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ガラスの中で夢をみる  作者: 七瀬優愛
第2章 書きかけの未来
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書きかけの未来(2)

 リアムから貰ったメモを持ってリビングに戻ると、そこにはもうギルやクレアの姿はなく代わりにライラが1人でぽつんとソファーに座ってテレビを見ていた。

 ライラの着ているのはいつも着ていた水色の花柄のワンピースパジャマではなく、白い襟付きのふわっとしたドレスのようなワンピースパジャマだった。部屋を確認した限りノアの部屋にいつも着ていたスポーツブランドのジャージしか入っていなかったのに対し、彼女の部屋には新しいパジャマが入っていたようだ。

 他の子も部屋にあったパジャマは普段から着ているパジャマだったようだし、ライラだけ今日から新しいパジャマを着ていることにノアは違和感を感じた。

「それどうしたの?」

 ノアが聞くと、ライラは手に持っていたコーヒー牛乳の入ったグラスを机に置いて立ち上がった。

「これどう?」

 そう言ってその場でくるっと回る。彼女の動きに合わせてワンピースパジャマがふわっとなびいた。

「可愛いね。部屋にあったの?」

「うん。貰ったの」

「誰に貰ったの?」

「アルちゃん」

 数日前まで怖がって泣いていたのにいつのまに仲良くなったのかこの城の王様であるあの子のことを「ちゃん付け」して読んでいるライラにノアはびっくりしつつも聞いてみる。

「ちゃんってことはあの子は女の子なの?」

「うん。素顔を見たけど可愛かったよ」

 ライラは楽しそうにそう言うと、またその場でくるっと回った。

 小さい頃から憧れていたお姫様のようなパジャマが着れて嬉しいのだろう。ライラがそれで笑ってくれているならノアはそれだけで充分だった。

 ライラはケラケラ笑いながら何度か回ると急に何かを思い出したのか「あ、そうだ」と声をあげた。

「あと、アルちゃん私に服もくれたよ」

「え、服も貰ったの?」

「うん、さっきノアが来る前にくれたの」

 ライラはそう言うと、ノアが返事をするより前に「とってくる!」とだけ言い残し部屋を出て行ってしまった。

 その場に1人残されたノアはさっきまでライラが座っていたソファーに腰をかけて上を向いた。

 テレビの音を右から左に聞き流しながらぼんやりとアルのことを考える。

 この城の食料や日用品の調達等は彼女が全部してくれている。そう考えると、悪い人とは思えないけど急に自分の探し物を探してくれだとか「永遠の眠りにつく」とか言って何かと年上をびっくりされる子だ。

 彼女の言っていることは、どこまでが本当でどこまでが嘘なのかはノアはまだ分からない。

 もしかしたらこれは本当に長い夢なのかもしれないし、ギルの言うように死後の世界なのかもしれない。それすらまだノアには分からないのだ。

 それでも時間は進んでいく。

 ノア以外のみんなはもう城の生活に馴染んでいる気がする。朝昼晩とリアムの美味しいご飯を食べて、おやつの時間になるとクレアがキッチンから引っ張り出してきたお菓子をみんなで食べる。それでギルが自分の部屋にあったというゲームをみんなでしたり、ライラの空想に付き合ったりする。

 これが城の日常生活だった。

 たまに誰かが自分の部屋にいる時もあるけど、それは大体昼寝とか調べ物とか何か用事がある時で城のメンバーが嫌だからとかそういう理由ではなかった。ノアもたまに部屋にいることもあるけど、部屋には勉強道具はないしリアムのようにパソコンがある訳でもない。だから、なんとなくみんなと一緒にいることが多かった。

 そもそとここから出られない以上アルバイトにも買い物にも行けれない。そうなると、自然とみんなと一緒に過ごすことが増えていた。

 勉強もアルバイトもしていない自分はダメなんじゃないかと最初は思った。だけど、これはこれで良い経験になっていると思う。

 それが何かはまだ分からないけどこの生活の中で得られるものがきっとあるはずだ。共同生活ってきっとそういうものだ。

 そんなことを考えながらソファーの上で目をつぶっていると、誰かに肩を優しくトントンと叩かれた。

 ライラが自分を呼ぶ時はいつも声をかけてくることが多いしそれでも気づかない場合は抱きついてくるから違う。ギルやクレアは多分もう自分の部屋で寝ているかお風呂に入っているかのどちらかだろう。

 そうなると、さっきまで話をしていたリアムだろうか。

 そう思って目をあけると、普段ライラが着ているような紺色の胸にリボンのついたふわっとしたワンピースを着た金髪の小学生くらいの小さな少女がノアを覗き込んでいた。

 髪色が少しライラと似ているように見える。城の新しいメンバーだろうか?

「お兄ちゃん、起きた?」

「え?」

「もう夜中の2時だよ」

「2時?」

 そう言ってテレビを見ると、バライティ番組の再放送が放送されていた。画面の右下を見ると「2時5分」と時間が表示されていた。

「知らない間に寝てたんだ・・・」

 そう言ってたちあがろあとすると、膝に何かが乗っていることに気づいた。

「ライラ?」

 ノアが声をかけると、夢の中にいる彼女は「私はここにいるよ」と何がおかしいのかニヤニヤしながら寝言を言った。何か良い夢を見ているらしい。

 ソファーの端には彼女が持ってきたのであろうたくさんのワンピースが置いてあった。

「そんなにたくさん服貰ったんだ」

 ノアがそう呟くと、金髪の少女が不満そうに言った。

「お兄ちゃん、私のこと忘れてない?」

「ごめんね。そういう訳じゃないんだ」

「じゃあ、私は誰でしょう?」

 金髪の少女はニコッと笑って言った。そのニコッと笑った表情が火事が起こる前のライラのニコッと笑った表情と重なった。

「小さい頃のライラ?」

「違う違う」

 金髪の少女は首を左右に激しく振って言った。

「お兄ちゃんもう忘れたの?あのギルさんでも私のことはちゃんと覚えてたのに・・・」

「そんなこと言われても誰だか分からないよ」

「このお城の王様。アルだよ」

「あーアルちゃんか」

 生返事を返しながらも彼女の顔をしっかり見る。

 確かにライラが言ってた通り分類分けすると「可愛い」に入る顔だと思うけどノアは彼女の金髪がライラにそっくりだという印象の方が強かった。

 あと、女の子なら王様じゃなくて女王様だろとノアは思ったけど、小さい子の言っていることというこもあって細かいことには目を瞑っておくことにした。

「ごめんごめん、前会った時はフード被ってたから誰なのか分からなかったんだ」

「お兄ちゃん私の顔見たことなかったっけ?」

「うん。あと、さっきも言ったけどアルちゃんってさライラの小さい頃にそっくりだなって思った」

 ノアが言うと、アルはクスクス笑いだした。

「これはね、私の仮の姿なの」

「仮の姿?」

「ここは夢の世界だもん。なんでも可能だよ」

 アルはそう言うと、ノアの隣にちょこんと座った。

「私もお兄ちゃんに聞きたいことがあるんだけど質問してもいい?」

「うん。僕が答えられることなら何でもいいよ」

「お姉ちゃんのこと好き?」

「もちろん、好きだよ」

 アルの言う「お姉ちゃん」はライラのことだと言うのはもう分かっていた。

 アルはリアム達のことは全員名前にさん付けで呼ぶのに自分達に対しては「お兄ちゃん」「お姉ちゃん」と呼ぶ。それがどうしてなのかは分からないけど、そう呼ばれることには慣れた。

「どれくらい?」

「うーん。兄弟に好きって思うのと同じくらい好きだよ」

「私、1人っ子だからそれは分からない。お兄ちゃんいるの?」

「僕もいないよ」

「じゃあ、もっと分かりやすく説明して」

 アルは頰を膨らますと腕を組んだ。

「じゃあ、家族と同じくらいかな。小さい頃からずっと一緒だったから兄妹みたいなもんなんだ」

 アルは自分が求めていた答えと違ったのか「ふーん」と面白くなさそうに言うとすぐに口を開いた。

「お姉ちゃんと恋人じゃないの?」

「うん、恋人ではないよ」

 クレアと言い、アルと言いどうして女子はそうやって恋愛に結びつけたがるのだろうとノアは思う。

 今までもバイトが休みの日にライラと2人で街を歩いていると、お店の人や周りの人にカップルと間違われることがよくあった。ノアのなかでは、男女の友情は存在すると思うし男女が2人でいるからと言って必ずカップルだとは思わなかった。

 でも、考えや感じ方は人によって違うからそう考える人がいるのは仕方がないことなのだろう。

 アルは面白くなさそうにまた「ふーん」と言うと、ソファーからぴょんも降りて言った。

「お兄ちゃんにも何か持ってきてあげるよ。紙に欲しい物を書いて冷蔵庫にキッチンの貼ってて。ゲームでも服でも何でも持ってくるから。この世界は魔法の世界だから何でも持ってくるよ」

 アルはそういうと「じゃ」とだけ言ってその場から一瞬で消えた。

 どうやらいつもギルがみんなで遊ぶ時に持ってくるゲーム機もライラの洋服もどちらもアルに頼んで買ってきてもらったものだったようだ。

 ノアにも欲しいものはある。でも、それはお金では買えないものだし魔法なんかで出せるものでもない。

 ノアが欲しいものは1つだけ。それは、火事以前のように心から笑えるようになったライラ。それだけだ。

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