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「な~んだ、彼氏留守じゃん。」

…………え?


振り返ると、さっきの霊がいた。


隼人の部屋の前で途方に暮れていた私は、さらに困った。


どうしよう!!ついて来ちゃったんだ!!塩!塩!って、塩なんか持ってるわけないでしょ~!!


そっか、彼氏の部屋に行くとか言っても、普通について来ちゃうんだ……。強引なんじゃなくて、空気の読めない幽霊だったんだ。


「まだ幽霊とか言います?残念ですけど私、ドアの通り抜けとかはできないんですよ。ほら。」

そう言って幽霊はドアに手をついて見せた。本当だ、すり抜けたりしない。幽霊はそのままペタペタドアを触ると、ドアノブに手をかけた。


「じゃ、とりあえず開けてみます?」

幽霊は勝手にドアを開け始めた。

「え、あ!ちょっと!勝手に…………」


ドアは、ガッチャンと音を立てて、いとも簡単に開いた。


「隼人、開けておいてくれたんだ~!やっぱり隼人優しい~」


こうして、私は隼人の部屋に入る事ができた。


部屋に入ると、まるでさっきとは別の部屋に思えた。夕焼けに照らされた部屋は、オレンジ一色だった。もうこんな時間?時間の感覚がおかしい。


「お邪魔しま~す!」

私に続いて、後から幽霊も入って来た。

「ちょっと!何であんたまで?」

「え?ここまで来させといて帰すんですか?」

勝手について来ただけでしょ!?


これじゃ、隼人の家で二人きりラブラブタイムが台無し……


「梨理?」

「隼人!隼人~!!」

部屋の中には普通に隼人がいた。

「どうかしたの?」

ベッドの上に服を置いて、隼人が服を脱ぎながらこっちを見た。


「なん~だ、彼氏部屋にいたんだ!」

「え?今着替えるの?いや、だってほら、他に人が…………」

「人?どこ?誰もいないよ?」

隼人はさも当然かのように着替え続けた。


え…………?誰もいない!?


「誰もいない!?ちょっと待って?」

もう一度、幽霊の方を見た。目を擦ってみも、眉間に力を入れて見ても、ガンをつけて見ても、どう見ても…………私には、はっきりとその存在が見える。


私の驚く様子を見て、幽霊はわかってもらえた?という顔をしていた。

「ほらね。他の人には見えないんですよ。」

「…………。」


初めて……………………ゾッとした。


「こっっわっっ!!」


私の驚きに隼人が驚いた。

「どうしたの?」

「そこに幽霊がいるの!」

「え?どこ?」

「そこだよ!そこ!」


隼人が一緒になって怖がると、余計怖さが増した気がした。


「ええっ怖っ!!」

「怖っ!!」

「やだ怖い怖い怖い!」

「怖っ~!」


私達がバカみたいに怖がっていると、幽霊が冷静に突っ込んだ。

「いやいや、いつまで怖がってるつもり?」

いい加減うんざりという顔でこっちを見た。


いや、あんたのせいでしょ!?


「僕、取りつかれ体質なのかな?」

「大丈夫!隼人は私が守る!」


そう!隼人に心配も迷惑もかけたくない。隼人は私が守るんだ。私が側にいて、絶対に幽霊から隼人を守る。


「隼人、塩!塩ちょうだい!」

「塩?」

隼人から塩を受けとると、幽霊に振りかけた。


「止めて!アジシオ止めて!」

「あ、本当だ。ま、いっか。くらえ!アミノ酸!!」


すると、隼人に優しく諭されて、塩を取り上げられた。

「梨理、食べ物で遊んじゃダメだよ。」

「遊んでないよ!悪霊退治だよ!」

「…………。」

隼人は、また、困った笑顔になった。


塩のついた手で腕を十字にして、ウルトラ◯ンになった。

「くらえ!!エンカナトリウム光線!!」

「ギャー!しょっぱい~!」

「あ、効いてる効いてる!」

幽霊は苦しむのを止めて、冷静に突っ込んだ。


「んな訳ないでしょ!何やらすの!」

私達の三文芝居を、隼人は無言で眺めていた。


「本当に……誰かそこにいるんだね……。」

認めた!?意外にも隼人は、幽霊の存在をあっさり認めた。塩味のようにあっさりと。


「何だか梨理、楽しそうだね。」


楽しそう…………?


「うん、まぁ、大学生活も楽しいよ!」

隼人がいない大学生活も、そこそこ楽しい毎日だった。


「なっちゃんと、土居ちゃんと、ハナ、三人の友達ができたし、なっちゃんとは同じサークル入ったし、あと…………」

「…………。」

隼人はまた困ったような笑顔で、私の話を黙って聞いていた。


「あと、好きな人!…………好きな人?」


好きな人に…………好きな人を紹介するって…………何?


指と指を擦り付けると、感触に違和感を感じた。きっと、さっきの塩だ。


そんな感覚と似てる。


当たり前に、いつの間にか着いていた塩に気がつく。


当たり前なのに、当たり前の事に気づかなかった自分に、やっと気づかされる。やっぱり…………何かおかしい。


この塩のような、違和感の理由がわからない。それが気持ち悪い。


時間の感覚や、場所、思い出せばまるで、当然のように思い出す。それなのに…………


「梨理?」

「隼人…………私、どうして泣いてるのかな?どうしてこんなに……不安になるんだろう?どうして…………」

「梨理…………。」


隼人は、私をそっと抱き締めてくれた。


嘘…………初めて、隼人に抱き締められた。今まで、こんなに甘やかされた事なんて一度も無かった。


不安で押し潰されそうになった心が、隼人の温もりに少し救われた。


夜の帳が、夕暮れのオレンジの光を遮り始めた。


誰か教えて……


この涙の理由を、誰か教えて。


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