落ち込んでなんかない
次にドリーネは木の器に手をかざした。
『ウォータ』
てのひらに溢れた水が器に溜まっていく。透明だ。見た目は完全に普通の水である。よし、と気合を入れてベルも手をかざした。
『ウォータ!』
少しずつではあるが確かに水が出ている!
「できました!」
ドリーネも安心した様子で頷いた。
「よろしい。では次です」
目の前に置かれたのは小さな種子だ。
『グロウ』
すると今度は種子からぴょこんと芽が出た。水や火が出せる時点で今更だが魔力で芽が出るなんて、本当にこの世界はどうなっているのだろう。水、光、最適な温度はどうした。
その後も枯れ葉を土に変える魔法や微風を起こす魔法を行ったが、その結果は全てダメだった。水しか出せない現状に、ドリーネは渋い顔をして何か考え込んでいる。きっとこれは想定外だったのだろう。しかし属性はあと二つあるはずだが......。
「あの先生、光と闇属性の基礎はないのですか?」
尋ねたところ、返ってきたのは意外な答えだった。
「ええ。その二つは特殊な扱いになりますので、得意属性でない者は欠片も行使することはできません。それら以外の属性なら、個人差はありますが、誰でも使うことができるはずなのです。それがなぜここまで偏るのか......。」
あれ?でも光を出す初級魔法があったはずだ。それは光属性ではないのか?
そう思って尋ねると、彼女はああ、と手を打った。
「良い質問です。それは初級魔法のライトですね。よく間違われるのですが、光属性の力は癒しであり、無属性のライトとは関わりがありません。今回は除くつもりだったのですが、せっかくなのでやってみましょう」
『ライト』
ほわっと水色の光球が現れる。そこでベルはふと疑問に思った。
リーナは黄色だったけれど先生は水色なんだ。
「先生、光の色は人によって違うのですか?」
「イメージによって色を変えることは可能ですよ」
水色から黄、緑、茶、赤と次々色を変えていく。
「ですが特にイメージせずに行使した場合、自身の得意属性の色になるのです」
「つまり先生は水属性ってことですね!」
「その通りです」
羨ましい。生まれつきだからしょうがないとはいえ、自分だけ外れくじを引いたような気分だ。しかも魔法使いとして最初からつまずいている。先行きに不安しかない。
「それでは自身の属性の色で光を出してみてください」
「はい!」
「そんなに気負わなくても大丈夫ですよ」
いや、前に使って盛大に失敗した経験がある以上、慎重にならざるをえない。ふー、と息を吐き、水晶の中に見えた色をイメージする。黒い光って何?それは光なのか?
『ライト!』
瞬間、視界が黒に染まった。