さくらのきおく
ねぇ、どうして泣いてるの?
どこか痛いの?
誰かに傷つけられた?
大事なものが壊れた?
大切な何かを無くした?
お腹がすいてるから?
腹が立ったから?
悲しい?
苦しい?
悔しい?
寂しい?
ねぇ、その涙の理由を教えてよ。
だって私、あなたの事が好きなんだもの。好きだから、どんな事も分かち合いたい。
だから…………
その涙の理由を教えて。
1
空を見上げると、目映い光が見えた。星…………?
よく見ると、明かりの灯された満開の桜だった。夜桜は、まるで夜空に煌めく星のようだった。
桜なのか、星なのか…………今の私にはどうでもいい事だった。何故か、桜が滲んでぼやけて見えていた。目を凝らすと、そのうちにはっきりと光輝く夜花が見えるようになった。
風が、撫でるように桜の木を揺らしている。なんてきらびやかなステージなんだろう?
静かな夜の空に、花は歌うように揺れ、葉はその美しさに喝采を送るようにざわめいていた。
その、降り注ぐ拍手のようなざわめきだけが…………耳に残った。
夢の世界か現実の世界かわからなくなるほど、恐ろしく綺麗な桜だった。
何だか…………怖い。
それでも否応なしに、視線を奪われる。
その桜から視線を外せない。まるで、あの空に自分自身が吸い込まれてしまいそうだった。
だから…………桜は嫌い。
「リリー!」
どこからか、誰からか、名前を呼ばれた気がした。
「梨理!!梨理!!」
リリ?それ、私の名前…………?
そういえば、誰かがこんな事を言っていた。
「梨理はリリーみたいだ。白くて美しい、百合の花みたいだ。」
うわ~!ちょっと何それ、最悪!マジ冗談キツイ。鳥肌物だよ!え?誰の言葉?どこぞのホストの口説き文句?
そんな恥ずかしい台詞、よく普通に言えちゃうね?
そんなあんたが…………あなたが…………あなた…………誰?
そんな痛い人、私は知らない。
いや、そうゆう意味じゃなくて、本当に。
何も思い出せない。
ぼんやりと、その存在はわかるのに、今は何も思い出せない。でも、私の事をリリーだと言うあなたは…………
きっと、この世のどこかにいる。そんな気がした。