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ガラスの中で夢をみる  作者: 七瀬優愛
第3章 私の知らない母の恋
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私の知らない母の恋(5)

 その日の夜は久しぶりに5人揃っての夕食となった。

 テーブルには、5人前のお寿司が置いてあった。

 このお寿司・・・、と呟くノアにギルがぶっきらぼうに「中二病がくれた」と言った。

 彼の言う「中二病」とはアルのことだろう。アルの年を考えると、まだアニメのヒーローや変身ヒロインに憧れている子がいてもおかしくない。実際、ノアが小学生の頃もクラスにそういう子はいた。

 でも、ギルにとってはそれは普通じゃない「変な子」なのだ。

 小学生にもなって未だにあんなこと言ってるよ。あんなのある訳ねーのに。あいつ、頭おかしいんじゃね?

 聞こえもしない声がノアの頭をよぎった。

 ノアは部屋全体をチラッと見る。

 隣に座っているライラは久しぶりのご馳走が嬉しいのか目をキラキラさせていつものように何か呟いている。クレアは相変わらず漫画に夢中なようで誰とも目を合わそうとはしなかった。

 向かい側に座っているギルはクイズ番組に夢中で、もう彼の言う「中二病」についてはどうでも良い様子だった。

 この時間はやく終わらないかな、とノアは心の中で呟く。可能性は低いけど、もしこれが悪い夢なら早く夢から覚めて欲しかった。これが現実なら現実ではやくアルのおばあちゃんの絵本を見つけて元の世界に戻りたかった。

 そんなことを思っていると、キッチンから麦茶を持ってきたリアムがいつものように手をパンッと叩いた。

「さ、晩御飯食べるぞー」

 リアムの声にクレアは黙って漫画を閉じ、ギルは「今いいところだったのに」と文句を言いながらテレビから視線を逸らした。

 リアムは、そんな2人を見ると今度はノアに向かってニコッと微笑んだ。どうやらリアムにはノアの感情も含めて全てお見通しだったようだ。


 久しぶりに食べたお寿司はどれも美味しかった。小さい頃は、プチプチした食感が苦手だったイクラも今日は美味しいと感じた。

 自分が大人になったからなのか、それとも普段ご飯を満足に食べられていなかったからなのか、それともその両方なのかは分からなかった。

 不意に隣を見ると、ライラが渋い顔でシャコの握り寿司を食べていた。

「ライラ」と声をかけると、彼女は渋い顔のままノアを見た。

「シャコって見た目も味も苦手」

「苦手なら食べなくていいのに」

「ノアがイクラ食べれてたから私もシャコ食べれるかなって思ったの」

 ライラはシャコを流し込むかのようにコップに入っていた水を一気に飲んだ。

「もうシャコだけは食べたくない」

 そう言ってライラは好物のサーモンを口に運んだ。

 イクラが食べれるようになった理由は、自分が少し大人になったからという言葉がぴったりなのかもしれない。どれだけ空腹でもさっきのライラみたいに苦手なものは苦手だし美味しく食べられないだろう。

 ライラとそんなやりとりをしていると、それを見ていたリアムがクスクスと笑った。

「やっぱり、みんな1つくらい苦手なネタあるよね」

「リアムさんも苦手なネタがあるの?」

 ライラが聞くと、リアムは苦笑いをしながら「食べられない訳じゃないけどタコがちょっと」と言った。

「お前ら俺より年上なのにお子ちゃまだな」

 ギルが澄ました顔でライラの嫌いなシャコを口に運びながら言った。

「リアムはないの?」

 リアムが聞く。

「ないよ。何でも食える」

「食べれるけど苦手なネタとかもないの?」

 ノアも聞いてみる。

「ないよ。先生が何でも食わないと怒るから何でも食うようにしてる」

「へー、すごいね。まだ小学生だから嫌いな物が1つや2つくらいあるのかと思ってた」

 リアムが感心したように頷く。

「すごいだろ」と何でも食べれることを鼻にかけるギルにライラが不思議そうな表情で聞いた。

「でも、それって嫌いなものも無理矢理食べるようにしてるってことだよね?」

 こくりとギルが頷く。最年長のリアムにはあんな態度なのにライラに対しては相変わらず素直だ。

「確かにギルは何でも食べられるのかもしれない。でも、食べれるけど嫌いなものもあるんじゃないの?」

「寿司では本当にないけど」

「お寿司以外なら」

「ケーキとチョコレート、あとフライドポテト」

「それ普通の小学生なら好きそうな食べ物ばかりだね」

 リアムが驚いた様子で言う。

「みんなそう言うよ。俺、本当バレンタインとか困る」

「チョコレート貰うの?」

「うん。小1の時から毎年バレンタインに俺に告ってくる年下の女の子がいるんだよ」

「それすごいロマンチックだね。いいなぁ」

 ライラが目をうっとりさせて言う。

「全然。ライラさんが毎年好きな男子に大量のシャコを貰うことになるのと同じ感じだよ」

「でも、シャコは高いからあんまりイメージできないなぁ。お寿司関係ないけど、私が苦手な枝豆でもいい?」

「いいよ」

 例え話にすら拘るライラの提案に対してギルはどうでも良さそうに答えた。

「枝豆が毎年送られたら嫌だろ?自分はそれを食べれないのにどうしろって話じゃん」

「他の人にあげるとか?私ならノアにあげる」

「そうしたいけど無理」

「先生が怒るから?」

「まぁそんなとこかな」

 ギルはそう言うと、イカを口に運んだ。

「今日も俺の方が大人だってことが証明されたな」

 ギルは1人でそう言うと満腹になったのか食器を持って部屋を出て行った。

「マイペースなところとかまだまだ子供だなって思うけどな」

 ギルがいなくなった後、リアムが微笑ましそうに言った。

 そうだね、とノアが言うより前に黙々とお寿司を食べていたクレアが立ち上がった。

 何も言わずに食器を持ち部屋を出て行く。

 前までは、クレアは「いただきます」と「ご馳走様」はちゃんと言う子だった。でも、最近はそれもなくなった。ご飯は一緒に食べるものの挨拶も事務的な会話すらも返ってこない。

 そんな前とかなり変わってしまった彼女の背中をノアは今日も横目で見送った。


 3人だけになったリビングで最初に口を開いたのはリアムだった。

「クレアちゃんさ、家庭環境があんまり良くないんだって」

「それって親の離婚とか・・・?」

 ノアが聞き返すと、リアムは黙って頷いた。

「前にクレアちゃんとリビングで2人になった時に言ってた。母子家庭なんだって」

 リアムはそう言うと、彼女から聞いたという話をゆっくり話しだした。

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