幽霊
4
外に出て、一旦冷静になった。
鞄を無くしたなら、交番に届いてないか聞いてみよう。確か駅前に交番があったはず……。
外に出ると、春の風が気持ちいい。昼前の日差しが強くて、少し汗ばむ陽気だ。
こんな事なら半袖を着て来れば良かった。ちらほら半袖の人も見かけてそう思った。
歩きながら、少し不思議な気分になった。この辺は初めてなのに、初めてな気がしない。多分この街並みが、どこか懐かしい感じなのかもしれない。
もっと不思議だったのは…………桜はすっかり花を落としていて、青々とした葉がついていた。昨日はあんなに満開だったのに、1日でこんなに緑になる……?まるで浦島太郎な気分。
昨日のあれはやっぱり星だったのかな?
交番の前に着くと、戸は閉まっていた。交番の中を覗くと、誰もいなかった。仕方がない。また来よう。
結局無駄足になってしまった。
私はブラブラ歩いて元来た道を戻り始めた。ちょうど交差点に差し掛かった時に、赤信号で止まった。
信号待ちをしている最中に、ふと横を見ると…………座り込んで電柱に寄りかかっている人がいた。具合が悪いのかな?行きにこんな人いたっけ?
ショートヘアの…………恐らく歳上の、女の人?
「大丈夫ですか?」
私は少し遠くから声をかけた。すると、大きな声で怒鳴られた。
「大丈夫かって?見ればわかるでしょ!?大丈夫じゃないに決まってるでしょ!?」
こ、怖…………。
昼間なのに……酔っぱらい?どこかでお花見でもして、友達とはぐれたのかな?
すると、座り込んだその人が頭をあげると、ふと目があってしまった。
あ、ヤバ……目が合っちゃった。私は少し微笑んで誤魔化した。
赤信号が青に変わると、信号待ちをしていた人達が一斉に歩き出した。私も歩き出そうとすると、突然引き止められた。
「待って!ちょっと待ってください!」
振り返ると、さっき目の合った人が私を呼んでいた。
「あ、あの…………ちょっと…………」
「あなた、私の事見えますよね?声が聞こえますよね?」
「え?は、はぁ?!」
この人は何言ってるんだろう?私、目悪くないから普通に見えるけど?やっぱり、酔っぱらってるのかな?
関わっちゃいけない、放って置いて行こう。
「あの、私、行く所があるんで……。」
本当は行く所なんて無いけど、青信号がチカチカしていた。
「待って!私、ここでずっと待ってたんです!私が見える人はたまにいるんです。でも、話は聞いてくれない。私に微笑みかけてくれたのは、あなただけなんです!……あなた……だけ……」
そう言って、その人は泣き出してしまった。私は捕まれた腕を振り払えず、立ち尽くしてしまった。
そんなやり取りをしていたら、点滅していた青信号が、完全に赤信号に変わってしまった。
「お願いします!私の話を聞いてください!」
この人泣き上戸?そりゃ、酔っぱらいの話聞くなんて、そんな暇な人いないでしょ?
私はため息をついて言った。
「じゃあ、思い出してみて。最後はどこで飲んでたの?」
「いえ、私は飲んでませんよ!飲んで運転なんてしません!」
「運転…………?」
確かに、この人からお酒の匂いはしない。
「運転していて、事故を起こした所までは覚えているんです。」
え……?事故…………?
それで、私の事が見えますよね……?それって…………
「もしかして幽霊?あ、でも私、霊感とかないから。他の人が見えないものが、特別に見えたりとかしないから。」
昔から心霊現象の類とは、からっきし縁がなかった。縁もなければ興味もない。
そうは言っても…………この人、全然幽霊に見えない。だって、顔色もいいし、足もちゃんとある。
「私なんかより、有能な霊能力者を探した方がいいよ。じゃあね!」
赤信号が青に変わると、私は幽霊を置いて横断歩道を渡った。
幽霊なら尚更私には何もできない。
「だから待ってくださいよ~!」
うわっ…………ついて来た!幽霊は私の後をずっとついて来た。
「ちょっと!取りつかないでもらえる?」
「取りついてないですよ!キングボンビー扱い止めてください!」
「してないから!キングボンビーって何?」
横断歩道を渡っていると、幽霊が喚きながらついて来た。
「知らないんですか?桃鉄ですよ!桃鉄!!」
いや、だから、それも知らないし。
「さっきからあなた、私の事、酔っぱらいだの、幽霊だの、キングボンビーだの、金魚のふんだの、失礼ですよ!」
後半ほとんどでっち上げ。
「能力者なのに、どうして無視するんですか!?」
能力者!?って……何?それ、私の事?
「だって、私が幽霊なら、私が見えるんですよ?隠れ霊能力者じゃないんですか?」
「隠れてもないし、霊能力者でもない。ついて来ないで。」
ただでさえ記憶が無くて混乱してるのに、これ以上の厄介事はマジで拒否。
何だか、変な人につきまとわれちゃったなぁ……。これじゃ隼人の部屋に戻れない。あ、そっか!隼人の部屋に戻るなら…………
名案を思い付いた。
「私、これから彼氏の所に帰るから!じゃ!」
一度でいいからこの台詞言って見たかった~!!
まぁ、いくら強引な幽霊でも、これならついて来ないよね?