結子
14
泣き崩れた私の隣で、幽子が泣いていた。
どうして泣いてるの?幽霊のクセに。
その涙の理由は何?
実家の外に出て、帰り道を歩いている時に訊いてみたけど…………相変わらずヘラヘラしていた。
「え?泣いてた?嘘?勘違いでしょ。」
「勘違いな訳ないよね?」
「まぁ…………幽霊だって、悲しければ泣くでしょ。」
だから、その悲しい理由だって。
でも、その涙が嬉しかった。そりゃ私だって、幽子が大切な人を残して死んでたら…………泣くかも。
「そっかでも私、幽子と同じだったんだね。良かった。幽子、これからもよろしく。」
「同じじゃないよ……。」
私がそう言うと、幽子は肩を落として先を歩いて行った。
どうしたんだろう?まあ、同じで良くはないよね。幽子は記憶がないんだから…………
隼人の部屋に帰って、隼人を起こして、隼人にお願いした。
「礼於に会わせて欲しいの。」
それでも、もう一度礼於に会いたかった。
今さら弁解したいとか、そんな事は望んでない。隼人の体で会いに行くなんて、無神経だとは思う。だけど…………これしかない。
「それは…………」
隼人は迷っていた。迷っていた隼人に、幽子が言った。
「私の体、使えば?」
「は?」
私の体?それって、幽子の体って事だよね?え?だって幽子は幽霊…………
「ついて来て。」
そう言って幽子は先に部屋を出た。
「どこへ行くの?」
隼人に止められた。
「幽子がついて来てって。」
「結子?僕も行くよ!」
隼人と二人で、幽子の後をついて行った。
どこへ行くんだろう?
幽子に案内されて着いた場所は、ここから近い所にある病院だった。病室に入ると、そこに眠っていたのは…………幽子だった。
ネームプレートを見ると、幽子の本名は進藤 結子、本当にユウコだった。2歳年下の28歳だった。
「私の体を使って生きればいいじゃない。」
「どうして?」
幽子は…………結子は自殺でもした?
結子の方を見ると、暗い顔をしていた。
「どうしたの?」
隼人が周りを見回して言った。
「結子が、自分の体を使っていいって。」
「よく簡単にそんな事が言えるな……。」
隼人…………?
「誰のせいで梨理が…………」
誰のせいで?隼人?怒ってる?
「わかってる……。」
結子はそう言って泣き出してしまった。
「結子、記憶が戻ったの?」
結子も…………全部思い出したんだ。
その泣き顔は…………
とても辛くて、結子に触れる事ができなかった。
ねぇ、その涙の理由を教えてよ。
それが、たとえ私にとって絶望的な理由でも。残酷な現実でも。
だって私、結子の事だって好きなんだよ?
「梨理、この人は、進藤結子は梨理を殺したんだ。」
結子が…………殺した?何かの間違いだよね?ねぇ、結子!
私は結子の方を見た。結子は下を向いたまま、黙っていた。そういえば、結子は最初、事故を起こしたって言ってた……。それが、私の死んだ理由?
そんなの、今はどうだって良かった。
「それでも、礼於に会いたい。結子、体貸して。」
「ダメだよ。」
「どうして?」
礼於に会うのに、私が結子に殺されたかどうかなんて関係ない。
「梨理、もしかして、関係無いなんて思ってないよね?」
隼人はため息をついて続けた。
「進藤結子はこれから先も、生きて行かなきゃいけないんだ。そのためには、吉高さんに会ったりしちゃいけない。」
結子のため?それは、確かに印象は悪くなるかもしれないけど…………
「大丈夫、結子だってバレ無きゃいいんでしょ?」
「大丈夫じゃない!それに、もし吉高さんに進藤結子だって知られたら?梨理を殺した人だって知ったら?」
「だったら謝る!結子のふりして謝るから!」
隼人は頭を抱えた。頭を抱えて言った。
「それで済む訳ないよね?謝って済む問題じゃないんだよ。」
じゃあ、どうしたらいいの?
「吉高さんが殺意を覚えて、進藤結子を殺めたら?梨理は吉高さんを人殺しにしたいの?」
「礼於はそんな人じゃない!」
「どうしてそんな事が言い切れるんだよ!残された者の気持ちなんか、少しも考えてないクセに!!」
隼人…………!!
確かにそうだ……。私は、残された人の事なんか、何も考えてはいなかった。礼於はもう、私に会いたいなんて思ってないかもしれない。
「じゃあ…………私は何のためにここにいるの?」
隼人の体でも、幽子の体でも、会いたい人に会いに行く事はできない。それなのに…………
そんなの…………死んでるのと同じ。
相手の事を思えば、会う事は許されない。それはわかってる。だけど私は、私の意識だけは…………
ここにいる。
それはどうして?




