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第5幕 砂糖とスパイス

祖母の法事で山の寺に行ったら、よりにもよって足首をハチに刺されました…

ハチさんや、なんで定期的に振動が来るであろう駐車場の側溝の中に巣作りしてしまったのかね(´・ω・`)

そしてなぜに4人もいる家族の中で、1番最後に車降りた私を狙ったのさ(´・ω・`)

もう腫れも引いたし跡も残ってないけど、刺されたときめっちゃ痛かったよ(´;ω;`)ウゥゥ


「…軽い風邪ですね。しばらくここで休んで行くように。問題なく歩けるようになったら寮の自室で休むこと。悪化したら言いなさい、実家の方に連絡入れますから」

「はい…」


どうも皆さん、こんにちは。光です。

夏風邪ひきました。何故だ。

健康管理には気を付けてたはずなんだがなあ…もしや先日、かき氷を2杯も食べたのが原因か?せめて1杯にしておけば…


幸いだったのは、自分が病弱だからと、義父が薬箱を持ち込ませてくれたこと。保健室じゃ薬は出せないけど、自分で持ち込んだ薬を飲むのはセーフだからね。


「もうそろそろ、夏季休暇だと、いうのに…」


ぶつぶつと言いながら、ベッドに腰かけ薬を取り出す。

現在こちらは文月、すなわち7月。

あと数週間で夏休みである。


「あなたは地頭がいいのですから、多少授業に出なくとも、期末試験は大丈夫でしょう?」


自分に水を差し出しながら、先生が言った。


「それでも、不安なものは、不安なんです」


水を受け取って、薬を飲む。

この国…日ノ本帝国というんだけど(製作陣絶対面倒になってやっつけで名付けたな)、西洋医学が結構入ってきてて、今ではそっちのが主流。しかしながら、自分の体にはどうも西洋の薬は合わないらしい。

というわけで、今飲んでるのは漢方薬だったりする。症状に合わせて調合したわけじゃなく、市販品だけれど、市販品の中では1番体に合う品だ。


「では、早めに治しましょうね」


先生は、そうすれば遅れもすぐ取り返せますから、と続け、優しく自分の頭を撫でた。

つい、猫のように目を細めてしまう。嬉しいけど、ちょっと恥ずかしい。


「もう、頭を撫でられる歳では、ないのですが」

「別にいいじゃないですか」


くすくすと笑って、手を離す先生。

12歳も離れているから、仕方ないのかもしれないけど、婚約者扱いというより子供扱いされてる気がする。もう17歳なんですが。結婚しててもおかしくない歳なんですが。

もやもやとした思いを抱えたままベッドに入って布団をかぶると、先生が自分の額に冷え○タもどき(冷却という異能で作っているから、そこそこ高価らしい。そんなものが山盛りあるこの学校の経済力すごい)を乗せてカーテンを閉めた。ベッドをぐるっと囲む構造になってるあれだ。たぶん、別の生徒にうつさないようにするためだろう。これ、1番奥にあるベッドだし。


目を閉じてみても、熱のせいか、なかなか眠れない。冷え○タもどきがあるとはいえ、しんどい。

夏風邪は胃腸に来ることがあるそうだけど、そうならなかったのは幸いだった。咳もそこまで酷くないから、喉が痛くて寝付けない、なんてことにはならない。かわりに発熱がちょっと辛いし頭痛もするが。


眠ろうとしても眠れないから、これから先のゲームの内容を思い出すことにした。たまに夢の内容と混ざって変な夢を見ることがあるから、眠る前に考え事するのは好きじゃないけど、考え事してると早めに眠れる…気がする。


まず、夏休み前の期末試験。これは学力が4なら上位、3だと真ん中、2以下だと赤点。5以上あると1位になる。

1位の場合は橙山と、上位の場合は黄瀬と、赤点の場合は赤坂、青沼、紫藤のうち最も好感度が高いキャラと勉強会をすることになる。この勉強会は好感度がかなり上がるけれど、赤点だった場合、補習に時間を取られ、補習と勉強会で放課後が終わる。そのため、逆ハーエンドを目指すなら、少なくとも上位にならなくてはならない。放課後のイベントはかなり多いのだ。


夏休み中のイベントだけど、基本的に光は自室に閉じこもってるから、自分から会いに行かなければ何もされない。スチル回収以外で会う理由がないため、ほとんどの場合光は無視される。よし、静かに過ごせるぞ。

攻略対象とのイベントは、勉強関連か、デート。逆ハールートの場合、全キャラでの勉強会及びデートになるんだが…お前らそんなに暇じゃないよな、後継ぎども!!なんで全員の都合がつく日があんなに多いんだ、場合によっては3日連続でデートイベント発生っておかしいだろ!!

着々と彼らの評判が下がっている(黄瀬は割とマシな方らしい、ぶれない人格と素行のなせる業か)のを見ていると、実はやるべきことほっぽって義妹に会いに来てるんじゃないかとさえ思ってしまう。事実そうだったらどうしよう。我が国の明日はどっちだ。


で、夏休み明けの先生転勤イベント…は、無しか。野ばら様情報(あの後交流が増えた)によると、先生の好感度低いと発生しないそうだし。

どうしてなんだろうとあれこれ考えてみた結果…普段の彼らの素行のせいで、訴えが上に届かなくなるのでは、というとんでもない結論にたどり着いてしまった。というのも、野ばら様曰く、逆ハールートに必要な選択肢を3回以上選ぶと先生の好感度にマイナス補正がかかり、逆ハールートに突入すると先生の好感度がその状態で固定されるという仕様になっているらしい。つまり、逆ハールートだと、高確率で転勤イベントが発生しないのだ(そのせいで逆ハールートのハッピーエンドの難易度が一気に跳ね上がったらしい)。

先生が嫌味言うのはもっぱら攻略対象、というか彼ら以外に言ってるところをあまり見たことがない(ご本人に訊いたところ、「存在が気にくわないから」という答えが返ってきた)。そのため、反感抱いてるのは一部の少数派の可能性がある。で、その少数派の筆頭が、評判落ちてるわけだから…本気だと思われないのも仕方ない。だから、転勤させられることもない…

ヤダ、異能姫ってば裏側が真っ黒。本編もだけど。


「失礼します」

「どうぞ」


おや、誰かが来たようだ。聞き覚えのある声だけど…って、黄瀬の声だこれ。


「先生、本で指切っちゃったんです…」


義妹の声まで。ああ、黄瀬は付き添いか。よかったよかった。実は先生の次くらいに好きなんだよね。


「おやおや。では、そこに座ってください」


先生の声が若干硬いというか、険しいというか。しっかり聞いてなきゃ仕事モードと間違える程度に、だけど。

本のページで指を切った程度なら、大した時間はかからないだろう。


「ところで、あなたは何故いらしたので?」

「あ、えっと…その…」


まさか、付き添いですとは言えないよね。指切っただけだし。


「も、桃谷先輩が、風邪ひいたって聞いて…お見舞いに…」


は?

え、待って。自分、風邪のことは誰にも言ってないんですけど?あ、ひょっとして来る途中咳き込んだの見られてた?

相変わらず優しい子だなあ、黄瀬は。さすが1年のアイドル。ちょっと臆病だけど、先輩方に仕事押し付けられても文句1つ言わずに全部こなしてるし、要領いいし、気配り上手だし。こういう人が職場に1人いると、仕事がはかどるんだよね~。臆病なところも、癒し要素になる。

…って、和んでる場合じゃない。つまり自分に会いに来たと?


「彼なら、今しがた眠ったところです。無理に起こして風邪をこじらせても面倒なので、お引き取りください」


先生ありがとうございます。正直、今黄瀬に来られて、まともに対応できる自信がなかったんだよね。


「で、でも、お見舞いの品だけでも…」

「うつるといけませんから、こちらで預かっておきますね」


うん。うつして赤坂あたりに殴り込みでもかけられたら嫌だから、ぜひそうしてください。


「酷いです先生!会いたいと言っているんですから、会わせてあげればいいじゃないですか!」


空気読め義妹イィィィィィッ!!そう言えばあった、こんなイベント!!この後黄瀬が風邪ひいて、義妹がそれを看病するってやつ!うつすこと確定ですね本当にありがとうございました!!!


「え、あ、亜里沙!?」

「おやめなさい!!」


戸惑う黄瀬。ああそうだよね、イベント通りなら、義妹は黄瀬の手を引っ張って、自分の方に走ってきてるんだもんね!!!他に誰も生徒がいなくて、奥にあるこのベッドだけカーテン引いてあったら、そりゃここだってわかるわな!!!

そして初めて聞いたよ先生が声荒らげるところ!!!怒鳴っても素敵ですね!!!なんであのゲーム、重要な場面以外無声だったんだろうな!!!容量の関係かな!!!


「義兄様!!」


義妹の弾ける笑顔とともに、勢いよく開かれるカーテン。眩しい。

イベント通りだと、ここで光が「騒がしくて起きてしまったよ…」と言いつつ義妹を睨んできて(このイベント専用の風邪ひき光の立ち絵が用意されててテンション上がった)、黄瀬と一悶着ある。でも、うん、うつしたくないし、あとでいろいろ言われるのもあれだから。

狸寝入りする。目を閉じててよかった。


「あ、あれ…?」


困惑したような義妹の声。

そして次の瞬間、ピシャーンという音を立てて、すさまじい勢いでカーテンが閉められた。何をどうやったらカーテンからあんな音がするんだ。全力で網戸閉めた時と同じ音がしたぞ。


「…うつりますよ。それともあなた、うつされたいのですか?そうでないのなら、彼の風邪を悪化させたいので?」


どうやら、先生が閉めてくれたようだ。


「そ、そんなつもりじゃ…」

「なら帰りなさい。もう治療は終わりました」


ああ、先生の声から冷凍庫のごとき冷気を感じる…


「亜里沙、行こう。先生、ご迷惑をおかけしました。あとこちら、お見舞いに持ってきたんです。あとで先輩に渡していただけたら幸いです」


よし、黄瀬ファインプレー。そのままそこのお花畑さんを連れて帰ってくれ。


「ちょ、ちょっと…」


遠ざかる声。

どうやら、義妹はそのまま黄瀬に連れられ、退室したようだ。


「はあ…。彼女の頭、脳の代わりに砂糖と香辛料と素敵な物でも詰まっているんでしょうかね」


言いますね、先生。

でもこの言い回し、どこかで聞いたような…ああ、そうだ。マザーグースの「男の子は何でできている?」だ。


『男の子は何でできている?

男の子は何でできている?

カエルにカタツムリ

それに 小犬の尻尾

そういうもので できている


女の子は何でできている?

女の子は何でできている?

砂糖にスパイス

それに 素敵な物ばかり

そういうもので できている』


男の子を女の子がからかってるような、馬鹿にしてるような歌詞。

砂糖、スパイス、素敵な物。一見かわいらしいけど、可愛いだけじゃ何にもならない。砂糖もスパイスも、使いすぎると酷い味の料理が出来上がるし、素敵な物ばかりじゃ、世の中は渡っていけない。

…なんだろう。今、初めて義妹を的確に表現できる言葉を見つけた気がする。


というか、先生、マザーグース知ってるのか。いやそれ以前に、この世界にもあるのか、マザーグース。

先生のお兄さんは世界各国を巡る仕事をしているそうだから、お兄さんに聞いたのかもしれない。


「これではきっと、起こしてしまいましたね。…おやすみなさい」


…ともあれ、これでようやく眠れそうだ。

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