夢から覚めた僕達の居場所(3)
「はーい」と短い返事をしてドアを開ける。
通販で何か注文した覚えはないからきっと回覧板や町内会の草抜きのことだろう。
そう思いながらドアを開けて、訪問者の女の人を見た瞬間ノアはびっくりして目を見開いた。
なんとそこにいたのは、高校を中退して以来ずっと会っていなかった高校の時の担任のミラ先生だった。ミラ先生はノアの知らない若い男の人を連れて来ていた。
「ミラ先生…?」
ノアが先生に声をかけると、彼女は手をあげて言った。
「ノアくん、久しぶりだね!元気にしてた?」
「あ、はい。なんとか」
ノアが答えると、ミラ先生は安心したように笑った。
「良かった。ライラちゃんも一緒なの?」
ノアが頷くとミラ先生は隣の男の人にぼそぼそと何か言うと、ミラ先生はノアに優しく言った。
「少し質問しても良いかな?」
ノアが頷くとミラ先生は、小さな子どもに話しかけるように優しい声で聞いてきた。
「今はアルバイトか何かしてるの?」
「退学した直後からパン屋のアルバイトをしてます」
「それでお金は足りてる?」
「フルタイムで働いてるので生活していくだけのお金がないは稼げてます」
本当は、カツカツの生活で食事はバイト先で貰った廃棄予定のパンだけの日もあったりするけどそれは黙っていた。それにミラ先生に話したことで食生活が変わることなんてまずないだろう。
第一アルバイトでそんなに稼げる訳ない。
でも、先生は特に気にする様子もなくニコニコしていた。
「ノアくんは将来どうしたいの?」
「どうしたいってどういうことですか?」
「例えば、この職業に就きたいとか。何かない?」
一瞬、夢の中の城で出会った大学生のリアムの横顔が頭を過ぎった。
あの時事故がなければ2年後、自分も今の彼と同じように大学に通っているはずだった。でも、もうそれはできない。高校に通うこと自体が経済的に厳しいのだから諦めるしかない。
今も持っている参考書だって生活が苦しくなれば古本屋で売って1円でも良いからお金にしようとノアは考えていた。
生活が苦しくてもライラと暮らせたらそれで自分は幸せだ。そう考えるようになっていた。
「ずっとライラと暮らせたらそれでいいかなって思ってます」
ノアがぼそぼそと答えると、ミラ先生は納得のいかない様子でノアにもう一度聞いてきた。
「本当にそれだけ?」
「はい」
「もう大学進学とかは考えてないの?」
「経済的に余裕ないですし無理です。僕が働かなきゃ2人とも食べていけないので」
ノアが答えるとミラ先生は小さなため息をついた。
「先生は、あなた達が高校を辞めた今でもあなた達2人には幸せになって欲しいって思ってるの。それは分かるよね?」
「はい」
本当はミラ先生が何を言いたいのか全然分からなかった。もう赤の他人のくせにいちいち人の私生活に首を突っ込んで欲しくなかった。
「今の時代、高校だけでも卒業しないと仕事はないし食べていけないのよ」
「分かってます。でも、僕達2人だけだからアルバイトでなんとかやりくりできてます」
ノアは反抗気味に返した。
何不自由なく自由に生きてきたであろうこの大人に口出しされることに腹が立った。
「でも、ずっとそうする訳にもいかないでしょう?」
ミラ先生もノアと同じようになかなか折れそうになかった。もともと自己主張をはっきりする先生だったからなかなかめんどくさい。
ミラ先生が「先生はね」と言いかけたところで彼女の隣に立っていた若い男の人が彼女の肩に手を置いた。
「ミラ先生、僕も彼とゆっくり話をしてもいいですか?」
「別に良いけど、まだ私は話が終わってないのよ」
ミラ先生が口を尖らせるが、男の人は首を横に振るとノアの方を見て言った。
「君は僕と2人で話をするのは大丈夫?」
「大丈夫です」
「そういうことなので先生、後は僕に任せて下さい」
「任せて下さいって。あなた1人で大丈夫なの?」
「大丈夫です」
不満そうなミラ先生に男の人は玄関のドアを閉めた。




