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ガラスの中で夢をみる  作者: 七瀬優愛
第5章 夢から覚めた僕達の居場所
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夢から覚めた僕達の居場所(6)

 次の日、いつもより少し早起きをしてノア達はあの日の海へと向かった。

 世間では夏休みということもあり、電車は満員で1時間くらい立ちっぱなしになったけど今日はそれすらも夏休みらしくていいなと思えた。

 車の免許をとれば少しは移動が楽になるのだろうけど、高校に行くお金すらなくて食べて行くのに精一杯の自分達にそんな余裕なんてどこにもなかった。できることならノアだけでももっと良い仕事についてライラを楽にさせてあげたかったけど、今の子どもの自分にはこれが精一杯だった。

「ごめん」という表情で隣でジャムのガラス瓶を大事そうに持つライラを見る。

 今日のライラの服装は、夢で見た彼女によく似ていた。彼女がいつも憧れているお姫様やお嬢様のような首後ろにリボンがついたフワッとしたドレスのような白いワンピースに白いヒールのサンダルに麦わら帽子。

 ノアは全然知らなかったけど、彼女が今日身につけているものは全てノアの母親がなくなる前にライラにプレゼントしたコーデ一式らしい。

 お下がりと言ってもあまり着てなかったというそのコーデはどれも新品に近い状態でお下がりという感じはしなかった。


 車内は降りる予定の駅まで減ることはなく、最後まで立ちっぱなしの状態で予定の駅に到着した。

 ドアが開くと同時に一気に電車の出口へと向かう家族連れやカップルや仲良しグループに押されながらノアも電車から降りた。


 ずっと前に来た時は、車で来たから海の最寄駅のことは何も知らなかったけどそこは思ったより大きい駅だった。

 観光客が多い地域だからか駅には小さいながらもいくつかお土産屋さんや地元の特産品が食べられる飲食店が入っておりそれなりに賑わっているように見えた。

 そんな小さなお店を横目で見ながらノアは目的の海へと向かった。

 昨日スマートフォンで調べた地図によると、あの海は隠れた穴場スポットと呼ばれており駅の徒歩圏内にあるらしい。ライラが欲しがっているシーグラスがあるかないかは別として、隠れた穴場スポットなら人も少ないだろうしのんびり過ごせそうだ。


 駅を出ると、多くの人が歩いて行くのとは別方向にノアは歩いた。

 ネットの情報によると、この辺りは海水浴場激戦区でこの時期はどこの海水浴場に行っても人が多いらしい。

 そんなこともあってか、ネットの口コミには「ここの海水浴場の食堂のご飯は美味しい」だの「ナンパするならこの海水浴場」だのこの地域の海水浴場に関する情報がたくさん書き込んであった。食堂のご飯が美味しいことで有名な海水浴場のご飯(ハワイ料理の店だった)はどれもオシャレで美味しそうに見えたけどその分値段も結構したしナンパは全然興味がない。

 もし、自分が高校生だったり大学生だったりしたら友達とそういうところに遊びに行ったりすることもあったのかもしれない。でも、それはあくまでもノアの妄想だし絶対に有り得ない現実だ。

 だから、自分達には穴場スポットが丁度良い。身の丈に合っている。

 ノアは自分にそう言い聞かせながら自分が目指す海水浴場へと向かった。




 海水浴場は、駅から20分ほど歩いたところにあった。

 他の海水浴場みたいに食堂は愚か自動販売機すら見当たらない小さな海水浴場だった。お客さんはノア達2人以外は誰もおらず、辺りはしーんと静まりかえっていた。

 そんな海水浴場の向かい側には、もう長いこと誰も住んでいなさそうな窓ガラスの割られた古い民家が一見ぽつんと寂しく建っていた。

「何もないね」

 ノアが率直な感想を言うと、ライラが辺りをキョロキョロと見渡した。

「ここ、小さい頃行った時はお店がなかった?」

「お店?」

 ライラはこくりと頷いた。

「多分、トラックのドライバーさん向けだったと思うけどご飯食べるところがあったよ」

「そうだっけ?」

「ほら、あそこ」

 ライラはそう言って目の前にある古い民家を指さした。

「でも、あそこ長いこと誰も住んでなさそうだよ」

「でも、昔はお店だったよ。覚えてない?」

「覚えてない」

 ノアはそう言いながらも片手でこの海水浴場の名前と一緒に食堂という言葉を打って検索をかけてみた。すると、「うどん そば 定食」とカラフルな丸ゴシック体で書かれたこの建物の画像が出てきた。

 ノア達が海水浴に訪れた年に閉店したみたいだが、この民家は食堂だったらしい。

「ライラ、記憶力いいね」

 ライラは嬉しそうに大きく頷いた。


 そして、2人で向かい側の誰もいない向かい側にある海へと向かう。

 食堂どころか監視員もいない寂しい雰囲気の砂浜を歩く。簡易トイレは一応あるけどそれ以外は何もない静かな場所だった。

 前に来た時は、そんなに多くはなかったが自分達以外にも家族連れや海を楽しむカップルや友達同士で来ている人も何組か見かけた。

 なのに今は廃墟のように誰もいない寂しい海へと変わっていた。

 ライラも同じことを思ったのか、「ここ、誰もいないね」と独り言のように呟く。

 ノアが黙って頷くと、ライラは急にパッと明るくなった表情で言った。

「でも、それってここを独り占めできるってことだよね」

「そうだね。穴場スポットだし周りに家もないからここは少しくらい騒いでも大丈夫そうだよね」

 そう言ってノアが持って来たレジャーシートを広げた。持ってきたクーラーボックスと自分達のリュックを重りにすればとりあえずは大丈夫だろう。

 ノアはレジャーシートを引き終わるとそこに腰を下ろした。

 朝からずっと立ちっぱなしだったからか体がすごく疲れていた。脚がダルかった。

 でも、ライラはまだまだ体力があるようで砂浜でシーグラスを探し回り何かを見つけてはそれを光に照らす。

 こんな穏やかな時間がずっと続けばいいのに。そんなことを考えながらノアはレジャーシートの上にゴロンと転んだ。

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