ほどほどに頑張れ
ベルは自室で書庫から持ってきた本を読む。魔法適正について、と見出しがついたページを開く。
『生物は必ずひとつ魔法適正を持ちます。それにより、その属性の魔法を使う際に威力が上がります』
ほうほう、他より得意になるってことだな。私の属性は何なのか気になる。ぜひとも水を希望したい。なんか冷静沈着っぽいから。
『属性は火、水、木、土、光、闇の7つあり、これらには力の対抗があります』
属性はリーナから聞いた通りだが、対抗?
『水は火に勝り、火は木に勝り、木は土に勝り、土は水に勝ります。光と闇は互いに拮抗した力関係にあります。つまり、力の劣る属性の相手に対しては魔法攻撃の威力が下がるのです。無論、相手との実力差がある場合は有利な属性であろうとも意味をなしません。喧嘩を売る相手はよく見極めましょう』
読みながら図を描いてみると、ぐるっと輪になった。光と闇だけが枠から外されているのが可哀想だ。そして筆者は喧嘩を勧めているように思えるのだが、良いのかそれで?
ペンを置いてぐっと伸びをすると、窓際の鉢が目に入った。そういえば、と庭師に言われたことを思い出す。
群青花は非常に繊細。温度は高すぎず低すぎず、日の光は程良く当て、水は少量ずつ様子を見ながらこまめにやり、細心の注意を払って世話をする。これを聞いてあまりの難しさに私は頭を抱えた。程良くって何。料理レシピの胡椒少々くらい分からない。熟練の庭師でも成功しないのも納得だ。
結局開き直り、水をこまめにあげる以外はなるようになれ方針で育てることに決めたのだ。
椅子から降りてじょうろに水を汲み、ちょっと土を湿らせるくらいに水をやる。咲く気が全くしないが、応援はしておこう。
「頑張って咲いてねー」
コンコン、とノックが聞こえ、失礼しますとローザの声が聞こえた。入ってきたローザに父の様子を尋ねる。
「お父様、大丈夫だった?」
「はい。少し疲れが溜まっていたようですが、特に病気などではないそうです」
「そっか。良かった」
ふと思いついて、以前気になったことを尋ねることにした。
「ところで、お父様は兄弟とかいたりするの?」
ローザは紅茶を注ごうとしていた手をぴたりと止めて、こちらを見た。なんとなくいつもより表情が硬いような......?
「はい。お兄様がいらっしゃいました」
ました?
「今は、もういないの?」
「はい。お亡くなりになられました」
「どうして?」
「ご病気です」
「そっか。会ってみたかったな」
父が美形だからその兄も美形だったのではないかと思うのだが、見ることができなくて残念だ。
話は変わるんだけど、と前置きして別の質問をする。
「私が生まれる前に、大罪人とか呼ばれた人が処刑されたことってある?」
急な話題転換だが、ローザはきちんと答えてくれた。
「ええ。ございます。たしか禁術を行った魔法使いだったとか」
「その処刑された人って、どんな人だったの?」
あの日記が本当ならば、冤罪の可能性が高い。ベルはその人に同情していた。
「申し訳ありません。当時は箝口令が出されていて、罪人についての情報はほとんど得られなかったのです」
「そうなんだ。急に変なこと聞いてごめんね」
質問をやめると、ローザは無表情のまま尋ねてきた。
「何故そのようなことを?」
少しギクッとしたが、顔に出さず本当にちょっと興味があっただけだと答える。
不審すぎるが幸いそれ以上聞かれることはなく、ローザはカップをベルの前に置いて退室した。