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カッシャン!


鈍い、鍵の束の落ちた音が聞こえた。

「隼人…………?」

音の方を見ると、全く知らないおじさんが鍵を拾っていた。


隼人のマンションの前に戻ると、隼人は留守だった。いくら呼び出しても、反応がない。


どうしよう……。当然鍵なんか持ってないし、隼人の居場所を聞こうにも携帯もないし……


すると、さっきのおじさんがエントランスの自動ドアを開けた。


チャンス!


私は少し緊張しながら、おじさんの後に続いて中に入った。そして、なんとかエレベーターに乗って部屋の前までたどり着いた。


ドアの前まで来て、インターホンを押してみても、やっぱりドアは開かなかった。やっぱり留守なんだ……。


ドアの前で困っていると、遠くで若者の笑い声が聞こえた。今年もそろそろお花見のシーズンか……。もうすぐ新歓コンパもある。今年はなっちゃんが幹事だろうか?


そういえば去年、こんな季節に鍵を落とした事を思い出した。


大学に入学してすぐ、やっぱり大学の近くで1人暮らしをしたい!とパパにワガママ…………ちゃんと頼み込んで、大学の近くで1人暮らしを始めた。


狭い部屋だけど、初めての私だけの部屋に、何だか秘密基地みたいでわくわくした。


大事な大事な自分の部屋の鍵に、忍び猫ニャニャンのキーホルダーをつけた。隼人の妹にもらった、大事な大事なキーホルダー!

「ふふふ。可愛い!」


私は何だか嬉しくて授業中でもそのキーホルダーを眺めた。


あの時、私はきっと浮かれてた。新しい学校、新しい部屋、新しい友達、バレー部というほぼ飲みサークル、講義さえも楽しくて、浮かれてた。


それが…………


「無い!!」

「どうしたの?」


鞄の中のどこを探しても、鍵が見つからなかった。


「ポケットの中は?」

私は上着のポケットをひっくり返して探した。机の下もかなり探した。それでもない。

「ないな~どこかに落としたのかな?」

「落とし物?事務室行ってみる?」


友達にそう言われて、事務室に届いてないか訊いてみた。

「あの、猫の忍者のキーホルダーがついてる鍵なんですけど……」

「今日持ち込まれた落とし物はこの中ですよ。」

そう言って事務員のおばさんが、箱を持って来てカウンターの上に置いた。


箱の中を見ると、その中に、一際目立つニャニャンのキーホルダーがあった。


「あった!!良かった~!」

「あった?良かったわね~」

「ありがとうございます!」


そこに、1人の男の人がやって来て言った。年下?いや年上?……学生?もさもさの長い髪に、ティーシャツの上にヨレヨレのシャツを羽織った、女子大には珍しい…………男の人。


「あ、すみません、鍵の落とし物ありますか?」

「あら~そちらも鍵?この中にはもう鍵は無いみたいだけど?」

事務員のおばさんは、箱の中をじゃらじゃら探してそう言った。


「本当だ…。昨日から無いんです。猫の忍者のキーホルダーがついている鍵なんですけど、全く見てませんか?」

「猫の忍者?」


事務員のおばさんと私は、一瞬顔を見合わせて、私の手に持っていた鍵の方を見た。

「あ、それ!少し見せてもらえませんか?」

「え、でもこれ私の……。」

「お願いします!!」


そう手を合わせてお願いされたから……見せるだけならと思って、恐る恐る鍵を渡してしまった。

「ありがとう!じゃ!」

そう言って、男は走り去って行った。


え?ぇえええええ!!持ち逃げ!?


「ちょっと待って!」

私は必死にその男を追いかけた。


うわっ足、早っ!!


自分は足が遅い方じゃないと思ったのに、みるみるうちに距離を離されて行った。見失わずについていくのがやっとだった。


こんな事ならヒールの低い靴を履いて来るんだった……。今はそんな事を考えている場合じゃない!とにかく見失わないようにしないと!


何とか校門まで来ると、男は首にかけた入校証を守衛さんに返していた。どうやら、ここの学生じゃないみたいだった。そりゃそうだよね、ここは女子大。


「待って!待ってよ!!待ってってば!!」

校門を出て、そう叫んでも全然止まってはくれなかった。止まる気配すらなかった。私は必死で男の後を追い続けた。


すると、大きな通りの赤信号でやっと止まった。男が振り替えって私に言った。

「悪いけど、これ俺の。マスコットの足の所、削れてる。」


私は息を切らしていて、それどころじゃなかった。本当はそう聞いて、怒鳴りつけてやりたかったけど、息が切れてそうはいかなかった。

「だからって……持ち逃げするのは……おかしい……!!」


「でもどうせ違うって説明しても、信じて渡してくれたりしないよね?」

「何言ってるの!?そんなの信じるかどうかなんて話をしてみなきゃわからないでしょ?」


話す前から決めつけるなんておかしい!!


「いや、君は信じない。君みたいな人は、絶対に信じて鍵を渡してくれたりはしない。」


そう言い残して、男は青信号を渡って、人混みを進んで行った。


私みたいな人…………?それ、どうゆう意味?


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