理由
11
吉高 礼於…………隼人の話では、婚約までした人。
隼人に説明されて、急に色々な事を思い出した。特に、礼於の事。
礼於は2歳年上で、出会った時には大学院生だった。礼於の部屋は色々な人が出入りしていて、学生の溜まり場みたいな所だった。
あの夜は、結局どうして鍵を持ち逃げしたのか理由を聞かせてはもらえなかった。聞かせてもらえなかったと言うより、聞かなかった。
あの夜は、えげつないほど化粧の濃いおネエや、骸骨みたいに痩せたゲイの男の子、モデルみたいにかわいいのに毒舌な女の子、男女の区別がつかない謎のオタク…………礼於の部屋には、色々な人がやって来て、色々な人と話をした。
みんな見た目はあれだけど、話してみるといい人達ばかりだった。
礼於の言う通り、礼於みたいな人って決めつけてたけど…………実際はどんな人か知らない。
知りもしないのに、どうせ関わらないだろうと決めつけてた。
今は…………少し、知りたい気がする。
急に大きな声を出したり、バカやってみたり、いじられたり、また乾杯してる……。それ、何杯目?ショットグラスを手に持って、みんな真っ赤な顔をしていた。
「お土産のウォッカ、飲む?」
「飲む訳ないよね?」
今目の前にいる、自由でバカみたいな、この人の事を…………もっと知りたい。
飲み疲れて、いつの間にか寝ていた。目を覚ますと、明け方だった。
辺りを見回すと、みんながあちこちで雑魚寝をしていた。
肩にかかっていた誰かの腕をどかすと…………その腕は、あいつだった。すぐ隣に、あの男……礼於が寝ていた。
私が起き上がろうとすると、腕を引っ張られて、再び隣に寝かされた。私は無理起き上がった。すると、礼於もゆっくりと起き上がった。
「理由、そろそろ教えて欲しい?」
礼於はその時、完全に目が覚めていた。その獅子のような強い視線から、目が離せなかった。
「理由……?」
その理由を知ってしまったら、これでおしまい?これで終わり?
そんなの嫌。
「今はまだ…………知りたくない。」
「ええっ!」
礼於は驚いた後、困っていた。それが、何だかおかしくて笑った。
「じゃあ……俺の事は?」
「吉高さんの事?」
「礼於。」
礼於と呼べと直された。
「礼於の事はもっと…………」
「もっと?」
答えを急かされた。
だけど、私はゆっくり、しっかりと告げた。
「…………知りたい。」
そう言った瞬間、突然キスをされた。強引で、お酒とタバコの味がする、甘酸っぱい初恋の味とは程遠い…………大人の味だった。
今思えば、それが『理由』だったのかもしれない。
鍵を持ち逃げしたのは多分、私を罠にかけて…………
礼於の事を『知りたい』と言わせるため。
少し知れば、もっと知りたくなった。もっともっと知りたくなった。それから私は、色々な事を知った。礼於の好きな物、嫌いな物、誕生日、家族の事、友達の事、将来の事。
知れば知るほど、まるで沼にハマるように、礼於に浸かっていった。
私達はいつも笑っていた。いつもいつも、笑っていた。何が面白いのかわからないまま、ただ幸せで、ただただ、笑顔だった。
「何笑ってるの?」
「そっちこそ。」
「礼於が笑うから。」
「そっちこそ。」
礼於はキスをする時、手を繋ぎたがるクセがある。それを手で叩くと、いつも笑い出す。キスの途中で笑い出すってどうゆう事!?けしからん奴!
それに、後ろから背中に抱きついて、脇腹をくすぐると、目尻を下げて笑う。
だから…………背中なんだ。
私は礼於の姿をみつけると、いつもその後ろ姿に抱きついた。
「礼於!」
「おいおい、俺はニャンまげか?抱きつくならこっちだろ?」
そう言って礼於は手を広げた。私はいつもその手を叩いた。
そうか…………私、その背中が好きだったんだ。
振り返った後の、その笑顔が好き。
礼於が…………好き。
味気無い私の中に、強い塩味がついた。それは、甘い甘い塩味だった。
その事を、やっと思い出した。
何故礼於を好きになったのか、その理由だけが鮮明に残っていた。でも、今は?今の事は…………まだ思い出せない。




