表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第五章 炎と鋼の国「シュタールラント」
96/369

第11話 火花散りて禍招く

吹き過ぎる風は火山独特の臭いと熱を帯び、私達の頬を撫でると目深に被った頭巾を払い除ける。私は溜息をつくと遥か頂上に造られた街を見上げ、眩しい日差しに目を細める。

ヘルガに対する意見は皆、十人十色と言った感じだったが、特にセレスに変身術を教える姿を見ていたソフィアは腑に落ちない様子だった。それにしても祝福の儀を受ける前に使用できる術とはどんな物なのだろうか?潜在能力の様な物なのかな?

ヘルガの発言や行動に真実が有るか、不信感は拭えないが(いず)相見(あいまみ)えた時に知る事になると思いたい。

坑道へ続く道を外れ、ギルド長の言う通り北東の山道を登ると、次第に開けた場所が見えてくる。其処に偵察役を買って出ていたソフィアがゆっくりと静かに私達の傍に降りて来た。


「あまり高く飛べませんでしたが、約束場所に祭殿の方と思わしき姿を確認しました。ただ、不審な馬車が・・・」


「馬車・・・?わざわざ祭具を買い取る為に?」


相手方も受け取るものは祭具だと知らされている筈だ。それに人の手が入っているとはいえ、足場は平坦とは言えず斜面もきつい。おまけに馬への負担も大きく、避ける様な気がするが・・・

皆も私と同様の考えだったようで頷くと、ふむと唸る様に呟き思案顔を浮かべる。そんな中、ファウストさんが沈黙を破り口を開いた。


「此れで、罠は確定か?・・・どうする?」


「んなの、行くしかないだろ?」


ダリルは片方の手の平に拳を打ち付けながら、当然の様にニヤリと口角をあげる。


「ああ、そうだな」


ファウストさんは静かに頷く。


「さあ、此処で足踏みをしている場合じゃ無いわ」


ケレブリエルさんは杖を掲げると、行先を差し皆を誘導する。私達は赤褐色の道をゆっくりと登る、開けた場所へ出た所で相手と目が合った。

馬車の前には祭服を纏った男性が二人、此方を見るとわざとらしく人のよさそうな笑顔を向ける。


「此れはこれは、この様な時期に御足労をおかけし申し訳ございません。私はニクラウス、隣の男はライムントと申します。本日は此方の事情を察し取引を持ち掛けて頂き、心より感謝しております。失礼ですが、後をつけられる等は・・・?」


ニクラウスは私達を値踏みする様にねっとりと見回す。私はその視線が別の所に向けられているのに気が付き、背負子のベルト部分を強く握り半歩だけ後退る。


「きちんと注意を払いましたのでご安心下さい」


正直にそう答えるが、ニクラウスの後ろ斜めに立つライムントが無言のまま手を伸ばした。何?握手??私が困惑していると、男性は苛立った様子で詰め寄って来た。


「おい!女!さっさと祭具を渡せよ。俺等も暇じゃないんだわ」


「レディにそう言う態度は感心しないな!其方は取引じゃ無く、()()をしにきたのか?」


フェリクスさんは私の前にでると、伸ばした腕をとり不敵な笑みを浮かべる。ライムントは顔を(けわ)しくすると舌打ちをし、ずかずかと馬車へ近づき中から木箱を取り出し乱暴に地面へと置く。

其れを見てニクラウスは溜息をつくと頭を抱え、私をじっと見つめる。


「代金は御用意いたしました、祭具を此方に引き渡して頂きませんか?」


「・・・その前に中身を確認させて頂いても?」


罠と解っている以上、はい用意しましたで引き渡すなど了承できるはずがない。此処で相手が如何出るかを見たいのもある。それに、危険な取引に協力してくれたギルド長との約束もあるからだ。

反応を窺うと、ニクラウスは眉間に皺を寄せ目を細める。


「ほう・・・其方から取引を持ち掛けておいてその仕打ちですか?」


ライムントはニクラウスの言葉を聞くとニヤリと大きく口角を上げ、着ていた祭服を脱ぎ捨てた。すると、肩に彫られた文様が光り肩から拳にかけて風が巻起る。


「おっし!話が通じねー奴には、やっぱりこの手に限るっしょ!」


どっちが通じないんだかと言いたいが、そうも言っていられないらしい。予想通り馬車からは次々と増援が現れる。だが、増援は其れだけではなかった。岩場の影から空から竜人(ドラゴニュート)達が次々と押し寄せ私達を取り囲む。


「此れは想定外ね・・・」


周囲を見渡すケレブリエルさんの口角がヒクリと痙攣(けいれん)する。

地上は私達を囲むように数十名で円陣が組まれ、空にも数名が旋回し、完璧な包囲網を作り上げている。


「お兄さん・・・・どうせなら、美女の胸の中で最期を迎えたかったなー」


フェリクスさんは剣を引き抜くと、気だるげな表情を浮かべる。


「・・・こんな時に何を言っているんですか」


緊張感の薄れる言葉に若干呆れつつ、私も迫る敵に向けて鞘から抜いた白刃を日の下で閃かせる。

しかし、降り注ぐ日差しは一瞬で陰りを見せる、ファウストさんの土人形(ゴーレム)が身を(てい)すように私達を庇い、空から降り注ぐ手槍の一部をその剛腕で振り払った。

振り払った手槍は地上から攻める兵士達の行く手を阻み、一部はその命を貫き、相手への牽制(けんせい)となった。だが、その効果はやはり弱者のみで強者は臆する事なく屍を踏みつけ迫りくる。


「君達、如何やらふざけている暇は無いようだぞ・・・」


この六人で何処まで降りかかる火の粉を散らせるか、此処で終りだなんて諦める程、皆お人好しではない。

罠と解りつつ皆を巻き込んだこの戦い、何としても活路を見出さなければ。



***********************************



ファウストさんのゴーレムで地上から迫る兵を減らし、操者であるファウストさんから敵の目を逸らす為に私とダリル、そしてフェリクスさんが潜り抜けて来た兵士を薙ぎ払い、ケレブリエルさんとソフィアで援護をする。大分数は減らせたが・・・


「何だってんだ此奴ら・・・」


ダリルは歯を食いしばり、拳を強く握るとライムントと同様に腕に彫られた文様が光ると、其れをなぞる様に火が渦を巻き燃え上がる。何度か垣間見た竜人の頑強さには骨が折れるものだ。

それでも止まぬ勢い、このまま体力と魔力を消耗すればこの陣形は崩壊しかねない。


「隙を作りしだい道を開いたら、其処を駆け抜けるしかないわ!」


周囲は赤褐色のゴツゴツとした岩々、其れに複数の赤黒い染みを作りながらも立ち上がろうとする(つわもの)たち。このままではリンドヴルムへ侵入し、セレスの居場所を発見次第、連れて帰るつもりだったが、雲行きが怪しくなって来た。


「成程ね、了解!天を舞う(いかづち)よ 我が剣に寄りて 雷鎚(らいつい)を下さん 【雷槌牙】!」


フェリクスさんの双剣に天から光が収束し、バチバチと光の帯が生き物の様に(うごめ)き振り下ろされる。視界を覆う程の閃光は敵を穿つ様に消し去るが、相手もただではやられなかった。兵士が一塊となり岩の大盾で防いだ為、思う程の効力を発揮できなかった。それでも、障害物は減らす事が出来ただけ上等ね。


「空は私に任せなさい。天に満ちる風よ 寄りて渦巻き 無数の矢とならん 【風霊矢(ウィンドアロー)】!」


ケレブリエルさんに渦巻く風は無数に散り、空を飛ぶ全てを射抜き兵士が流星の如く地へ降り注ぐ。

二人に感謝しつつ共に希薄になった部分を目指し山肌を駆ける。だが、予想もしなかった事態が巻起ってしまった。


「皆さん、更なる増援です!再び取り囲まれました!」


私達を支援しつつ、後方を走っていたソフィアから驚きと恐怖が入り混じる声があがる。すっかり増援は無い物だと過信していた。焦る気持ちを奥歯を噛みしめ、祈る様に剣の柄を握ったその時だった。


『儂が主らを救おう』


聞き覚えのある声が耳に響き、私とファウストさんは振り返る。白く長い髭を蓄え、大地を表す文様の入ったローブを纏う老人、土の精霊王(ノーム)が姿を現した。水の精霊王(ウンディーネ)と言い、何故に次々と顕現されるのだろう?

しかし、問いかける間も無く、その視線は私ではなくファウストさんへと向く。


「我が信徒よ何をしておる!仲間を守らんか!」


突然の事に驚愕し声も出ない状態の様だったファウストさんだったが、土の精霊王に呼びかけられ我に返ったのか、力強く一回だけ頷くと詠唱を始める。


「大地に宿りし精霊よ その慈愛を持ちて 我等を其の(かいな)に抱かん 【大地の抱擁(アンプレクスス)】!」


詠唱が終わると同時にファウストさんの土人形(ゴーレム)が山の如く巨大になったかと思うと、包み込む様に私達を掬い覆い被さる。何事なのかと一同揃いファウストさんと土の精霊王の顔を交互に見る。土の精霊王は満足そうに頷くと、私を見て微笑む。


「如何やら、世界はお主を選ぼうとしている様じゃ。儂は世界の望み(ソレ)に従ったまでよ」


世界が私を選ぶ・・・?

困惑する私に「案ずるな」とだけ土の精霊王は言うと地面に降り杖を突くと念じる様に瞼を閉じる。

大きく大地が揺れ、周囲から驚きと恐怖の入り混じる声が響く。

恐るおそる隙間を覗くと、大量の巨岩が落雷の様な音と共に竜人達を薙ぎ倒し、押しつぶしながら地面を砕き押し寄せていた。逃げ惑う者達の阿鼻叫喚が響く中、ボコっと嫌な音が僅かに聞こえ、私達を抱え込んでいた土人形が沈み出す。


「・・・・なっ?」


今度はファウストさんの困惑と驚愕の声が漏れる。その視線はゆっくりと地面に立つ土の精霊王に向けられる。


「うむ・・・儂の言った事を肝に銘じておれば大丈夫じゃよ!」


その言葉を皮切り地盤沈下が進み、私は既視感を覚える。そして直後に訪れる垂直落下。


「またーー!!!!」


私の叫びは空しく、続く皆の声と共に虚空に響いた。

今回も当作品を最後まで読んで頂き、誠にありがとうございます!


進んで罠にはまって散々、苦戦した挙句に再びアメリアに起きた垂直落下。

土の精霊王から意味深な言葉から、気付かない所で徐々に何かが進行している様です。

果たして、アメリアはセレスの救出を含めた様々な問題を解決できるのでしょうか?

それでは、次回に続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ