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ガラスの中で夢をみる  作者: 七瀬優愛
第4章 孤独なヒーロー
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孤独なヒーロー(6)

 アルに絵本のページを渡すギルに向かってクレアが震えた声で言った。

「それ私にちょうだい」

 ギルが嫌そうな顔で彼女の方を見る。

「あんた、もうすぐ死ぬんだからそんなのいらないでしょ?だから、未来がある私にちょうだい」

「未来があるって、俺だってまだ死んでねーよ」

 ギルが鋭い目つきでクレアを睨む。

「でも、死ぬじゃん」

「そんなの人間なんだから誰だって同じだろ」

 ギルは吐き捨てるようにそう言うと、アルに絵本のページを渡した。

「城の退出はいつがいい?」

 今の状態に相応しくないくらいのんびりとした口調でアルが言った。

「今日の夜。ノアやリアムやライラさんに挨拶したいから」

「了解。じゃあ、今日の夜10時には部屋にいてね」

 アルはそう言うと、持っていた小さな手帳に「7月31日 1枚発見」と声に出しながら手帳にメモを書いた。

「ボードにも一応書いてるんだけど、残りはあと2枚。生き残れるのもあと2人だよ。良かったね!生き残れる人が1人増えて」

 アルは楽しそうにその場に立ち尽くしているクレアとノアに言うと城の奥へと消えていった。




 その日の夕方、ギルは絵本のページを見つけたことと同時に自分が病気であることをリアムにもカミングアウトした。リアムはそんな彼へのお祝いとエールを送りたいと言い、その日の夜はギルが好きな食べ物を全て並べることとなった。

 まだ1人目だからか焦りを感じていないリアムが呑気にハンバーグを焼く隣でノアは黙々とカップケーキをつくっていた。

 彼の体調のことを考えてつくる甘さ控えめのカップケーキにクレアは納得のいかない様子だったけど、リアムに宥められノアと一緒にカップケーキを作っていた。

「私、まだ納得できないんだけど」

 クレアがカップケーキのカップを棚から出しながら愚痴をこぼす。

「次はクレアちゃんかもしれないじゃん」

 ハンバーグをこねながらリアムが言う。

「適当なこと言わないでよ。大体、あの紙どこにあったのか2人は知ってる?」

「知らない。ノアくんは?」

「僕も聞いてない」

「それがさ、自分の部屋なんだって。さっき、ギルの部屋の前通ってたらギルがライラちゃんに「まさか俺の部屋にあるとは思わなかったよ」って自慢げに話してたの」

 クレアはイラついた様子でそう言うと、カップケーキのカップを机の上に並べはじめた。

「ギルの部屋にあったの?」

 ノアが返すと、クレアは「そうみたいだよ」と言った。

「やっぱり病人はどこ行っても優遇されるんだね。何でも買ってもらえるし」

「クレアちゃんも親にゲーム欲しいって頼んでみたらいいじゃん」

 リアムが振り向いて言う。

「私の家は無理だよ。弟のことで精一杯だから。私、高校を卒業したら働けって言われてるし」

「クレアちゃんも大学に行きたいの?」

 リアムの言葉にクレアは首を横に振った。

「私は勉強嫌いだから大学は興味ないし行きたくない。でも、専門学校には行きたかったなって最近思った」

「へー、どんなことを勉強したいの?」

「お菓子が好きだからお菓子か服やメイクに興味があるから服かメイク関係。まだはっきりしてないけど誰かに喜んでもらえるような仕事がしたい」

「クレア、まだ中学生なのにすごいね」

 少し前までは勉強嫌いだから自分の置かれた状態はラッキーな状態だ、と考えていた彼女が意外にもしっかり将来のことを考えていたのを知ってノアは素直にすごいと思った。

 そして、彼女が犠牲になればいいと思っていた過去の自分を少し恨んだ。彼女には夢がある。生きたい理由がはっきりしている。

 やっぱり、未来がある子が生きるべきだ。

 ノアやライラと違ってみんなはちゃんと未来があるしそれに向かって進んでいくことができる。夢を叶える権利がみんなにはある。

 そんなみんなが無性に羨ましかった。

「ノアには何か夢があるの?」

 クレアに聞かれてノアは反応に困る。

 経済的な理由で自分もライラも高校を中退していることを正直に話すか、それとも高校に在学中だった頃の夢を彼女に伝えるか。

 ノアが返事に困っていると、それを遮るようにリアムが「俺の夢は何か知ってる?」と彼女に声をかけた。

「リアムの夢?何だっけ?前何か言ってたよね」

「あれ?忘れちゃった?」

 リアムがそう言いながらノアに向かってウィンクをしてきた。話題を逸らしてくれたのだ。

「忘れた。ヒント!」

「言ったらすぐ分かるから言わないよ。ノアくんは知ってるよね?」

「あ、はい」

 突然自分に会話がまわってきて驚くノアにクレアが「知ってるの?ヒント!」と言ってくる。

 ノアは笑って彼女に「ヒントは大学に行かないとなれない職業だよ」と教えた。

 かつては、自分もリアムと同じだった。

 もし、交通事故がなければノアはここにはいなかっただろうし高校にもちゃんと通っていた。そして、来年には大学入試を受けてリアムと同じように教育学部の学生になっていたはずだった。

 ノアの両親はクレアの親みたいに大学に行くなとなんて言ってこなかったし、ギルの両親みたいにノアの将来を強制してきたりしなかったし、リアムの両親みたいに受ける大学を決めたりもしてこなかった。

 いつも自分の希望を聞いてくれて、その通りにしてくれていた。

 貯金だってちゃんとしてくれていた。でも、これは学費には使えない。生きることに精一杯だから。

 ライラだってそうだ。彼女の両親が貯金した進学用のお金があることをライラは知っていた。でも、それを全て生活費に充てていいと彼女は言った。

 そうじゃなきゃ生きていけない。

 キッチンではクレアが「私の担任もリアムみたいな先生だったら良かったのになー」と言いながらカップケーキの生地をカップに注ぎ込んでいた。

 そんな未来のある2人のやりとりをノアは見つめることしかできなかった。

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