第4幕 お約束
「なっ…!?」
思わず大声を出しそうになってしまったのを、口を押さえて無理やり止める。
そして、先生に聞こえないよう、小声で言った。
「あの、何故それを…」
「うふふ、やっぱり…わたくしもね、あなたと同じ。転生者なんですの」
マジか!
ちなみに、野ばら様は、ゲームには出てこない。さっきの出来事だって、ゲームのイベントでは、光はやってこず、義妹が「亜里沙が悪いの…先生、ごめんなさい。もう帰ります」と言って教室に戻り、終了だった。
「幼かった頃は、これから原作の光の人格が構築されていくのかも…と思っていたのですが、最近のあなたは明らかにゲーム通りの行動を避けておりますもの。気づいてしまうのは当たり前ですの」
自分そんなにわかりやすかったか…
「ええと、もうお気づきだとは思いますが、義妹も…」
「もちろん、気づいておりますの」
あまりにも行動がプレイヤーですもの、と続ける野ばら様。うんうん、発生させられるイベントも入手できるスチルも、全部回収にかかってますもんね。
「『光』は、賛否の別れるキャラでしたもの…亜里沙様の中の人が、アンチだったとしても、不思議ではありませんの」
「同感です。設定は美味しかったのですけど、いじめの内容が…」
そもそも、18禁(Gの方)ゲームでしたし。貞操にかかわるものこそなかったものの、かなりあれはきつかった。描写したらこの小説の対象年齢上がりそうだから、内容についてはご想像ください。メタいとか言うな。
「日夜ネットで大論争が繰り広げられておりましたね…」
「わたくしは肯定派でしたの。光様は?」
「自分もです」
設定がツボだったんだよね。まあ、我が身となると、そんなことも言ってられなくなるわけだが。
「それにしたって、亜里沙様の行動はおかしいですの。いったいどうして…」
逆ハーに向かっているのでしょう、という言葉が続くものだと思った。
しかし、野ばら様が発した言葉は。
「バッドエンドに向かっておられるのでしょう?」
「えっ?逆ハーでなく?この時点で立つバッドエンドのフラグ、ありましたでしょうか?」
「はい?…あの、もしや。光様、1.5+2部を、プレイしておられないのですか?」
「そんなものが?」
「何と…あれをプレイせずお亡くなりになられたとは…」
自分が死んだ日の前日、公式サイトでアンケートやってたから、2部なり追加ディスクなりが出るんじゃないかといううわさはあったけども。
「1.5+2部は、追加ディスクと2部を合わせたものですの。1部に少し内容を足したものと、全く新しい2部。その2つをプレイできるんですの。1.5部をプレイせずに2部をプレイすることも可能ですの」
「つまり、先ほどおっしゃられたバッドエンドというのは…」
「1.5部、内容が足された1部のバッドエンドですの」
「なるほど。どういったものなのですか?教えていただけますでしょうか」
情報は、多ければ多いほどいい。
「もちろんですの。まず、大きな相違点が1つ。光を断罪しなければいけなかった1部と違い、1.5部は、光と和解しなければ、ハッピーエンドを迎えることができないんですの」
「和解、ですか」
「ええ」
何でも、1.5部には、隠しパラメータとして、光の好感度が設定されているらしい。1部では日に日に光のいじめがエスカレートしていくのに対し、1.5部では、光の好感度が高い場合、どんどんいじめがなくなっていくんだそうだ。
じゃあ、どうやったら光の好感度が上がるのかというと…
「飴田先生の好感度?」
「そう、先生の好感度ですの。こちらも隠し要素なのですけれど、先生の好感度を上げなければ、光の好感度は上がらないという仕様になっているんですの」
一応、理由はあるらしい。
義妹に対し、逆恨みに等しい感情を抱いている光だが、友人と呼べる存在はいない。そのため、ゲーム内の光は、常日頃の愚痴を、先生に垂れ流しにしているのだという。
しかし、先生の好感度を上げることによって、先生が「あなたの義妹はこんな人物のようですけど」と光に伝え、それがきっかけとなって、光が義妹への対応を改めるのだそう。
で、一定以上好感度が上がったところで、和解イベント発生。光が、「これ以上、自分の存在意義がなくなっていくかと思うと、耐え切れなかった。亜里沙が邪魔で邪魔で仕方がなかった。許してくれとは言わないが、どうか謝らせてくれ」と泣きじゃくりながら言い、「もちろんです。義兄様の考え方も、亜里沙にはわかります。これからよろしくお願いしますね、義兄様」という選択肢を選ぶと、さらに泣きながら女であることをカミングアウトするのだとか。原作でも光は女だったんだな。スタッフの皆さん、1部から伏線引っ張ってたんですね。
だが、逆に好感度が低い時。原作の光と先生は、馬が合っていた。そのため、光の処分に我慢ができなくなり、先生が義妹を殺してしまう…らしい。
なお、2部は、ノーマルエンド後の話らしい。攻略対象は先生方なんだそうだ。
「でも、そうであるならば、何故義妹は…」
「考えられる可能性としては、そうですわね…先生ルートが存在しているものだと勘違いしたのでは?」
「あり得るのですか?」
「エンディングに到達する前に亡くなられた方なのかもしれませんし、1.5部だと、先生の好感度が上がっていない場合、先生が転勤してしまわないんですの。それに、先生の好感度が下がるイベントや選択肢が、どれもこれも先生に好意を示すようなものですから、それを勘違いしたのかもしれませんの」
一例を挙げると、「義兄様よりも、亜里沙を見てほしいんです!」「お願いです、義兄様の言いなりにならないでください!」「亜里沙は、ここにいたいです…」などだそうだ。しかも反応が、ほぼ無反応か、微笑むのどちらか。なるほど、勘違いもするだろう。
1部だと、夏休み明けに、飴田先生が、生徒への態度が教師にふさわしくないとして、転勤させられちゃうんだよね。それ以降、光からのいじめがいっそうエスカレートする。
「ああそう言えば、公式サイトの方で『今回の隠しキャラは、好感度が表示されません』という告知がありましたので、それを先生だと思っておられるのかもしれませんの」
…その可能性大じゃないですかー…。
なお、その隠しキャラは、2部の隠しキャラの黒崎先生らしい。飴田先生はしっかり攻略不可のままだったそうだ。