざっとタイトルを見ていたベルは驚きの声をあげた。ベルにとって冒険者とはファンタジーゲームの定番である。その本を手にとってパラパラめくってみる。四角い顔をコンプレックスとしている冒険者が魔物を狩りまくって名をあげる話のようだ。
「魔物っているんだ」
他の本も流し読みしてみると、殆どの本に当たり前に魔法を使う人々が登場していた。
「単なる童話的設定っていうわけじゃないよね......」
ベルは今までこの世界を中世ヨーロッパに似た異世界だと思っていたが、実はファンタジーな異世界だったのだ。
探せば魔法を取り扱った本もあるかも。
そう思ったベルは元々あった本棚を見て回ることにした。高くて見えない棚は後回しにして目の届く棚から確認していく。前のベルはここから図鑑を引っ張り出して、挿絵を見て楽しんでいた。まだ難しい文が読めなかったのだ。
試しに適当な本を開いてみると、覚えのない文字ながらも読むことができた。面白そうな内容ではない。閉じて元の場所に戻す。歩きながらタイトルを目で追っていくと、目的の本を見つけた。
「初級魔法の手引き!これだ!」
引っ張り出して表紙をめくる。目次にはいくつかの魔法の使い方が書かれている。
「えーと。まずは魔力を指先に集めましょう。......どうやって?」
この世界の人にとっては簡単なことなのだろうか?それとも著者の説明が悪いのか。
ベルはしばらく念じたり座禅を組んだりしていたが、さっぱりできる気配がない。
「そもそも魔力って何?血液に混じってるの?そうだとしたら血が流れるイメージで......」
じんわりと指先が暖かくなってくる。多分成功だ。これが魔力を集めるということか。急いで次の説明を読む。
『実際に初級魔法を使ってみましょう。集めた魔力を光に変えるイメージをしながら、ライトと唱えてください』
ベルはワクワクしながら指先を見つめて呟いた。
「ライト」
その瞬間、視界が白く染まった。あまりに強い光にさらされた目が痛みを訴える。
「あああ!目が!目がぁああ!」
両目を手で押さえてカーペットの上を転げ回る。もしその様子を見たものがいれば、誰もベルを公爵令嬢とは思わないだろう。
数分後、ようやく視界が元の色を取り戻した。ベルは額に浮いた汗をぬぐって、呆然と呟く。
「いやどこが初級魔法」