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ガラスの中で夢をみる  作者: 七瀬優愛
第3章 私の知らない母の恋
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私の知らない母の恋(6)

物心ついた頃からクレアは母親と2人暮らしをしていた。


小学生になった頃からクレアはよく母親に「うちにはお金がないんだから高校を卒業したら大学には行かずに働いてね」と言われていた。

勉強が苦手だったクレアは、言われなくてもそうするつもりだった。

むしろ、勉強が嫌いな自分にとって母親の言っていることは好都合だった。友達の家みたいに「勉強しろ」とか「将来は大学に行け」とガミガミ言ってこないこの母親が自分の親で良かったと今でも思っている。

ただ、そんな自分にとって好都合な母親にも嫌いなところがクレアにもあった。

例えば、誕生日。誕生日ケーキはいつも決まってスーパーやコンビニで割引シールの貼られた安いケーキだった。本当は、キャラクターのプリントケーキや可愛いショートケーキが食べたかったけど母親に頼んでも無理だと分かっていたから頼まなかった。

誕生日プレゼントだってそうだ。友達は誕生日にゲームやオシャレな服を買ってもらえるのに対しクレアの母親は古本屋でまとめ売りされている数千円くらいの少年漫画や少女漫画を買い与えてくれただけだった。母親が買ってくれる漫画は、クレアが好きなアニメやドラマの原作ばかりで自分が好きなものであることには間違いなかった。

たまにはゲームやオシャレな服が欲しい。でも、母親にそんなことは口が裂けても言えなかった。

クレアの母親は、昼間は正社員である食品工場の事務と夜はホテルの清掃のバイトを掛け持ちしている。そんな生きるために必死にお金を稼いでくれている母親に文句は言えなかった。


だが、中学生になった頃母親が少し変わった。

まず、急に夜のホテルの清掃のアルバイトを辞めてデパートのバーゲンで買ったという綺麗なワンピースやハイヒールを履いて出かけることが増えた。

もともと綺麗な顔立ちの母親がいつもよりもっと綺麗に見えた。

食事も変わった。いつもスーパーの割引シールが貼られた惣菜やお弁当、もやしや親子丼が料理がメインで「給食をしっかり食べてね」が口癖の母親がハンバーグやマグロ丼を夕食に作ってくれた時はすごく驚いた。

それだけじゃない。外食に行くことも増えた。

これまで月に2回行けるか行けないかだった外食は決まってファミレスや安いうどん屋、ファストフードのどれかだったのにそれがステーキや焼肉、お寿司屋さんに変わった。

相変わらずゲームや服は買ってもらえなかったけど、母親が綺麗になったことや食事が豪華になったことだけでもクレアは嬉しかった。

そんなある日、事件は起こった。

学校が終わり、友達と別れたあと自転車を漕いで家に向かっていると見覚えのある赤い車がクレアの自転車とすれ違った。

あの赤い車は母親の車だ。クレアは、自転車の向きを変え好奇心で母親の車を追いかけた。

幸い、夕方ということもあり道路は渋滞していたためクレアの自転車はすぐ母親の車に追いついた。

クレアは赤信号で先頭に停まっている車の隣に行き、母親に手を振ろうとした。でも、それは手を挙げかけて辞めた。

母親の車には、もちろん母親が乗っていた。でも、運転しているのは知らない男の人だった。

母親と同い年くらいだろうか?32歳と同級の親より若い母親の隣にいる母親と同じくらいの若い男の人は母親の肩を抱いて何か会話をしているようだった。

丁度、信号が赤だったこともありクレアは横目で先頭にいた母親の車を見る。

それを見た瞬間、クレアは絶望した。

その若い男の人と母親はキスをしていた。それも恋愛ドラマで見るような長いキス。

そんな2人を見てクレアはボソッと呟いた。

「気持ち悪い」


その日、クレアは母親が作り置きしていたカレーライスは食べずに冷蔵庫にあった冷凍のナポリタンを食べた。

母親の作ったご飯なんて気持ち悪くて食べる気になれなかった。

その日の夜、母親が夜9時を過ぎても帰らないことを良いことにクレアは風呂に入らずに最近母親が買ってくれたスマートフォンで友達のマナとメッセージアプリでやり取りをしていた。

【クレア】うちの親がさっき知らない男の人とキスしてた。それも長いやつ。キモかった。

クレアの愚痴に対しての返信はすぐにきた。

【マナ】マジかー。それマジキモいね

マナはメッセージに続けてクマのキャラクターの「ガーン」と書かれたスタンプを送信してきた。

【クレア】これ私の予想なんだけど、最近デパートの服着たり美味しいご飯が食べれたりしてる理由ってあの人が関係あるのかな?マナはどう思う?

【マナ】関係あると思う。お金で女を釣る男ってたくさんいそうじゃん。

【クレア】そんな男いるの?

マナの言葉にクレアはびっくりしてすぐに変身した。

【マナ】いるみたいだよ。私達でも高校生ってふりすればそういう男見つかるかも?ほら、街を歩いてるその辺の大学生とか

その言葉を聞いてクレアの脳裏にある考えが浮かんだ。

大学生なら恋人が欲しい人も多いだろうし、アルバイトをしている人も多いだろう。クレアは、そんな大学生と恋人ごっこをする引き換えにゲームやオシャレな服を買って貰う。これって一石二鳥じゃん、と1人で結論づけた。

そして、クレアはすぐにマナに返信した。

【クレア】それめっちゃ良いじゃん!マナ、やってみようよ!ゲームもオシャレな服も買って貰えるよ!

マナからの返信はすぐにきた。

【マナ】ごめん、私はいいや。

【クレア】なんで?

【マナ】なんか、怖いから。

【クレア】そっか。

面白くないなー、と思いながらクレアはそうメッセージを打った。

マナは「本当にごめんね」というメッセージの書かれたクマのキャラクターのスタンプをもう一度送ってきただけだった。


メッセージのやりとりの後、クレアは出会いを求めてSNSのアカウントを作成した。

「女子高生/恋人募集/お金のある大学生希望」と半分嘘の情報を載せたSNSのアカウントはやがて1人の男子高校生の目にとまった。

アカウントのアイコンであるクレアのプリクラを見て一目惚れしたというその高校生にクレアは「高校生は論外」と一度は断った。でも、アルバイトをしているからお金は大丈夫だと懸命にアピールしてくる彼にクレアは「会ってから決める」と返信した。


それから1週間後、母親のいない日曜日を狙ってクレアはSNSの彼と会った。

SNSの彼はクレアより3歳年上の高校1年生だった。髪を染めていて不良少年という言葉がぴったりな彼は、クレアに出会った初日から自分の友達を紹介してくれた。

見た目はチャラいし不良少年にしか見えないけど、面白くて優しい彼や友達にクレアは少しずつ惹かれていった。

やがて、クレアは彼と過ごすため母親が例の男の人と会っているであろう日を使って彼と夜の街のデートを楽しんだ。

母親がやって許されることなんだからその娘の私がやってもいいんだよね。クレアはそう自分に言い聞かせながら幸せな毎日を過ごしていった。

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