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部屋




初めて隼人の部屋に入った。実家の方には何度も入った事はあるけど……ここは初めてだった。


私は洗面所の入り口で、隼人の横顔を眺めた。


隼人とは、中学と高校の同級生。小学6年の夏からずっと友達。こうゆうの腐れ縁とか言うんだろうけど…………腐ってない!!私の中では腐ってない!!


高校生の時に告白したけど、隼人には他に好きな人がいて、あっさりフラレた。それでも諦められないまま、友達以上恋人未満の関係で高校生活3年間を送った。


隼人にとって、私は友達以上にはなりえない存在。ここで私が手を出しても、出される事は決してない…………という悲しい現実。


そういえば、高校卒業した後大学生になってからは、何故か疎遠になった。どうしてなんだろう?あんなに好きだったのに。私、隼人の事諦められたのかな?そうは全然思えないんだけど……。


いつの間にか、呆然とこっちを見ている隼人に訊いてみた。

「最近、どうしてあんまり会わなかったんだっけ?」

「梨理、覚えてないの?」


正直…………何も覚えてない。


「あのね、自分がどうしてここにいるか、全然覚えてないんだよね…………」

「そっか……。」

そりゃ驚くよね。久しぶりに会って、記憶がない~!とか言われても……


「えっと、私、今どうしてここにいるのかな?」


隼人は、僕に聞かれても困るという顔をしていた。隼人もわからない?…………そんな事、ありえる?


隼人の顔を見ても、嘘をついているようには見えなかった。隼人は嘘がつけない。黙っている事はできても、嘘を突き通す事はできない人だった。


だから、何も言えない隼人は、何かを黙ってる。私には言えない事実を。何って何?もしかして?もしかしちゃったりする?


うわ~!どうして記憶がないの~!?思い出せ!!思い出せ私!!既成事実を思い出せ~!!


他に何か手がかりがないか、辺りを見回した。


ここが隼人の部屋…………?何だか殺風景な部屋。全然物がない。間取りは4畳くらいの寝室と、6畳くらいのリビングとキッチンに必要最低限の物があった。


私が部屋をうろうろしていると、隼人は自分の顔を何度も何度も叩いていた。


「隼人、どうしたの?」

「…………夢じゃない……。」

「ねぇ、そんなに顔叩いて痛くないの?」


私がそう言うと、隼人は自分の顔を叩くのを止めた。そして、濡れたタオルを持って、洗濯機の中に放り投げた。


「…………。」

隼人の様子では、何か詳しく聞ける雰囲気じゃなかった。

「…………。」

無言の時間が苦しくて、何だか帰りたくなった。


「あ、じゃあ、私もう帰るね。ここどこ?最寄り駅は?」

「…………巣鴨だけど……。」

「あれ?私、鞄もない。って事は財布も携帯も無いじゃん。隼人、財布と携帯貸して。」


鞄を無くして、隼人の部屋に泊めてもらったとか?


部屋に…………泊まった!?私が?隼人の部屋に?それってもしかして…………うわぁ~!何だか恥ずかしくなって来た!!


隼人は迷いながらこう言った。

「あの、梨理、しばらく…………ここにいてもいいよ。」

「えぇえ!?」

思わず声が裏返った。


嘘!絶対に今すぐ帰れって言われると思った。何?その隼人の反応……?これ、もしかすると、もしかしちゃったりします?


私は勝手に1人で浮かれた。


「えー!も~!隼人、そんなに私に携帯と財布貸したくないの?」

とにかくすぐに帰れって言われないだけで、なんかめちゃくちゃ嬉しい!!


「そりゃ……まぁ……正直そんなの、貸したくないよ。」

そりゃそうだよね。


でも、そこは恋人同士みたいに甘く…………


「え~!やだ~!そんなに私に帰って欲しくないの~?」

「それは…………帰って欲しいけど……。」

そこは帰って欲しいんかい!!


やっぱり隼人に変な期待をするのは止めよう。まぁ、幸い、大学の方は春休みに入って暇だし、もう少しここでねばろうかな~?


隼人はその後、狭いキッチンでコーヒーを入れてくれた。私は1つしかない椅子に座って、テーブルの上のコーヒーを一口飲んだ。インスタントの割にはいい香り。

「隼人の分は?」

テーブルの前で立ちつくしている隼人に気がついた。

「僕はいいよ。カップ、1つだけだから……。」

椅子も1つしかない。私はコーヒーを持ってソファーに移動した。窓際に置かれたふわふわのローソファーがあった。ソファーからは寝室が見えた。


ここなら隼人も一緒に座れる。私は隼人に隣に座るように呼んだ。それでも隼人は、ソファーじゃなく、椅子に座った。


隼人、いつから1人暮らししてたんだっけ?それにしても、この部屋は全部1つだけだった。1つだけのベッドに枕、椅子。そして、1つだけのマグカップ。

「お客さんとか来ないの?」

「うちにコーヒーを飲みに来る人なんていないよ。」


相変わらずだね。その少し困った笑顔。

「じゃあ…………半分こ!」

私は少し飲んだコーヒーのカップを隼人に渡した。


隼人はカップを受けとると、そのコーヒーを眺めた。

「私とシェアは嫌?」


そんなに、まじまじと私のコーヒーを見られると……何だか私が口をつけたコーヒーが嫌みたい。


「そんなに嫌?」

別に強要してる訳じゃないんだけど……。そうゆう所、昔と変わらないんだね。


いつも私が無理やり隼人にyesと言わせてる。それは、いつだって隼人がはっきりNOと言わないから。


私が少しふてくされていると、隼人は笑顔で言った。

「嫌じゃないよ。…………ありがとう。」

そして隼人は、そのコーヒーをゆっくりと飲んだ。


ほらね、やっぱりNOとは言わない。昔から、隼人の考えてる事が全然わからない。


私が隼人の事を好きだって知ってるくせに、受け入れてもくれないし、拒絶もしない。変な奴。


「ここが、隼人だけの惑星?」

「え…………?」

「昔、僕だけの惑星に住みたいって言ってなかったっけ?」


確か小学生の夏休みに、そんな事を言ってた記憶がある。


「僕、梨理にそんな事言ったっけ?」

「言ってなかったっけ?それで、私、妹にイヤホン…………瑠璃!瑠璃に連絡して迎えに来てもらおっか?隼人、携帯!携帯貸して!」

私は妹の事を思い出した。こうゆう時に親より使えるのは瑠璃だ。


「え…………あ…………僕、瑠璃ちゃんの番号知らないんだ……。」

「嘘でしょ!?まさか本気で帰さない気?」

「そうじゃないって。」

でも、でもでもでもでも、男と女が二人きり、1つの部屋に…………


どうしよう!!やっぱり、千載一遇のチャンスじゃない!?既成事実の記憶が無いなら…………作ればよくない?ねぇ?よくなくなくない?


その時の私の頭の中は、天使と悪魔が隼人を襲うかどうかの攻防で混乱した。


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