表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

プロローグは疑惑とともに

―――どうしてこうなった。


「聞こえないのか、桃谷(ももたに)!!」

「君が、義妹とはいえ妹をいじめるようなやからだったとは…失望したよ、(ひかり)君」

「桃谷ぃ…覚悟はできてんだよなぁ…?」

「も、桃谷先輩…嘘ですよね?」

「何とか言ったらどうだ、光」


今現在、自分を責め立てているのは、1人1人違った個性を放つ我が校のイケメン共。


最初の言葉を放ったのは、正義感とリーダーシップにあふれる、燃えるような赤髪を、スポーティな短髪にした正統派イケメン、「赤坂 晴翔(はると)」。自分の1学年上の3年生で、生徒会長。

2番目の彼は、知的でクールで気難し屋な数学教師、「青沼 茂」。海のような深い青の髪を長く伸ばして一つ結びにし、紺色のフレームのシンプルな眼鏡をかけている。

3番目、ガチギレ寸前の見るからにヤンキーな人物…「橙山(とうやま) 勝人(かつと)」。派手な橙の短髪を逆立てており、あちらこちらに包帯やら絆創膏やらが見える。彼も3年生で、我が校の不良の頂点に立つ、ここら一帯から恐れられる人物。

4番目の、気弱そうな少年は、1年生の「黄瀬 和馬」だ。文芸部所属で、目に優しい薄い黄色の髪を肩にかかるかかからないかくらいのところで切りそろえている、温和で優等生な文系美少年。

最後の言葉を発した人物は、美術部副部長の、自分と同じ2年生、「紫藤(しどう) 雅敏(まさとし)」。濃い紫の髪をオールバックにした、フェロモンダダ漏れの、イケメンというよりハンサムとか端正とかいう言葉がよく似合う人物だ。左目の下の泣きぼくろがチャーミングポイント。


そして、その5人の後ろに隠れているのが…


義兄様(にいさま)、どうか、どうか認めてください!亜里沙は義兄様を追い詰めるような真似はしたくありません!!」


どの口が言うかとか、この状況で半笑いなのにそれはないだろとか、そう言うツッコミはとりあえず明後日の方向に投げておいて。

ふんわりしたピンクの髪を長く伸ばしてツインテールにした、砂糖菓子みたいにかわいい彼女は…「桃谷 亜里沙」。自分の義妹に当たる。


乙女ゲームの断罪シーンみたいだって?はは、そうでしょうとも。実際、ここは自分が現世でやってた乙女ゲームに、酷似した世界なのだから。


確か名前は…「大正浪漫恋愛譚 ~異能姫は選択を迫られる~」だったか。

その名の通り、世界観は大正浪漫。ただし、お約束というか、実際の大正というわけではなく、

1.華族(一応説明すると、貴族のこと)は、上から「上公」「公」「亜公」「上卿」「卿」の5つの爵位に分けられている。

2.上公や公のいくつかの家は異能という力を伝えている。特に強い異能を伝える上公とその分家には色の名前が与えられており、「色彩の華族」と呼ばれている(攻略対象含む名有りキャラは全員色彩の華族)。また、異能が発現し、それが子にも遺伝した場合、その家は華族とされたり、すでに華族だった場合は公、場合によっては上公にまでランクが上げられる。ただし、力が落ちたり、異能持ちが5代続けて生まれなかった場合は、格を下げられ、最悪華族ですらなくなる。

3.もしも1代限りの異能に目覚めた場合、その人物は華族の養子になることが義務付けられている。

などの相違点がある。


今自分を断罪してるイケメンたちは、当然攻略対象。全員そろってるところを見ると、逆ハールート…隠しキャラの紫藤までいるのはすごいと思う。


義妹はこのゲームのヒロイン。名前はデフォルトネームのままだ。彼女が国立学園高等部に入学するところから話が始まり、その年の卒業式で話が終わる。つまり、ただいま卒業式の真っ最中。

サブタイトルの「異能姫は選択を迫られる」、これは誰を攻略するか、という意味でもあるのだが…実は、黒い意味もある。

桃谷家は、「共感」という、他者の気持ちを理解し寄り添う稀有な異能を伝える家なのだが…4代前から弱い異能持ちしか生まれず、格下げの危機にさらされていた。だが、そこに生まれたのが、今までの埋め合わせのごとく強力な異能を持った義妹である。

当然家は婿取り娘にしようとするが、共感の力を手中に収めたい他の家は、何とかして自分の家系の年頃の男を義妹とくっつけようとするわけで。

攻略対象が近づいてくるのは、最初のうちはそれのためなのだ。

だからこそ、ヒロインは選択しなくてはならない。どこかに嫁ぐのか、それとも誰かを入り婿に迎えるのか、それとも独り身になるのか、駆け落ちしてしまうのか。

…なのに、なんで逆ハーエンドが存在するんだろうな。


そして、自分はまあ、うん、察しただろうが…最後の砦悪役義兄。

名前は「桃谷 光」。義妹の異能が発覚するより前、親戚筋の藤城家から養子に来た。

義妹の異能が分かった後も、義妹に何かあった時のためのスペアとして、そのまま育てられたのだ。

見た目は、藤色の髪をセミロングにした、藤色のたれ目の幸薄そうな美少年。

異能は「認識」。なんとなくショボそうな字面だが、実際はかなり厄介で極悪。にもかかわらず、ある理由で藤城家はいまだに「公」のままだ。

この異能は、いわばサイコメトリー…すなわち、触れた非生物の記憶を読み取る、というものなのだが、少し波長をずらすと、触れた生物、下手をすれば触れていないものでも記憶や意思を読み取ってしまう、という恐ろしい代物。おまけに、強めの力を持っていると、ずらさずともあっさり読み取れてしまう。

強い力を持った者はあまり生まれないものの、時折生まれる強力な異能持ちは、それに耐えきれずに早いうちに自殺してしまうのだという。そうでなくとも、制御しきらないうちはひょんなことで波長がずれ、それが原因で精神を病んだりする者が続出するのだとか。前述したある理由というのは、これだ。

光、つまり今の自分は、それなりに強い異能持ちではあるが、制御がうまく、精神が病むまではいかなかった。しかし、生まれつき病弱で、まともに運動することができず、それどころか日常動作にも事欠く始末。そんな光が、健康な義妹を妬むのはまあ自然な流れで、義妹に様々な嫌がらせをする。光を断罪しない限り、義妹はハッピーどころかノーマルエンドにもたどり着けないのである。

とはいえ、中身が自分になっちゃった今、義妹への嫉妬はさしてないけども。


だから、こんな状況になるはず、ないんだけど…


「ですから、いじめなど行っておりませんと、再三申し上げておりますが」

「とぼけるな!!証拠もあるんだぞ!!」


生徒会長よ、その証拠はさっきも見たけど、自己申告を羅列した書類じゃないですか。証拠品はどこだ。そして優秀な頭脳もどこだ。どこへ消えた。


「衣服を破く、筆記用具を燃やす、教材に墨を浴びせる、食べ物に虫を入れる、足掛けをして転ばせる…挙句、義理とはいえ妹を強姦未遂!これが、仮にも上公の息子のやることか!!!」


って言われてもねえ…そんなことできないっつうの。

最初3つは、男子寮と女子寮がかなり離れていることに加え、寮には警備員がいること、何より義妹は2人部屋にいることを考えれば、誰にも悟られず行うなんて不可能に等しいだろう。

それに、食事をとる場所だって違う。義妹は敷地内のカフェに行ってるが、自分はいつも学生食堂で食事をしている。2つの位置は正反対だ。

足掛けは、自分の頼りない足でやったところで、自分も道連れになるだけだ。

そして、最後の1つは、物理的に無理。いや、道具とか使えばできるけど、自分はそう言ういかがわしいもの売ってる店を知らない。

え、なんで無理かって?

だって…



自分、生まれた時から女です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ