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ガラスの中で夢をみる  作者: 七瀬優愛
第4章 孤独なヒーロー
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孤独なヒーロー(7)

久しぶりに全員揃って食べる夕食はいつものようにギルの自慢話(とクレアが言っていた)が中心だった。

多分、明日からはこういうのが得意なクレアが話の中心になるんだろうなと思いながらノアは最後の彼の自慢話に耳を傾ける。

いつものように彼の好きなゲームの話を不満そうな表情で聞くクレアにギルは携帯ゲーム機を差し出した。

「それは城のだからクレアにやる。中2病のゲームだから変なソフトが入ってるけど意外と面白かったよ」

クレアは黙ってゲーム機を受け取ると、ソフトを確認した。

「このパズルゲーム、今流行ってるやつじゃん。みんな知ってる?」

そう言ってクレアがノアにパズルゲームのソフトを見せてきた。カラフルな色でタイトルが書かれているそのゲームはノアが知らないゲームだった。

家にテレビがないし、学校にも行っていないから知らないだけかもしれない。

「僕はそのゲーム知らない」

「私も」

ノアに続いてライラが少し控えめに言う。

「え?ノア達このゲーム知らないの?」

クレアが面白くなさそうな声で言う。

「俺もそれは知らないな。でも、そのゲーム面白そうだね」

どうやらリアムも知らなかったらしい。確かにリアムは、彼の家庭環境からしてゲームとは無縁そうな感じがした。

「それ小中学生の間で流行ってるゲームなの?」

ノアが聞くと、ギルとクレアが「え?」という表情をした。

「これ流行ってない?社会現象になってるのに」

クレアに続いてギルも言う。

「原作の絵本も知らねーの?」

「全然知らない」

「ノアくんと同じで俺も知らない。ゲームやらさせてもらえなかったから」

ノアやリアムの反応に2人はもう一度「何言ってんだ」という顔をして本題に戻った。

「クレア、お前やったことあんの?」

「友達のを少し」

「自分のは?」

「うちの親、ゲーム買ってくれないから」

「そっか」

ギルはそう言うと、何かを少し考える素振りを見せると言った。

「これ、ここのだし好きに使っていいよ」

「マジで!?やったー!」

クレアがガッツポーズをした。


その日の夜は、クレアとギルがノアの知らないゲームの話でずっと盛り上がっていた。

2人の会話の内容によると、このパズルゲームはストーリーは人気絵本作家が考えたストーリーらしく、社会現象をしているわりには内容は結構重い話だった。

そのストーリーと言うものはこうだ。

ある国に親を亡くした貧しい少年は同じように親を亡くしたこの物語のヒロインである幼馴染みと2人で小さな家で生活をしていた。貧しいながらも幸せな生活を送る2人だったが、ある日幼馴染みが未知の病にかかってしまう。病院に連れて行こうにもお金がない主人公はこの国の城に行き王様に助けを求める。すると、王様は自分の誕生日までに「3つの探し物」を見つけ出すことを条件にその願いを承諾してくれた。

喜ぶ主人公に王様は「それは見つけれたらの話だ」と言う。なぜなら、もし期間内に「探し物」を見つけることができなかったら彼の幼馴染みは死ぬのだから。

主人公は全てを理解した上で王様に「誕生日までに探し物を見つける」と約束をし王様の探し物を探すことにした。


ノアは知らなかったけど、ギルが言うには最近は映画でもアニメでも主人公が未来を変えるという物語が流行っているらしくこれもその1つなのだと言った。

「俺、こういう話は飽きてたけどこれだけはハマったんだよ。だって、ヒロインが死ぬ結末もあるんだぜ」

「え?ハッピーエンドじゃないの?ヒロインちゃん可哀想」

ライラが残念そうに言う。

「見つけられなかったら、の話だよ。でも、結構頭使うゲームかな」

「分かる。でも、そこが面白いんだよね」

ギルに続いてクレアが言う。

物語が好きなライラは2人のゲームに食いついているようだったけど、本当に生きるか死ぬかがかかっている状態でノアはそんな話は聞きたくなかった。

ギルとは今日で最後なのにこんなので良いのか、と思いながらノアは短いようで長い夕食の時間を過ごした。

やがて、ドアをノックする音がした。

「はーい」

リアムが返事を返すとドアがガチャっと開いた。

そこには黒いマントを着たアルがいた。

「ギルくん、準備できた?」

「あぁ。すぐにでも帰れるよ」

「OK。じゃあ、ギルくんだけ上に来てくれる?」

「え?私は?」

クレアが不満げな顔で自分を指差す。

「来てもいいけど、クレアちゃんは帰れないよ?」

「帰れるよ」

「無理だよ。バリアが凄いから」

「まぁ絵本を見つけたのは俺だしな。じゃあ、みんなまた」

ギルが続いて言うと部屋をゆっくり出て行った。

「待って!」

クレアが叫ぶ。やっぱり自分の家に帰りたいのだ。

でも、彼女の体は外には出られずにドアの前で跳ね返された。

「何なの?私は帰っちゃダメなの?」

クレアが低い声で言うと、アルが振り向いて言った。

「絵本のページを見つけたらクレアちゃんも帰れるよ。ね、ギルくん」

ギルは黙って頷いた。その横顔はどこか安心したような表情に見えた。

そりゃそうだろう。自分の家に帰れるのだから。


ギルは、その後何も言わずにノア達視界から姿を消した。


彼が帰ったあと、アルから聞いた話によるとギルの寿命はもうそんなに長くはないらしい。だから、絵本のページを彼の部屋に置いたのだと。

流石にこれにはクレアも贔屓とは言わなかった。


そして、それから3日後彼が天国に旅立ったことをアルをノアだけが通して聞かされた。

クレアちゃんはまた怒るかもしれないし、リアムくんやお姉ちゃんは泣くかもしれないからそういう心配がないノアにだけ話すね、とアルは言った。

どこからそんな情報を手に入れたのか、そもそも向こうの世界ではどれくらい彼が過ごせたのかは教えてくれなかった。

でも、どっちにしろ身近な人がまた1人亡くなったことには変わりはなかった。


そして、その次の日。アルはノア達4人にある命令をした。

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