私の知らない母の恋(2)
その日の当番はクレアだった。でも、あの様子だと夜ご飯まで降りて来そうになかった。
いつものように自分がやると言うリアムを差し引いて今日はノアがライラと一緒に彼女の代わりに洗い物を片付けることにした。
「お皿洗いをしてると何か思い出さない?」
キッチンにあったという新しいクマ型のスポンジでガラスの器を洗いながらライラが言う。
「その何かのヒントはある?」
「ノアが小さい頃読んでくれた絵本」
「もうちょっと」
「ガラスの器」
「シンデレラ?」
「大正解」
ライラは嬉しそうに言うと、洗い終わった器をふきんで拭き始めた。
ノアも器を拭こうとふきんをとろうと手を伸ばす。
その時、不意にホワイトボードが目に入った。明日の当番はライラになっていた。
ライラが当番の時は、料理が下手な彼女に変わってノアが作っていることが多い。一応、当番であるライラも作るが彼女の担当は野菜を切ったり料理を盛りつけたりするといった簡単なことが多かった。
当番制にしたとは言ってもこの城で本当の意味で食事の準備をしているのはリアムかノアの2人だけだった。
「明日の晩御飯何がいい?」
「ステーキ」
「ステーキは難しいかな。ステーキ用の牛肉がないんだ」
ライラがステーキがそんなに好きじゃないことは知っている。それなのにステーキと答える時はいつも空想の世界にいる時だ。
仮にステーキを作ったとしても彼女がそれを食べる気がしないから僕は肉があるかどうかを確かめもせずに話を続けた。
「じゃあ、何があるの?」
「何があるかな」
呟くように返して、冷蔵庫を開ける。冷蔵庫には、今日の晩御飯用の冷しゃぶの材料しか入っていなかった。
朝ごはん用の食パンとカップ麺くらいならまだある。でも、そればかり食べるのは辛い。
今日中にアルに買い物を頼んだ方が良さそうだ。
「何かあった?」
台所の机で脚をぶらぶらしながらライラが言う。
「アルちゃんに頼まないと何も作れないよ」
連絡用のホワイトボードを持って彼女の向かい側に座る。
「明日何か食べたい物ある?」
「冷やし中華」
「OK」
ノアはスマートフォンで中華料理の材料を調べた。
スマートフォンの画面で中華料理の材料を確認しながら書いていると、前に座っていたライラが身を乗り出して言った。
「明日のお昼ごはんは何なの?」
「明日はカップ麺くらいしかないよ」
「じゃあ、何か頼んだらいいと思うよ。カップ麺は非常食として残しときたいもん」
「それもそうだね」
晩御飯の中華料理とは別にお昼ご飯をホワイトボードに材料を書いていると後ろから誰かにトントンと肩を叩かれた。
前に座っているライラ「あっ」という表情をする。振り向くと、そこにはあの夜に会ったきりのアルが立っていた。
最初に会った時と同じ服装をしているが、今日はフードをかぶっていない。フードを被っていないだけで敵か味方か分からない彼女に少し親近感を感じた。